昔ながらの朝市と変化し続ける朝市
今の時代こそ訪れたくなる魅力
「新潟コメジルシプロジェクト」では、新潟に暮らす県民自らが県内の気になるもの、おもしろいと思った人を取材、紹介する「新潟県民ライタープロジェクト」を始動しました。そこで暮らしているからこそわかる、ローカルなアクションや、小さくてもホットなトピックを取り上げていきます。
私は宮城県仙台市から新潟大学への進学をきっかけに、縁もゆかりもない新潟市に引っ越してきた。キャンパスから10分ほど歩くとJR越後線の内野(うちの)駅があり、内野にはどこか懐かしいような雰囲気が漂い、大学周辺とは違ったのどかな暮らしがある。
大学が近いはずなのに、あまり大学生の姿を見ない。そんな内野で生活をするなかで出合ったのが、朝市だった。スーパーマーケットで食品を買うことが当たり前だった自分にとって、昔ながらの風景が残っていることに衝撃を受けた。
120年間変らずに続く
内野の朝市
新潟市中心部からそう遠くもなく、学生で賑わう新潟大学周辺とは対照的なこの場所で、約120年前から姿を変えることなく、現在も朝市が開かれていることをご存知だろうか。
毎月1日と15日、内野駅から一本南側の通りで内野露天市、通称内野の朝市は開催されている。
「一番悪い日に来たね」
強風が吹きつける天候を気にしながら話しかけてきたのは、内野の朝市を運営している〈岩松水産〉の若杉政司さん。内野の朝市は毎月2回、十数軒が、約250メートルにわたってトラックを横づけしテントを張るなどして、商品を広げ地元のお客さんを迎えている。
「この朝市は、祖父の時代からやっているから120年前からだね。昔は朝7時から17時までやっていて、押すな、押すなの大混雑でね」
かつて内野の朝市では、16時になると終了の合図として鐘が鳴らされていた。次から次へとお客さんが訪れるので、「鐘を鳴らさないでほしい」と言われていたほど繁盛しており、植木屋や種屋など100軒近くの店が出店していた。
現在は後継者も少なく、出店数も年々減っており、9時過ぎからスタートして14時頃には店じまいをしている。それでも若杉さんは、この朝市が誇らしげだ。
「わざわざ市のために隣の区から来てくれる人もいるし、お客さんがほかで売っているものよりおいしいと言ってくれて、売れるんだよ」
「これね、お歳暮としてやると喜ぶのよ」とたらこを買っていくお母さん。「いつもどうも。この前のサバどうだった?」と会話が続く。
よく来るんですか、と尋ねると「ここの母ちゃんが好きだからね」という。
「朝市はね、どうやって食べたらいいかとか話しながら買うことができるから、お客さんが楽しみに来てくださるんだよ」と若杉さん。
朝市を訪れると、変わらずに続く日常が垣間見える。
時代が変わっても、朝市を求めて足を運ぶお客さんは絶えない。
朝市に新しい風を吹き込む
〈白山市場DE朝食を〉
同じく新潟市内にある白山市場と〈pentagONE(ペンタゴン)〉のコラボレートイベント〈白山市場DE朝食を〉が注目を集めている。2019年から2021年11月までの7回にわたり開催され、キッチンカーなども出店する人気のイベントとなっている。
pentagONEとは、2018年に結成されたデザイン、ファッション、建築、グルメ、アートと5つのカルチャーで活躍するメンバーで構成されている新プロジェクトである。
白山市場は、JR越後線で新潟駅のひとつ隣の白山駅から徒歩5分程のところにあり、1954年にスタートした歴史ある朝市場。採れたての野菜や果物、自家製の漬物などが並んでおり、定休日の火曜日を除いて毎日、午前5時から10時まで開催されている。
pentagONEのメンバーで、〈白山市場DE朝食を〉責任者である田村新さん。白山市場から車で5分程の西堀前通りという大通り沿いのビルに、「『本物のデザイン』だけを提案し続ける」をコンセプトに掲げるインテリアセレクトショップ〈APARTMENT(アパートメント)〉を構えている。
「趣味の散歩がコラボレートのきっかけです。散歩していて見つけた朝市。運営する組合の理事長とお話しする機会があり、『朝市、おもしろいですね』と話したところ、『会員減少や後継者不在など、実は大変だから、やめようと思ってんさ』と」
