お米しかない? お米があるじゃないか!
「#新潟のコメジルシ=新潟のいいところ」ってどんなところ?
「だから新潟!」と、新潟を選びたくなるいろんな理由を新潟の人たちに聞いてみました。
新潟を離れて初めてわかった「お米」の美味しさ
生まれて初めてごはん(お米)が「まずい」と感じた。それは大事件でした。
大学進学のために上京してすぐの頃、アパートの近くの弁当屋で買った唐揚げ弁当のご飯がまずくて食べられなかったのです。しばらくその事態が飲み込めず、食事を残すなんて男の恥だと思って生きてきた昭和の人間は、その弁当を前に呆然としていたのをよく覚えています。
それまでごはん(お米)は空気のように当たり前の存在で、おいしいとかおいしくないとかそういう感覚もなく、お腹を満たすという目的でモリモリ食べて成長してきました。 親元を離れ、自炊がちょっと面倒で購入した弁当に、新潟県産コシヒカリの偉大さを教えてもらった18歳の春でした。
※いろいろと技術が発展した現在では、どこのお弁当屋さんでもそんなことはないと思います!
新潟でカフェを始めた理由
私は現在、新潟市美術館でカフェをやっています。〈こかげカフェ〉というお店です。
コンセプトは「卵・乳製品不使用」の新潟県産小麦を使ったベーグルカフェ。決して意識高い系を狙っている訳ではなく、食物アレルギーで外食ができないファミリーに配慮してのことなのです。
そんなお店を始めたのは、自分の子供に食物アレルギーがあることがわかったから。それまでの日常生活が一変してしまったのです。
スーパーでの買い物は原材料のチェックにそれまでの倍以上の時間がかかるようになり、外食でも提供側との食材の確認が思った以上に大変な上、確認したのに提供されたものを食べて具合が悪くなってしまうことも何度かありました。自然であるはずの「食べること」がリスクを孕む行為になってしまいました。まだ小さい子供と出かける時は、自宅でおにぎりなんかを作って外出先でも安全に食事が取れることを最優先とし、どんな食材が使われているのか、口にするもの全ての確認をしなければならない飲食店での食事からは、その煩雑さから次第に足が遠のいていったのでした。
カフェをやろうと思ったのは、食物アレルギーを持つ子供たちやそのファミリーにも、外食の機会は社会経験として必要だと身を持って感じたから。なによりアレルギーがある子供にとっても「食べる」という行為がリスクがあるだけではなく、本来は「美味しい」もので、お友達と一緒に「楽しい」時間を過ごせるんだという体験を増やしたいという想いで立ち上げました。幼稚園でのお誕生会で、一人だけみんなと同じケーキを食べられないなんて、親としては相当にショッキングなことでした。
これまで7年間とちょっと、お店をやってきた中で、食物アレルギーに理解のない方からの心ない言葉もありましたが、自分と同じような境遇の方々、多くの種類の食材を食べられない方、症状の重い方も、見た目ではわからないけど実は困っている人が思っていたよりもたくさんいることに驚きました。
さらに驚いたのは、私のお店の噂を聞きつけて連休や夏休みなどには県外からもわざわざ訪れるファミリーが何組もいたことです。自分に置き換えてみればそうかもしれません。そこに安全においしく食べられるものがあるのならば、少し遠出しても行ってみたい!と。
ママさんの一言から新たなチャレンジ
ある時、来店されたママさんとお話をした際に「今度は小麦を使わないお店をやってほしい」と言われました。それは、お子さんが乳と小麦にアレルギーを持つママさんでした。
「卵・乳製品不使用」をコンセプトに決めたのは、0歳児が発症する食物アレルギーの約8割が卵・乳の2種類で占められているというデータがあったから。小麦はその次の3番目に多い食材で(*最新のデータではナッツ類が増加して順番が変わりました)、食物アレルギー界隈ではいわゆる「3大アレルギー」と呼ばれているのです。
「そうだよね。小麦不使用のお店なら、もっと多くの人が同じものを一緒に食べられるんだよなぁ」と思いながらも、〈こかげカフェ〉の看板商品である新潟県産小麦を使ったベーグルもそれなりに認知されてきてるし、せめてスウィーツだけでも小麦を使わないで作ってみようか?と思い、色々と調べ始めて目についたのが「米粉」でした。
米粉だったら新潟にもあるじゃん!と米粉を探し求めて試作を始めましたが、これが思った以上に難しい。レシピ通りに作ってみても、これまで食べてきたケーキやパンには程遠い出来上がり。3大アレルゲンとされる食材が、一般的な食材としてはどれだけ優秀なものなのかを思い知らされ、何度もくじけそうになりました。
過去に米粉に注目が集まったことがありましたがあまり盛り上がらなかったのは、「小麦の代替品という位置付けが良くなかった」という説がありますが、それも納得の、うまくいかなさだったのです。
近年では「グルテンフリー」がアスリートの間でも注目され、SNS上でも米粉研究家なるアカウントがたくさん登場しています。米粉を使ったレシピも米粉自体も進化してきており、最近では〈こかげカフェ〉のスウィーツも「卵・乳製品・小麦不使用」を基本として考えるようになりました。
2019年には、米粉パンの製造にも挑戦し始め〈おこめパンのお店★ちいさなほし〉をプロデュースし、〈こかげカフェ〉のベーグル製造も委託している新潟市内にある社会福祉法人さんと一緒に取り組んでいます。
新潟の米粉事情はというと…?
