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レポート2021.11.01

【オンラインセミナーレポート】「ローカルファンを作る」地元を一緒に盛り上げるファンのつくり方とは

スマホをタッチすると、世界中からインターネットやSNS、音声アプリを通して何億ものコンテンツが届く時代。そんな情報過多の社会では、ローカルで新しく開業したお店や立ち上げた事業の情報発信を行っても、ユーザーになかなか見つけてもらえずに苦労する人もいるでしょう。

〈新潟コメジルシプロジェクト〉では、新潟県民が抱えるこうした課題を解決するために新潟で注目すべき10人に地元を盛り上げる「発信力」を教えてもらうオンラインセミナーを開催。

第2回となる今回は、「ローカルファンを作る」をテーマに、新潟ローカルウェブマガジン『Things』編集長の近藤翔太さんとカレーとごまどうふの店〈石本商店〉の大島梢絵さんがゲストです。前回に引き続きファシリテーターは小林紘大さん。

自分たちを認知してもらい、好きになってもらい応援される関係性はつくれるのか? 正解がない問いに対してトークセッションで造詣を深めるイベントになりました。

第1回のイベントレポートはこちら

セミナー01
ファシリテーター小林絋大さん(上左)、Things編集長 近藤翔太さん(下)、〈石本商店〉大島梢絵さん(上右)。

主役たちの裏側にあるストーリーを伝える
ローカルウェブマガジン『Things』

小林絋大(以下、小林):本日のセミナーには80名近くの方がお越しくださいました。初めましての人もいらっしゃるかと思いますので、まずは近藤さん、続いて大島さんの順で自己紹介をお願いします。

セミナー02

近藤翔太(以下、近藤):私たち『Things』は、2019年4月に開設したローカルウェブメディアです。なぜThingsという名前かといいますと、「この街のいろいろ、伝えたいのは新潟の小さなサムシング」というコンセプトから由来しています。

新潟のヒト、モノ、コトを丁寧に取材していき、一つひとつの魅力を伝えるために地域にあるさまざまなものをキュレーションし、すてき、きれい、たのしい話題を365日発信しています。

セミナー03
Thingsは月の掲載が30本以上。『Yahoo!』や『スマートニュース』でも配信され、毎月50万ページビューを超える。

具体的には毎朝7時と決まった時間に、「食べる・遊ぶ・カフェ・ものづくり・カルチャー・その他」のジャンルから、誰かに役立つことや誰かの日常を豊かにすることを願って発信しています。

私たちの役割として、単に表層的な情報を発信するのではなく主役となる人の裏側にある物語を紐とき、どんなきっかけで興味を持って仕事や活動を始めたのか、バックボーンも伝えることでヒト、モノ、コトを知っていただくことだと考えています。その先に生まれるつながりこそがThingらしさであり、メンバーそれぞれが大切にしていることです。

セミナー04
Thingsはカレーとごまどうふの店〈石本商店〉についても、オープン前から取材して掲載を行った。

「インタビューだけどインタビューじゃない」、これが私たちのモットーです。コーヒーを飲みながら雑談するような感じで取材をしています。その会話から生まれる相手のニコニコした様子や、おもしろい人柄を伝えられるように一つひとつの言葉を選んでいます。Thingsを通して、新潟の素敵がもっともっと広がってくれるとうれしいなと考えて活動しています。

過程も苦労もすべてさらけだす。
個性を打ち出してファンをつくる〈石本商店〉

大島梢絵(以下、大島):カレーとごまどうふの店〈石本商店〉は、2020年7月9日に新潟市江南区亀田にオープンしたカレー屋さんです。

夫の史也は、おじいちゃんがつくっていたごまどうふを継いでごまどうふ屋7年目。私は前職のアナウンサー時代に夫と出会い結婚したことがきっかけで、史也のおばあちゃんが営んでいた金物屋をリニューアルしてカレー屋となった異色な夫婦です。

