“越後三条打刃物” 鍛冶と研ぎの達人・飯塚解房さんが語る「ものづくり」
~コメジルシくんが聞く!新潟の魅力 vol.7~
各地の『達人』に新潟のすてきなところを教えてもらう企画『コメジルシくんが聞く!新潟の魅力』。誰かに伝えたくなる新潟の魅力を探して、コメジルシくんが県内をめぐります。
今回訪れたのは、ものづくりのまち・三条市。日本を代表する鍛冶職人である『重房刃物』の飯塚解房さんに出会い、包丁づくりに込める思いを教えていただきました。
ものづくりのまち・三条市の『打刃物(うちはもの)』
中世から金属加工が盛んで、鍛冶技術が発達してきたという三条市。中でも古くから主要産業となっていたのが、『越後三条打刃物』と呼ばれる、包丁や農業用刃物などの刃物づくりなのだそうです。
『打刃物』とは、鋼や軟鉄を炉で高温に熱して、ハンマーなどで打って成形した刃物のこと。日本刀の製造技術の流れを汲んでいて、伝統的な鍛冶と研ぎの技術が用いられています。
実際にどんなものなのか、まずは市内で製品を使っている方に聞いてみました。
料理人に愛される、切れ味と使い心地
打刃物の包丁を愛用する料理人のひとり、『割烹・懐石まるみ』のご主人・高橋一衛さんは、こんな風に語っています。
「この包丁は切れ味抜群で、ずっと使っても大丈夫。1度研ぐだけで、300人分の料理を作れるくらい使えます。握り心地もまた、いいです」
「(一般的には専用の包丁で行う)大根の桂剥きも、柳包丁でできてしまうんです。そのくらい、使いやすいんですよ」
ご主人が手に持つ包丁は、長年使いこんでいるにもかかわらず、厨房の灯を受けてきらきらと光っています。この包丁をつくったのが、鍛冶職人・飯塚解房さんだと聞いて、飯塚さんのいる『重房刃物』を訪れました。
細かな工程を丁寧に積み重ねていく、包丁づくり
JR三条駅のほど近く、金属加工の会社が軒を連ねる一角にある『重房刃物』。三条鍛冶集団の師範で、『県央マイスター』や『にいがたの名工』など数々の認定を受けている飯塚解房さんと、二人の息子さんが包丁をつくっています。
作業中にもかかわらず、「いらっしゃい」と快く迎えてくれた飯塚さん。まずは、包丁づくりにはどんな工程があるのか聞いてみました。
「細かい工程まで含めると数えきれないほどあるけど、おおざっぱに言えば30工程くらいかな」
いくつか工程を見せていただけないかお願いすると、中を案内してくれました。
こちらは、『鋼付け』と呼ばれる、鉄と鋼を接合する工程。鉄と鋼を火床(ほど)という炉に入れて熱し、槌やスプリングハンマーで叩いて鍛接(たんせつ)していきます。この日は、次男の佳英さんが作業風景を見せてくれました。
叩くたびに、熱された部分から火花が散ります。何度も叩き上げることで、金属の組織がきめ細かくなり、刃の切れ味が増すのだそうです。
次に見せてもらったのは、長男の正行さんによる『銑(せん)がけ』の工程。刃の表面にある凹凸を削り、平らにしていく作業です。
そして、こちらが達人・飯塚さんの『研ぎ』。目の粗い大きな砥石で地金を落とした後に、だんだんと細かい目の砥石で刃を研ぎあげます。
研ぐ際には、足元の水場で砥石に水をかけながら作業を進めます。
包丁づくりへの思い
ひと通り見学させてもらった後、飯塚さんに包丁づくりのことを、いくつか質問をさせてもらいました。
―こんな風に、たくさんの工程があるという包丁づくり。どの工程が一番大事なんでしょうか。
「どの工程も、基本通りにやることがすべて。全部の工程が大事だよ」
―では、飯塚さんにとって、良い包丁とはどんなものですか。
「包丁は道具だからね。使いやすさが一番。よく切れることは大前提だな。
これまでたくさんの包丁を作ってきたけど、100%うまくいったことなんて、ほぼない。
そのぶん、毎回できが違って、1本1本に個性がある。人間がつくるものだから、人間と同じで不完全なんだよ」
―ものづくりの魅力は、どんなところにあると思いますか。
「鍛冶とかものづくりの魅力って聞かれると難しいけど、仕事自体が楽しくないといけないね。いろいろ試行錯誤しながらつくって、やり遂げたときの達成感というのは、どんな仕事でも同じだと思うよ」
「鍛冶屋ってのは、表には表れない仕事なんだよ。包丁は、料理を作るための道具。つまりはモノをつくるためのモノ。それをつくるのが鍛冶屋の仕事だから、これからの職人にも、生活を支える道具としてじっくりとつくっていってほしいかな」
道具を作っていることを意識して、淡々とものづくりに取り組んでいってほしいと語る飯塚さん。50年以上包丁づくりに取り組んでいるというその言葉には、ずっしりと重みがありました。
私たちの生活に身近な道具・包丁。ひとつひとつ手仕事で丁寧につくられていく過程を知り、そこに込められた職人さんの深い思いを聞くと、日常を見る目も変わってきますね。
達人の話に感銘を受けたコメジルシくん、この魅力をみんなに伝えようと、撮った写真を早速Instagram(@komepro_niigata)で投稿していました。
「コメジルシくんが聞く!新潟の魅力」では、毎月コメジルシくんが「達人」に魅力を聞いていきます。来月もお楽しみに!
こちらの動画でも、達人・飯塚さんの包丁づくりの様子をご紹介しています!
「コメジルシくんが聞く!新潟の魅力」は、新潟県広報番組「週刊 県政ナビ」のテレビ放送およびその動画配信でもご覧いただけます。