現在の日本での米粉事情をみてみると、熊本から〈ミズホチカラ〉という新規需要米(そのまま主食として食べたり加工されたり以外に使われるお米)から製パン用の米粉が開発されて高評価を得ており、米粉パンを作っている人の中では知らない人がいないほどの知名度となっています。そのおかげもあり、自宅でグルテンフリーの米粉パンを作ってみたいという人も確実に増えてきています。
あれ?新潟の米粉はどうなってる?
調べてみると、新潟県も黙って指を咥えていただけではありませんでした。新潟県では、県の食品研究センターが中心となって、高品質な米粉の製造方法の研究を重ね、特別な微細製粉技術(二段階製粉・酵素処理製粉)を開発していたのです。〈コシヒカリ〉の米粉でも製菓用というものも販売されるようになりました。
調べている中で発見したのが〈コメパンマン〉なる、〈アンパンマン〉の生みの親・やなせたかし氏の描いた新潟県の米粉PRキャラクター。 これは、新潟県産米粉を使うしかないですよね。
それまで「新潟には酒と米以外にも旨いものはたくさんある!」という裏テーマを密かに胸に掲げて、新潟県産小麦や枝豆、〈越後姫〉、〈ル レクチエ〉などを色々と使用してきたのですが、現在では「お米には低アレルゲンとしての付加価値がある!新潟の米粉でその付加価値を広めたい」に変わったのです。
これから、お米の県として
世界にも誇れる新潟県産米の米粉となればイメージも良い。勝手に「#新潟グルテンフリー」というハッシュタグでSNSに投稿したり、「NKGF」(Niigata Koshihikari Gluten Freeの頭文字)という謎のシールを焼き菓子に貼って販売もしているところです。
食物アレルギーに関する地元の情報が少ないことや、同じ境遇の人と繋がる機会が少ないことから、昨年食物アレルギーのローカルオンラインコミュニティ〈にいがたテーブル〉を立ち上げました。その中では食物アレルギーの家族でも安心できる近隣の飲食店情報や、「今度初めてアレルギーの子供を連れて上京するんですけど、皆さん食事はどうされていますか?」というような相談投稿もあります。
旅先を選ぶ際に、食も大きな要素ですよね。食物アレルギーや他の理由で食事が制限されている人にとっては最も重要なポイントの一つです。
新潟県には日本一お米が美味しいという、良いイメージでのアドバンテージがあります。新潟の米粉をもっと活用して、さらに食の面でPRするといいのにな、とも考えています。これから県内の交流人口を増やしていくためにも、お米の美味しさに加えて「低アレルゲン」「グルテンフリー」「ヴィーガン対応」「ムスリムフレンドリー」などといった世界的にも受け入れられやすい付加価値を活かし、食の多様性にも対応できる優しい県を目指してほしいと思っています。和食が海外でも受け入れられているのは、実はそういった事情もあるのではないでしょうか。切り口を変えて打ち出せば、きっとこれまでの美味しいイメージに新しい価値をプラスできます。
実は今、米粉から作るライスミルクを主原料としたジェラートを開発中です!
米粉からお米の甘みを引き出すことで、お砂糖など他の甘味料を使わなくても驚きの甘さが出せるのです。なんとも新潟らしい食材だと思いませんか? 早く皆さんのお口にも届けられるように、頑張っています。
さあ、お米大国・新潟から、新潟米粉の価値をアップデートさせましょう!
*出典:
消費者庁「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」(令和3年度)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_220601_01.pdf
編集部コメント
「県外でお米を食べて、初めて新潟のお米の美味しさを知る」これは、新潟出身者ならではの、カルチャーショックではないでしょうか? かく言う私も、その一人。修学旅行先での衝撃は忘れられません。それほど食に恵まれた新潟だからこそ、アレルギーを持つ人にとって安心して食事をすることができる場所や、情報共有のできるコミュニティがあることは、必要なことだと感じました。アレルギーを持つ人へ食の楽しさと安心を発信している若山さんのような方の存在こそ、「新潟のコメジルシ=新潟の魅力」かもしれませんね!(金澤)