セミナー05

発信でいうと石本商店のメインステージはインスタグラムです。日々の営業のこと、新商品についてもインスタで発信してきました。過去に遡ればオープンの5か月前からすべての過程を出し続けてきましたので、すでに私たちの個性と言えますね。

スパイスカレーさえつくったことがなかった私たちがゼロからカレー屋になる。そのためにまず、カレー研究から始めました。試作品ふくめてこれまで180種類以上つくってきましたし、カレー屋巡りの様子もあわせてインスタで発信してきました。そんな姿に共感して、見守ってくれたのだと思います。

セミナー06

同時並行でやっていたのは夫が所持するキッチンカーでの移動販売です。「ごまうふふ」号と名づけて開店1週間前まで県内各地を回り続けました。インスタをきっかけに知ってもらい、移動販売でお客さんとふれあって、ようやくつながりがリンクし始めて、応援してもらえるようになりました。

ただ去年の夏頃から新型コロナウイルスの感染者数がぶり返してきて、オープンから1か月間は完全予約制で営業しました。前売り券を手売りだけではなくEコマースプラットフォーム『BASE』で販売したら、チケットは完売することができました。

セミナー07

私たちは、過程をすべて見せてファンをつくる「プロセスエコノミー」と呼ばれるやり方を行っているのかもしれません。オープン1周年でつくったフォトエッセイ本も、音声配信コンテンツとして始めた石本商店ラジオも、ブログツール『note』で定期購読マガジンで文章をつくることもそう。
興味を持ってくれた人たちが飽きずにファンでい続けていただくための発信であって、すべて石本商店に来て楽しんでもらうために行っていることです。

「インスタは共感メディア」
自分らしい想いがファンをつくる

セミナー08
トークセッションでは「メディアとしてのあり方とは(メディアの立ち位置)」「インスタの活動をどう考える(ジモトだからできるSNSの発信)」「ファンとのコミュニケーション(知っているから好きへ。応援され、愛される工夫)」をテーマに進められた。

小林:おふたりともありがとうござました。ここからはゲストのトークセッションに入っていきます。おふたりの出会いは、Thingsさんの取材がきっかけでしたよね。

近藤:もともと、史也さんがつくるごまどうふを取材させていただき、大島さん経由で『カレー屋になる!』というとても気になるインスタアカウントを発見しまして。

大島:お店の名前も当時、決まっていなくて(笑)。でも、近藤さんだけが改装工事中に訪れてくれて、私たちを取材してお話を載せてくださいました。

セミナー09
改装工事中の石本商店。

小林:近藤さんの「インタビューだけどインタビューではない」ってパワーワードだと感じました。どうやったらThingsに選ばれるのでしょうか。

近藤:そもそもいい情報を選定するためには、常にアンテナを張っていること。レコード屋さんで自分が聞きたい音楽を探すことと近くて、好きなジャンルって人それぞれ違いますが、ジャケ買いのようにおもしろそう、たのしそうという主観は変わらずに大切にしています。

つい最近、取材先からのご紹介もありました。ご本人が好きなお店であれば、たとえ同業種であってもつながりから教えてくださいます。

セミナー10

小林:続いてインスタの話題が出てきました。大島さんは発信基地とおっしゃっていて、これまでに運用してきてうれしかったことはありますか。

大島:インスタは他のSNSと比べて共感メディアと考えています。いっぱい文章を書いたり、思いを発信したり。それが功を奏して県外の人でも石本商店を目指して来てくれるようになりました。

今回のテーマである「ローカルファンを作る」という意味では、正直狙ったところもあれば偶然に生まれたこともあります。夫が石本商店らしさを戦略的に考えて、私は出たがりでもあるので広報的な役割を担っています。その役割分担がうまくいったのかもしれません。

小林:ここで参加者からの質問です。「石本商店やThingsのブランドを広げていくために内部で話し合っていることは?」。

セミナー11

大島:月に1度、石本商店会議を開いています。とくに、どんなお店にしたいかを話し合っていまして、最近は「元気が出るお店」と決まりました。発信を見てくれるであろうファンにも前向きになってもらえるように、と。

