家と蔵が一体になった
出雲崎町「妻入り」の町家。
伝統的な蔵で始めた
「蔵と書」
新潟県民にとっては「当たり前」でも全国的に見ると全然当たり前じゃないことってたくさんあるはず! そんな新潟の魅力を、新潟県に縁のある方に聞いてみました。
「妻入り」の町家の蔵で
はじめた「蔵と書」
新潟県三島郡出雲崎町は、かつて北前船の寄港地であり、佐渡の金銀荷揚地でもあったので、江戸幕府の直轄地(天領)でした。江戸時代には間口の幅を基準にして屋敷税が賦課されたので、税金軽減のため意図的に間口を狭くし、奥行きのある造りになった「妻入り」の町家が多く残されています。
「妻(つま)」とは側面を意味し、長手方向の端の面のことを指します。妻入りとは、「妻」を街道側に向けて正面として、その面に玄関がある町家のこと。屋根の形が山折の二面構成になっていることも特徴です。
出雲崎町の海岸地区では街道に面している家屋の約80パーセントが妻入りの町家であり、その街並みは3.6キロメートルにもなるそうです。
そんな町家風景の残る出雲崎町に、新潟県には縁もゆかりもなく知り合いも0人の中、やってきました。
たまたま知人のSNSで出雲崎町の地域おこし協力隊の募集を目にし、「ここでなら本のある空間を創れるかもしれない」と直感的にコンタクトを取り、採用試験のときに新潟県に初めて足を踏み入れたんです。
貸していただいた住まいには立派な蔵が2つ併設されていました。27年間マンションやアパートにしか住んだことがなかったので、蔵はおろか一軒家に住むのも初めてのこと。実は蔵を見たのも、蔵のある家を見たのも初めてでした。
家の裏(裏というより、半分家の中のような場所)にこんなに大きくて立派な蔵があることにまず驚き、扉や鍵なども昔のままだったので、本当にこんなものが今も残っているのかとびっくりしました。
ちなみに、県内各地にも蔵はありますが、家と一体になっていることは少なく、これは「妻入り」の町家の特徴のようです。
以前から、ずっと側にあり、好きだった”本”が、読書人口の減少や本屋の相次ぐ倒産など危機的状況にあることを知り、「本の未来を明るくすることに携わりたい」と思っていました。
「本屋のないこの町で、素敵な本と人との出会いを生み出せたらいいな」と思って、本と人を繋げる空間をこの蔵で創ることに決めました。
「蔵と書」に置いている本たちの大きなテーマは「どこかなにかが出雲崎町や新潟県に繋がる」こと。少しの時間ページをめくるだけでも楽しめる絵本や詩集、写真集を含め、なかなか公共の図書館では出会えないような本も意識してセレクトしています。
蔵の中のものはできるだけあるものを生かして。古風な蔵はそのままに、すのこを裏返して本を並べたり、蔵にあった古箪笥に本を置いたり、小学校の技術室にあった机と椅子をもらったり、近所の方から使っていないソファをいただいて利用するなど、あるものを工夫しながら落ち着いた居心地のいい空間づくりを目指しています。
江戸時代から受け継がれてきた「妻入り」の町家。その蔵を生かした「蔵と書」で、本との出会いを楽しんでもらえたら嬉しいです。
【編集部からひと言】
江戸時代の人々の工夫が残る
「妻入り」の町家
同じく北前船の寄港地だった佐渡の両津や小木でも同じように間口が狭く奥に長い町家が多くありますね。また、そんな変わった作りの家と蔵が一体になっているのにも驚きです。どうしてそんな構造になったのかの背景には、江戸時代の人々の工夫が隠されていたのですね。そんな蔵を使った「蔵と書」。受け継がれてきた蔵の中でゆっくり本と触れ合うひとときもかけがえのない時間になりそうです。