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県民ライター2022.03.10

アートが子どもの成長を刺激する。
生まれ変わった廃校で地域と芸術をつなぐ
〈ゆいぽーと〉の取り組み

「新潟コメジルシプロジェクト」では、新潟に暮らす県民自らが県内の気になるもの、おもしろいと思った人を取材、紹介する「新潟県民ライタープロジェクト」を始動しました。そこで暮らしているからこそわかる、ローカルなアクションや、小さくてもホットなトピックを取り上げていきます。

藤岡恭平(ふじおか・きょうへい)
新潟市在住の会社員。車が必需品と言われる地方都市で自転車と公共交通機関に頼って生活しています。普段とは違う世界に触れたいと、ゆいぽーとでの滞在アーティストによるイベントやワークショップに参加するようになりました。

「ゆいぽーとの魅力、可能性について少しでも多くの人に知ってもらえたらと思います」

青少年の活動と創作の場が
融合した施設〈ゆいぽーと〉

新潟市の中心部古町の近く、旧齋藤家別邸あたりから海へ向かう坂道を上がったところにある新潟市芸術創造村・国際青少年センター〈ゆいぽーと〉。入り口はスポーツの練習に来ている子どもやその付き添いの親御さんで賑わっており、ラウンジでは中高生らしき人たちが勉強をしています。

その雰囲気から子どものための施設と思いきや、1階の奥の部屋では創作活動をしていたり、2階では芸術作品を展示されたりしています。

ゆいぽーとは、青少年の活動の場と、創作活動の場が融合した施設。日本各地にはさまざまな公共施設がありますが、全国でも珍しいこのふたつの組み合わせを軸に運営している施設では、どんな取り組みが行われているのか。また、どんな人が運営しているのか、運営スタッフの佐藤帆乃香さんにお話を伺いました。

ゆいぽーとが持つ、ふたつの機能

ゆいぽーとは外観からもわかる通り、統廃合により2014年に閉校となった旧二葉中学校の校舎を活用して2018年にオープンしました。

ゆいぽーとが青少年の活動の場と創作活動の場とを融合した施設になったのには、大きくふたつの理由があるそうです。ひとつ目は近隣にあった「大畑少年センター」が老朽化していたため、その施設が持っていた青少年の自然体験や生活・交流体験の場としての機能を引き継ぐため。ふたつ目は新潟市による文化・芸術を生かしたまちづくりの一連の流れのなかでアーティストや、クリエーターの活動の場をつくろうという動きがあったから。

また、オープン前の2015年、そしてオープン初年度の2018年には〈水と土の芸術祭〉の会場として使われたこともあり、その記録を共有する場としての役割も持っています。

「2018年を最後に〈水と土の芸術祭〉は終わりましたが、芸術祭を通して動き始めた地域の人たちの活動の場としての側面も持っています」と佐藤さん。

このゆいぽーとの運営において、文化芸術分野を担当している佐藤さんは、新潟市出身で高校卒業後、関東の大学で舞台の運営について学び、照明会社での勤務を経て、新潟市にUターン。もともと関東に出たときから、いつかは新潟に戻ることを考えていたそうです。

新潟のまちとアーティストをかきまぜる

そんな佐藤さんが担当している文化芸術分野での活動のひとつに「アーティスト・イン・レジデンス」があります。

アーティスト・イン・レジデンスとは、異なる地域から一定期間アーティストを招き、滞在しながら作品制作をしてもらう取り組みです。アーティストは異文化体験を通して表現の広がりと成長を、そして招き入れる地域にはアーティストとの交流など人的ネットワークの拡大といった効果があります。

国内各地で自治体や民間の団体などさまざまな主体が運営しており、新潟県の十日町市・津南町で行われている〈大地の芸術祭〉も、その一形態といえるかもしれません。

ゆいぽーとでは公募の中から選定委員の協議によりアーティストを選出し、年4回に分けて各回1〜2人(組)が1〜3か月程度、ゆいぽーとに滞在しながら作品を制作しています。

アーティストの公募はゆいぽーとのウェブサイトやアーティスト・イン・レジデンスに関する情報をまとめたウェブサイトを通して行っており、年々応募が増えているそうです。

「その背景には、絵や彫刻など従来の形態にとらわれない表現に取り組むアーティストが増えていること。また、ギャラリーに所属して作品を収集家に買ってもらう以外に、各地の芸術祭やアーティスト・イン・レジデンスのプログラムに参加していくというアーティストとして新しい選択肢が出てきているからだと思います」と佐藤さんは分析しています。

