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県民ライター2022.03.24

青豆、小麦づくりのつながりで
変わりゆく農業。
未来へ伝える農家のプレゼント

「新潟コメジルシプロジェクト」では、新潟に暮らす県民自らが県内の気になるもの、おもしろいと思った人を取材、紹介する「新潟県民ライタープロジェクト」を始動しました。そこで暮らしているからこそわかる、ローカルなアクションや、小さくてもホットなトピックを取り上げていきます。

山谷 一芳(やまたに・かずよし)
新潟県柏崎市在住の56歳。体にハンデを持ちながら非公認柏崎㏚大使〈tani〉として独自にフリーペーパーやPRソングなどで、柏崎市のPR活動を行なっている。詩、絵、写真、ボイスパーカッションなどの創作が好きな夢追い人。

「創作の好きな私は伝統を守りつつも新風を起こし、新しいことにチャレンジする姿に魅力を感じるので、今回は地元の農家である鈴木貴良さんの取り組みをオンライン取材させていただきました。これまでの農家は作物をつくり委託販売する保守的なイメージでしたが、現在は栽培から販売まで一括にプロデュースする農家が増えているのではないかと感じています。

新潟県柏崎市高柳町門出(かどいで)で農家をしている〈鈴屋商店〉の鈴木貴良(57歳)さんが誇りを持って栽培している作物と地元の加工技術との“こだわり×こだわり”から製品が生まれた事例を紹介したいと思います」

22歳でUターン
地元業者と協力して新しい製品づくり

〈鈴屋商店〉の鈴木貴良さん。東京から高柳町に帰ってきたUターン組。
〈鈴屋商店〉の鈴木貴良さん。東京から高柳町に帰ってきたUターン組。

──はじめに鈴木貴良さんの住む地域について教えてください。

鈴木:柏崎の中心街から内陸部に入った山間地の豪雪地帯で十日町市に隣接しています。2005年に柏崎市に合併し、現在は19の集落からなる人口約1200人の小さなまちです。

新潟県の南西部に位置する柏崎市高柳町。里山の風景が今も残る。
新潟県の南西部に位置する柏崎市高柳町。里山の風景が今も残る。

──農家を始めたきっかけを教えてください。

鈴木:実家は米と民芸の店〈鈴屋商店〉を営んでおり、以前は店で扱っていた商品に加工するための青豆栽培をしていた程度でした。高校卒業後は関東で仕事をしていたのですが、22歳のときに父親がライスセンター事業を始めるため、手助けを頼まれて地元に戻って来ました。ライスセンターでは米を持ち込み、乾燥や籾摺りをして玄米にしてから、検査をして製品化します。この工程を経て農協に出荷したり、個人で持ち帰ったりすることができます。

──収穫期以外は何をしていますか。

鈴木:高柳町に戻ってきてからライスセンター以外の仕事を探してみましたが、ライスセンターは9、10月が繁忙期。繁忙期の間2か月も休める仕事はなく、ここでやれることを考えた結果、この地域でよく栽培されていた青豆をもっと広げようと思い、荒廃した畑を借りて青豆を中心に、野草、米の栽培を始めました。

──どうしていろいろな作物をつくるのですか。

鈴木:作物は「連作障害」といって同じ畑に同じ作物を連続して栽培すると育ちが悪くなるので、ひとつの畑にいろいろな作物をつくる「輪作」をしないといけません。そこで、そば、小麦、エンバクをつくるようになりました。畑の作物は米と違い、加工することで商品の幅も広がるので、地元の加工業者さんとのつながりも生まれました。原料として使っていただくことで販売先も増え、地元で力を合わせて互いに影響を与え合って、地域が誇れる商品づくりにつなげたいと思っています。

つくり手と使い手の関係

──地元の業者と協力した結果、鈴屋商店はどんな加工品を販売するようになったのですか。

鈴屋商店の商品。地元業者と手がけたさまざまな加工品が並んでいる。
鈴屋商店の商品。地元業者と手がけたさまざまな加工品が並んでいる。

鈴木:青豆を中心に豆菓子、きな粉、うち豆を販売しています。青豆は高柳町で昔から栽培され、豆腐屋さんに持ち込んで豆腐をつくってもらう風習がありました。そこで鈴屋商店でも商品化をしようと考えました。とあるイベントで出会った長岡市与板町にある〈心豆庵〉さんに加工委託を引き受けていただき、今では東京のショップなどで販売しています。

完熱した青豆。熟しても青い大豆品種のひとつ。
完熱した青豆。熟しても青い大豆品種のひとつ。

──食べてみましたが、コストパフォーマンスも質もいいと感じました。評判はいかがでしょうか。

鈴木:販売場所によって値段が違い、1丁700円から980円ですが、土日なら1日120丁が完売します。高柳の豊かな自然の中でつくった豆腐なので、食べた人がおいしいと感じてくれればそれだけでうれしいです。

業務的になりがちな生産者と加工業者の関係ですが、本来は同じ目線の高さでお互いに意見を言い合える関係であることが一番です。また、自分でつくった商品を自分で販売することが本来のあり方で、そんな関係でつながりたいと思っています。

国産大豆とにがり100%使用した青豆豆腐。
国産大豆とにがり100%使用した青豆豆腐。
収穫前の麦畑。
収穫前の麦畑。

小麦づくりから
クラフトビール〈柏崎ウィート〉誕生

──クラフトビールもつくったそうですね。

鈴木:十日町市にある〈妻有ビール株式会社〉の社長とともに、視察や研修会に参加して、ようやくクラフトビール〈柏崎ウィート〉というかたちになりました。ビールやウイスキーの原料となるモルト加工は難しく、栃木県にあるサントリーモルティングに依頼しています。

「あんにんご」の甘い香りが特徴の柏崎ウィート。
「あんにんご」の甘い香りが特徴の柏崎ウィート。

──柏崎ウィートはどんな特徴があるのでしょうか。

鈴木:柏崎や十日町らしさを演出するために、里山に咲き、キツネの短い尻尾のような穂をつける上溝桜(うわみずざくら、別名「あんにんご」)の花を使用しています。そのほかの材料も地元産のものを使った本格的な地ビールです。

──妻有ビールさんとの協力によって鈴木さんの思いが形になった、ということでしょうか。

鈴木:感性の近い人と力を合わせて仕事をすると、仕事の効率もよくクオリティの高い商品になると思っています。ただ道を歩いていても人とつながることはありませんが、事業を起こすことで接点が生まれ、多くの人とつながっていきます。発信して伝えていくことで、いい関係をつくれることがわかりました。

──いろいろと失敗はありましたか。

鈴木:好奇心を持って試してみれば、失敗も成功の一部。失敗で得たデータは見比べることができるので、死なない程度の失敗なら何もしないよりはいいと思っています。

──失敗を恐れずに前に進んでいくということですね。今後、高柳町門出で農家としてやりたい夢はありますか。

鈴木:ネイティヴ・アメリカンの言葉で、「土地は先祖からの授かりものではなく、子供たちからの預かりもの」という言葉があります。今後は若い担い手を応援したり、農地を荒地にしないように管理したり、未来に残していくことに貢献していければと思います。

──みなさんが失敗を恐れずに前を向いて歩いてほしいと思うとともに、鈴木さんのような後継者が未来に育っていくことを願っています。

Information

鈴屋商店

住所:新潟県柏崎市高柳町門出2511-3