近藤:私たちも月に1度、編集会議を行っています。取材先の場所や選定、何よりもThingsのあり方である物語を読んでもらうことで相手のファンになってもらえるか、こうした軸により戻せるようにと話し合っています。時間が経つとどうしても軸がブレてしまうので。

メディアが主体となって読者同士をつなぐ。
ローカルになくてはならない共存意識

小林:プロセスエコノミーというお話もありましたね。ローカルファンをつくっていくために、コミュニケーションとして心がけていることはありますか。

セミナー12

近藤:コロナ禍で頓挫していますが、読者とつながりを深めていくために昼と夜のイベントをいずれは開催したいと考えています。Thingsに掲載したお店に出店してもらうイベントで、私たちもスタッフとして関わります。そういうコミュニケーションこそ大切です。

大島:正直、私が相手の顔を覚えるような2回、3回密度のあるコミュニケーションを重ねないと濃いファンになっていただけないと感じています。だから、インスタライブで質問コーナーを設けて回答するなど、SNSで接客している意識も大事になってくると思います。

セミナー13

小林:ローカルにおけるメディアとお店の理想的な関係性についてはどうお考えですか。

近藤:共存ですかね。僕たちはお店を取材して記事を通して発信し、お店の人たちは記事を見てくれたお客さんと共通した話題でコミュニケーションを図ることができます。今後は一歩先に進んで、私たちをきっかけにお店同士がつながって、お店側の視点で取材先やコンテンツが決まっていくような関係性を生み出したい。

大島:お店側から言うと、私たち自身がメディアになることが最強だと思っていて。加えて言うなら、亀田にある酒屋や農家からおいしいものを仕入れさせてもらっているので、その魅力を石本商店で発信できるような「場のメディア」になりたい。それぞれが良くなる環境をつくっていけるのもメディアの可能性ですので。

セミナー14
一般参加者からの質問が途切れずに、最後まで終始笑顔を見せるセミナーとなった。

小林:おふたりのお話を聞いていくうちに、正確な情報というよりも、誰かのフィルターを通した、いわゆる編集されたことのほうがファンがつくのだろうと感じました。Thingsさんも石本商店さんも活動を通じてローカルの編集を体現されているため、今後の活動もより一層楽しみです。ありがとうございました。

次回は、新潟の可能性を探る「食とローカル」

『地元をオモシロくする10人の発信力』 オンラインセミナーは早くも折り返し地点を迎えます。第4回のテーマは「食とローカル」、2021年11月6日(土)に開催予定です。

春夏秋冬、それぞれ旬となる食が充実する新潟。新たな地域資源としての食の掘り起こしと保存、どう県外に食を伝えていくのか。長年続く課題ではないでしょうか。

次回は、元〈いわむろや〉館長の小倉壮平さんと〈HOZON/佐渡保存〉の菅原香子さんがゲストとして登場。食を介した新潟の魅力のアプローチの仕方について語り合います。新潟と東京のそれぞれを拠点に活動する両者が混じり合うことで、新たな食とローカルの可能性が見つかる時間となるでしょう。お見逃しなく!

また、希望者には「県民ライター」として記事作成体験ワークが行われます。『新潟のつかいかた』『新潟コメジルシプロジェクト』を運営するコロカルのチーフ編集者が指導に入り、記事制作をサポートします。興味のある方はぜひご参加ください。(※「県民ライター」への参加は県民限定です)


Information

地元をオモシロくする10人の発信力
第4回「食とローカル」(オンラインセミナー)
日時:2021年11月6日(土)14:00〜15:30
トークセッション登壇者:元〈いわむろや〉館長 小倉壮平さん/〈HOZON/佐渡保存〉 菅原香子氏
ファシリテーター:小林紘大さん
申し込み:Peatixサイト https://peatix.com/event/2750594/view


text:水澤陽介(SANJO PUBLISHING)