そんなアーティスト・イン・レジデンスのなかで、ゆいぽーとでの取り組みの特徴は、地域の人たちの参加の機会を積極的に設けていること。ゆいぽーとのウェブサイトではアーティストによるワークショップや、作品制作への参加の募集が出ています。

例えば、昨年、ゆいぽーとに滞在していたアーティストの河村啓生さんは生け花師範の資格を持ち、生け花の技術を取り入れた作品を制作しています。今回の滞在で河村さんは、新潟の花き産業をテーマに作品制作をするなかで、リサーチを通して戦前に新潟市内にあった〈新潟農園〉に興味を持ち、それをモチーフとした作品を制作しました。

戦前、新潟市東区にあった大型花園「新潟農園」をモチーフにした河村啓生さんの作品。
戦前、新潟市東区にあった大型花園「新潟農園」をモチーフにした河村啓生さんの作品。

この滞在において、河村さんは「新潟の大地と『死ぬのにもってこいの日』」という参加者とともに作品の一部をつくるワークショップとミニバスツアー「新潟農園の跡地を巡る」を行いました。新潟農園があった場所は筆者の勤め先の近くということもあり、このツアーに参加してこれまでただオフィスに通うだけだった周辺の地域の歴史について理解、関心が深まりました。

このように、アーティストは作品制作だけでなく地域の人たちと関わりをもつことで作品に思いがけない広がり、深まりができると思いました。また地域の人は、アーティストの目を通して自分が住んでいる地域を見つめ直すことができ、地域への愛着を深めていくことができるのではないでしょうか。

佐藤さんは、このアーティスト・イン・レジデンスにおいて、アーティストと地域をつなぐ役割として、アーティストの制作に必要な調べものを手伝ったり、関係する人物の紹介といったサポートをしたりしています。サポートにあたっては、あまり制作に入りこみ過ぎないようにしながら、より良い作品につながるようになることを心がけているとのこと。

佐藤さん (左) と滞在中の作家さんとのやりとりの様子。
佐藤さん(左)と滞在中の作家さんとのやりとりの様子。

「自分は同じ場所で同じことをやり続けることは向いていないと思っていて、この仕事はゆいぽーとというひとつの場所にいながらも、いろいろな作家に出会えることだけでなく、自分が生まれ育った新潟について新たな発見があり、日々学びがあります」と佐藤さんはこの仕事のやりがいについて語ってくれました。

アーティストが子どもの成長を刺激する

このアーティスト・イン・レジデンスのような文化芸術の機能と青少年活動の機能の融合については、4年目の今も試行錯誤の途上とのこと。ふたつの機能が融合した特徴的な事例として、2020年に実施したアート体験キャンプが挙げられます。

これは、アーティスト・イン・レジデンスに参加していたアーティストの蓮輪康人さんが「宇宙人に自己紹介をしてみよう」と子どもに呼びかけたプログラム。

①自分が好きなものを3つ書き出す
②それを絵に描いて表現する
③さらにそれをジェスチャーを使って表現する

「このような順番でやっていったのですが、絵を描くまではみんなできていました。しかし、のジェスチャーになった途端、身体を使って表現するのが恥ずかしいのか、宇宙人に出会う時間が迫ってきて怖いのか、なかなかジェスチャーをやろうとしなかったり、泣き出す子が出てきたりしていました。

そんな子どもたちも最後は宇宙人に堂々と向き合いコミュニケーションし、子どもの変化、成長ぶりがとても印象に残っています」と佐藤さん。

ゆいぽーとで行われたアート体験キャンプの様子。
ゆいぽーとで行われたアート体験キャンプの様子。

ゆいぽーとはスポーツ、勉強など多様な目的を持った人が日々集まっています。

また、定期的に別の地域からアーティストを招くことでアーティスト自身だけでなく、地域の人たちにとっても自分の町を見つめ直す、理解を深める機会になっています。

このような場だからこそ、偶然の出会いやそれによって生み出されるものがまだまだこれからも出てくるのではないかと思っています。佐藤さんもまだできることがあるのではないかと考えているようで、今後もゆいぽーとの活動に注目したいと思います。

Information

新潟市芸術創造村・国際青少年センター ゆいぽーと

住所:新潟県新潟市中央区二葉町2-5932-7
TEL:025-201-7530
URL:https://www.yui-port.com/