白山市場は、白山市場商業協同組合という市内の農家の集まりで運営されている。1954年の設立時は約400人の組合員がいたが、現在は高齢化などで約50人に。客も減り、数年前には存続も危ぶまれた。
その話を聞いて田村さんは考えた。
「昔は家に人がいて朝が早かったから朝市も賑わっていた。今は共働きが増えたり、時代とともに生活スタイルが変わっていても、朝市は変わっていない。また、発信をしていないからあまり人に知られていない。存続が危ぶまれている状況は後継者がいないので、新しい会員が入らない限り仕方がない面もある。
しかし、市場の建物も朝市というコンテンツもとてもいいものなのに、このままなくなってしまうのはもったいない。なにかできることはないか? と考え、思い浮かんだのが、アジアの朝市でした」
田村さんの趣味の散歩をきっかけに、pentagONEとして、アジアの朝市をイメージしたコラボレートイベントの開催が決まった。
「旅行が好きで、アジア圏にはよく足を運んでいました。そこで見た朝市は、肉、魚、野菜など生鮮食品だけではなく、洋服や生活雑貨はもちろん、食事も摂れる。売り手とお客さんのコミュニケーションも含めて、めちゃめちゃ刺激的でおもしろいんですよ。これが新潟で実現できたらきっとおもしろいし、お客様も楽しんでくれるだろう。これならできるかも! と、pentagONEのメンバーと相談し、ぜひやりましょうとなったんです」
第1回の2019年9月15日(日)は、開催まで3週間を切るタイトな準備期間だったが、10店舗の飲食店や洋服屋の知り合いを集めて開催。ドリンクとフードを合わせると1000食以上が売れたそうだ。第1回を踏まえて、第2回以降は来場する客層にあわせた出店店舗の選定、飽きのこない工夫などを重ね、〈白山市場DE朝食を〉は最大4000食近くを売り上げる人気イベントとなった。
「このイベントをやることで、高齢の出店者がやりがいを感じてくれて活気が生まれました。やめようかって言っていたのがどこかにいってしまいましたね。やっぱり、朝市は楽しいですよね。早起きして、ご飯を食べたり、野菜を買ったり。お客さんが『早起きをすると一日が充実している』とよく言っています。最近はコロナで夜の飲み会がなくなったため、早起きする人が増え、多くの方に朝市を楽しんでもらっています」と田村さん。
pentagONEには、ほかの朝市からも携わってほしいという声がかかっており、これから新潟県内各地で開催される朝市に携わっていくそうだ。
オンライン化が進む時代だからこそ
個性が生まれる朝市へ
運営者の考えによって、開催の仕方、大切にしていることは異なるため、朝市といってもさまざまなかたちがある。
〈内野の朝市〉は、運営者が大切にしている昔から変わらない、のどかな風景が残っている。魚屋においしい食べ方や旬の食材について聞いたり、花屋と世間話をしたり、何気ない日常が残っていて、変わらず続けることを体現している。
〈白山市場DE朝食を〉では、今までの朝市にはなかったコンテンツを取り入れて、フードやファッションを楽しむ若いお客さんを集めている。売り手、買い手の高齢化に伴う、利用者の減少に歯止めをかけるべく、老若男女が世代を越えてコミュニケーションを図る朝市の光景が生まれている。
コロナ禍以降、オンライン上でやりとりをする頻度が増すばかりだ。買い物に限らず、誰とも会わずにさまざまなことができるようになった。対面でのつながりが希薄になった今、改めて会話を楽しみながら買い物をする心地良さを感じられる場であることが、朝市の魅力なのではないだろうか。
新潟県内では各地で朝市やマルシェが開催されている。運営者の考えや開催する場によって、それぞれの個性が生まれる。ぜひ、足を運んでみて新潟の朝を楽しんでみてはいかがだろうか。
Information
内野露店市
住所:新潟市西区内野町
TEL:025-262-2103(内野露店市場共栄会)
時間:9:00〜15:00
開催日:毎月1日、15日
第8回 白山市場DE朝食を
日時:3月20日(日)6:00〜9:00
場所:新潟県新潟市中央区白山浦2-180-3
URL:https://pentagone.jp/1515/
※通常の白山市場は定休日の火曜日を除く、毎朝5:00〜10:00に開催中。