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新潟県酒/おさけ2023.09.12

日本酒を通して地域の暮らしに想いを馳せる
新潟県に残る日本酒の多様性

「#新潟のコメジルシ=新潟のいいところ」ってどんなところ? 
「だから新潟!」と、新潟を選びたくなるいろんな理由を新潟の人たちに聞いてみました。

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樺沢敦 さん
1979年生まれ、地元は新潟県長岡市。2004年の中越地震をきっかけにUターンし、地元中小企業向けのマーケティング支援、NPO法人や中間支援組織での地域をつなぐコーディネーター事業を経て、2015年に株式会社FARM8を設立。地域資源の活用をテーマにさまざまな事業開発を実施。2019年から津南醸造株式会社の代表にも就任。未来に酒蔵のある暮らしを目指し、他酒蔵の連携と国内外に向けた日本酒事業を展開中。

地酒を通して地域の風土や暮らしを垣間見る

透き通る日本酒を見つめると、ぼんやりと造られた地域の姿が見えてくる。
合理化が進む世界で奇跡的に多様性を守った日本の酒蔵は、地域を映す鏡だと思います。

新潟県は全国最多89の酒蔵数をほこりながら、その製造量はTOP兵庫県の約3分の1程度。
大量生産を追い求めて工業化した蔵ではなく、小規模な酒蔵が地域ごとに根付いているという証でもあります。

さらに、いろんなデータを見てみると、新潟県は成人一人あたりの日本酒の消費量も全国でダントツ1位。

なぜ新潟県はこのような特徴的なデータを持っているのか。
その理由を探るために、地元の暮らしや文化に目を向けて考えてみます。

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新潟県が多くの酒蔵を抱える理由のひとつは、気候風土と暮らしに深く関わっていると思っています。

新潟県は豪雪地帯で、毎年決まって雪が降る。
家の前だけ雪かきをしてても道ができないから、隣近所の分も雪を掘る。
屋根の雪おろしだって捨て場を共有しなきゃいけないし、滑って危ない屋根には高齢の人を登らせられないから若手が率先して屋根に登る。
そもそも助け合わなきゃ雪の中で暮らしていけないってのが普通の暮らし。

隣の家を手伝って、親戚の家を手伝って。そのまま帰すわけにはいかないのが新潟人。

「わぁりかったねぇ。どうだい一杯のんでってくらっしぇ」

おたがいさま。
おかげさま。
おつかれさま。

助け合い、労いの言葉と共に出てくるのが日本酒です。
酒の消費量が多いということは、裏ではこんな会話を交わす回数が多いともいえます。まさに酒は助け合いコミュニティの鎹(かすがい)的な存在です。

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米どころ新潟県は稲の豊作を願ったお祭りが盛んです。
なんてったって神社の数も日本一多いわけだから、祈りの数も日本一。

隣の父さんも日本酒好きなんだから、きっと神様も日本酒好きだろう。祭りになれば酒を酌み交わす人たちが、夜通し楽しい宴が続きます。

祭りの形はコミュニティごとに違うけど、酒の出ない祭りはないはず。
地域に酒蔵があることが多いから、そこで造られた地酒を楽しむ。

日常的に飲むお酒は賞を取るような大吟醸酒ではなく、毎日でも食事に合わせてリーズナブルに飲める日本酒が一般的。 ここで飲まれる酒こそが地酒と呼べるんじゃないかなと思います。

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日本酒を野球で例えるなら、製法を指定され特定名称酒として品評会に出すようなお酒はいわば甲子園のエースたち。強豪校は全国からエリートを揃えて試合に挑みます。

でも、野球好きのおじちゃんたちに鍛えられた地元の選手は、勝つことだけじゃなくその努力や汗が地域に活力を与えてるんじゃないかと思ってます。地酒ってそんなポジションな気がしますね。

その地で暮らす人たちの近くに酒蔵が残ってるってことは、その地域の暮らしや文化に日本酒が寄り添っている証拠。なんなら、夏は農家で冬は酒造りっていう人もいるから、作り手と飲み手は一心同体みたいなもの。だからコミュニティごとに日本酒は違う味になっていくのも納得です。

お酒を飲むとき、この日本酒にはどんな背景があり、どんなコミュニティがあるんだろう。地酒を通して、助け合いや労い、祝いの宴などその地域の暮らしが透けて見えてくる。

小規模な酒蔵が多く残る新潟県は、まさに最高な多様性を残した世界に誇る地域だなと。地酒を飲む度にそう思います。

日本酒を通して見る、その地域の風土や文化

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この日本酒の多様性を100年後にも残していくには、やっぱり地元で飲む人がいないといけないですよね。地域とコミュニティがつながって「どうだい1杯?」っていう言葉を大切にしていきたいと感じます。

多様な地域に多様な人がいて、多様な日本酒に囲まれる。これだけ合理化が進んだ世の中で、贅沢なことだと思いませんか。

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新潟県の酒蔵は、次の世代へと受け継ぐために新たな挑戦を恐れず、進化し続ける必要があるのも事実。でも、その根底には地域との深い結びつき、日本酒を通じて育まれたコミュニティの絆があるということもまた、揺るぎない事実であり文化です。

日本酒を伝えることは地域を伝えること。
新潟県の89蔵で同じ酒はひとつもない。
同じ新潟県といえども同じ地域などないのだから。

その背景に思いを馳せて、今日も私は日本酒をいただきます。


編集部コメント

新潟県の日本酒にまつわるデータから、地域の暮らしや文化について紐解いてくださった樺沢さん。樺沢さんの日本酒愛とともに、新潟の日本酒の奥深さに隠された背景を知ることができました。
記事の中でも印象に残ったのは「日本酒を伝えることは地域を伝えること」というフレーズ。日本酒を通して、その裏にある地域の文化やコミュニティの絆が残り、伝わっていく……こんなに素敵なことはないですね。私も新潟人として、その流れに加わりたい!まずはじめに、「どうだい1杯?」から実践していきたいと思います!(齋藤)