フォンテ谷井さん-2
長岡市食/ごはん2025.09.09

長岡の「おもてなし」は、時を超える。

「#新潟のコメジルシ=新潟のいいところ」ってどんなところ? 
「だから新潟!」と、新潟を選びたくなるいろんな理由を新潟の人たちに聞いてみました。

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長島遼平(ナガシー) さん
〈にいがた旅キャン〉アウトドアレポーター/新潟県地域おこし協力隊
茨城県出身。英会話スクール講師、カウンセラーを経て新潟県長岡市に移住。新潟県版地域おこし協力隊の二期生として着任。カナダ留学中のプレゼンテーション大会での経験や講師としての経験を活かして、キャンプ場紹介企画から動画編集をこなし、YouTubeでの新潟アウトドアの魅力発信、誘客拡大に取り組む。趣味は焚き火・モルック・日本酒。アウトドアライフ専門店〈WEST長岡店〉に所属。新潟県観光協会地元ライター。ナガシーの日々の活動はSNSやnoteで発信中!YouTube『WESTアウトドアTV』のチャンネルにてにいがたキャンプ配信中!

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焚き火のように、じんわりと心を温めるおもてなしの地

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長岡の魅力は、夏の夜空を彩る、大きくて美しい「花火」だと思っていました。移住する前の私にとって、それは鮮烈で、一度見たら忘れられないけれど、どこか遠い存在。しかし、この街で暮らし始めて気づいたのは、長岡の本当の魅力は、むしろ静かに燃え続ける「焚き火」のような温かさにあるということ。

季節を問わず、じんわりと心に沁みてくる、おもてなしの炎。そんな長岡の温かさに触れたのは長岡に移住する前の旅でのこと。

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その驚きに満ちた旅の、最初の扉を開けてくれたのが、長岡の日本酒でした。長岡に来て初めて訪れた居酒屋で、メニューに並ぶ無数の地酒に圧倒されたのが始まりです。16もの酒蔵がこの街にあると知り、僕は宝の地図を手に入れたような気分になりました。そして、その探求の旅は、単に多くの銘柄を味わう以上の、深い物語との出会いでもありました。

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ある週末、私は味噌や醤油の香りが漂う醸造の町〈摂田屋〉を訪れました。そこには、新潟県最古の酒蔵である〈吉乃川〉が、470年以上の歴史を背負って堂々と佇んでいました 。戦国時代から続く蔵と聞き、私は揺るぎない伝統の味を想像していました。

しかし、そこで知ったのは、伝統を守り抜くことと、革新を恐れないことが両立するという哲学でした。昭和の名杜氏の技を脈々と受け継ぐ一方で、業界に先駆けて大型タンクでの醸造を導入したり 、近年では酒ミュージアム〈醸蔵〉をオープンさせたりと 、常に新しい挑戦を続けているのです。歴史の重みと未来への軽やかさが同居する一杯に、僕はすっかり魅了されました。

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また別の日には、日本の酒造りの歴史を変えた蔵が長岡にあると聞き、〈お福酒造〉を訪ねました。

創業者である岸五郎氏は、杜氏の勘と経験に頼るしかなかった時代に、化学的なアプローチで酒造りに革命を起こした人物 。彼が発明した「速醸仕込み」は、腐造のリスクを劇的に減らし、安定した酒造りを可能にしました 。今や全国のほとんどの酒蔵が採用するこの技術の元祖が、ここ長岡にあったということ 。470年の伝統を守り続ける蔵と、化学の力で業界全体を前進させた蔵。この二つの物語に触れた時に気づきました。長岡の16の酒蔵は、それぞれが全く異なる個性と哲学を持つ酒蔵だということ。この尽きることのない探求こそ、いつでも訪れる人を楽しませたいという、長岡流のおもてなしだと感じました。

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そして、長岡の本当の温かさを教えてくれたのが、雪深い長岡・山古志地域で出会った、定食でした。一面の銀世界が広がる真冬の日、「この季節、食べられるものなんて限られているだろう」という私の浅はかな想像は、見事に裏切られます。

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冷えた体を温めようと立ち寄った農家レストラン〈多菜田〉で運ばれてきたのは、品数が多くてボリューム満点、見るからに温かい定食でした。そして何より驚いたのは、その定食の一角に、春に旬を迎えるはずのワラビなどが、冬の季節を忘れさせるかのように誇らしげに鎮座していたことでした。

狐につままれたような顔の私に、お店のお母さんは「春に採れたものを塩蔵(えんぞう)しておいたんだよ。冷蔵庫がなかった時代から続く、昔からの知恵。雪深い冬でも、わざわざ訪ねてきてくれたお客さんに、この山の恵みを少しでも味わってもらいたくてね」と、にこやかに教えてくれました。驚きはそれだけではありません。お味噌汁に入っているこんにゃくは芋から手作り、カボチャは自分たちが安心して食べられる自家栽培。ピーマンに似た神楽南蛮や、大根のような農魂(ヤーコン)という珍しい野菜も並びます。

「農家の魂を込めて大事にしようって、みんなでそう呼んでるの」と語るお母さんの言葉に、一つひとつの食材への深い愛情を感じました。

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どうしてここまで地元食材にこだわり、手間ひまをかけるのか。そのわけを尋ねると、お母さんは少し真剣な眼差しで、山古志地域を襲った地震のことを話してくれました。

「あの時、当たり前の暮らしがあるわけじゃないって、心から実感したの。だから、『何か山古志で作りたい』『この土地の自然の恵みを使って、一年中、食を楽しんでほしい』って、強く思ったんだ」。

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その一言に、頭を強く打たれたような衝撃を受けました。この定食の本当の美味しさのわけは、塩蔵という技術だけではなかったのです。厳しい自然の中で、当たり前ではない日常への感謝を胸に、訪れる人をもてなしたいと願う「山の母ちゃん」たちの、努力と想いの結晶でした。

この山古志で食べるものは、ただ美味しいだけじゃない。野菜の甘みや素材自体の味が濃いのは、食材一つひとつに、丹精込めて届けようという優しさと温かさが詰まっているから。それは、現地に来なければ決してわからない、食を通じた長岡・山古志の魅力そのものでした。

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16もの酒蔵と、塩蔵文化。

この二つの体験を通じて、長岡の本当の豊かさを知りました。それは、この土地の自然を深く愛し、その恵みを余すことなく分かち合いたいという、人々の暮らしに根付いた精神性です。長岡の「おもてなし」は、まさに時を超える。それは、季節から季節へ、そして人から人へ、さらには過去の経験から未来へと、温かい想いを乗せて渡されていくバトンのこと。この、じんわりと心に沁みる豊かさに触れられることこそ、私が新潟を愛し、この地で生きていくことを選んだ、何よりの理由です。


編集部コメント

歴史ある長岡の酒蔵めぐりや、山古志で出会った“山の母ちゃん”たちのおもてなし。今回の記事では、じんわり心に沁みる長岡の魅力がたっぷり紹介されています。花火のイメージが強い長岡ですが、実は、日々の暮らしの中にこそ、このまちの本当の豊かさが隠れているのではないかと感じました。季節を越えて伝わる、人のあたたかさに触れられる体験を、ぜひ現地で味わってみては◎(小日山)