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レポート2021.12.23

【オンラインセミナーレポート】
熱量の高い発信で人を巻き込む、
新たな場所づくり

誰かと集まり、交流できる“場”の重要性は、コロナ禍においてどんどん増していったのではないでしょうか。その拠点となる“場”をどうやってつくるのか、どうしたらいい化学反応が生まれるのか。

9月から始まった〈新潟コメジルシプロジェクト〉が主催するオンラインセミナー「地元をオモシロくする10人の発信力」。最終回となる第5回の議題は、「市民が集うリアルな場づくり」です。これまでの4回はオンラインのみでの開催でしたが、今回はオンラインとリアルでの併催でした。12月3日に上古町商店街に誕生した複合施設〈SAN〉にて、館長を務める〈合同会社アレコレ〉の迫一成さん、副館長を務める〈踊り場〉の金澤李花子さんがゲスト。自らも建築士としてリアルな場で活動する小林絋大さんをファシリテーターに、リアルな場と発信力の関係性、相手に印象づける思いの伝え方のヒントが散りばめられたイベントとなりました。

〈ヒッコリースリートラベラーズ〉
自己表現からまちのデザイン屋へ

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小林絋大(以下、小林):今日はオンラインとリアルの同時開催でお届けしています。ではまず、迫さん、自己紹介をお願いします。

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〈ヒッコリースリートラベラーズ〉の迫一成さん。

迫一成(以下、迫):私は「日常を楽しもう」をコンセプトに、〈ヒッコリースリートラベラーズ〉という雑貨店を上古町商店街三番町でやっています。もともとは2001年に、2坪のチャレンジショップという形態で表現活動を始めました。

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2003年に上古町商店街三番町で8坪の雑貨屋、その5年後くらいに、今の店舗がある場所へ移りました。元は酒屋さんだったところで、〈ワタミチ〉というお店を構え、本を貸したり野菜を売ったり演劇をしたり飲み会したり、“ぐしゃぐしゃ”した活動をしました。そしてその貸し物件を私が購入することになったので、それを機に雑貨機能と合体させて今のお店にしました。

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その頃から「デザインを頼めますか?」という依頼が少しずつ増えてきて、ブランディングやロゴ、パッケージを制作することが増えました。商店街の活動もいろいろやっていくんですけど、頼まれてもいないのに商店街のロゴマークをつくってお店をやっているおじさんたちに見せたら「いいね」って言われて正式に採用されましたね。また、あるとき会津若松の七日町へ行ったら地図だらけだったことから気づきを得て、商店街からのいらっしゃいませの気持ちを込めて、『かみふるチャンネル』っていうマップつきの新聞をつくりました。

デザインやイラストなど、やりたいことをどんどん詰め込んでいたことを、当時は自分の表現活動だと思っていたけど、振り返ってみると誰かに喜ばれたり、必要だと思うことをかたちにしていましたね。発信ということに関しては、カッコ良すぎたりデザインがきれいすぎると、嘘っぽくて伝わらないと思います。私たちのデザインの特徴は、手書きだったり、整えていなかったり、センターが揃ってなくて違和感があるところかなと思います。また、発信に熱量を込めることも大事にしています。

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例えば私たちが商品開発をした、浮き星という伝統菓子ではパッケージには白鳥1羽のロゴしかないのですが、その開封口に添えた小さい手紙に400〜500文字で自分の気持ちをしたためました。そしたらなんと、買った人がその思いを汲み取ってTwitterやSNSに紹介してくれたんです。小さい字でお客さんに届かないんじゃないか? って感じですけど、誰かがきっと見てくれていると思って、その誰かにいつか届くためのアプローチをしています。

妄想をしたためたミニペーパーが、現実になった
〈複合施設SAN〉

小林:続きまして金澤さん、よろしくお願いします。

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〈踊り場〉の金澤李花子さん。

金澤李花子(以下、金澤):私の紹介の前に、まずはここの紹介を。2階建ての築99年の長屋で営む、複合施設SANというお店です。上古町商店街三番町で12月3日にオープンする場所で(イベント日は11月26日)、〈キャンディバイキャンディ〉というお花屋さん、迫さんがプロデュースしている浮き星を紹介するカフェ〈喫茶UKIHOSHI〉、新潟食材を使っておいしいごはんを出してくれる〈ティオぺぺ〉、私が運営するギャラリー兼ポップアップ企画を行う〈踊り場〉で構成されます。2階はイベントスペース、カフェスペース、シルクスクリーン工房、事務所のほか、お仕事向けの会議室など貸し出しができる場所です。

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私は新潟出身ですが、家族が転勤族だったので、2、3年に1回は転校していました。鎌倉、静岡県、茨城県。小学校で新潟市、長岡市、そして埼玉県春日部市へ。中学・高校の6年間は新潟市にいました。大学進学を機に東京に出て、卒業後は雑誌編集者として『東京グラフィティ』という一般人に光を当てた雑誌をつくったり、広告制作のプロデューサーの仕事をしていました。東京で働きながらも「いつか新潟で暮らしたい」という気持ちがあり、去年の9月くらいからリモートワークができるようになったので、月の半分を新潟で過ごす、2拠点生活を始めました。高校生以来、久しぶりに新潟で過ごしてみると、人がいないとかではなく、昔と比べて自分のなかでワクワクしないというか、何か足りない気持ちになったんです。それは、人が集まれる場所。じゃあ自分にできることは何か? お店をやってみたい人、何かを見せたい人、そこに集うお客さん、みんなが気軽にまちに参加できるような場所をつくりたいと思ったんです。

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複合施設SANの館内図。

そして、自分が理想とする場の妄想をしたためたミニペーパーをつくって、友人・知人に、配っていたのですが、沼垂にあった〈books f3〉の小倉さんに見せたら、「置いていきなよ」と言ってくれ、置かせていただきました。それから数日後の大晦日、その私のミニペーパーが迫さんのインスタグラムに投稿されているのを偶然目にしまして。これは会いに行かなきゃと思い、今年3月に初めてヒッコリーに行って、迫さんにお会いしました。

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金澤さんが制作した、踊り場の構想を盛り込んだミニペーパー。

そのとき、すでに迫さんはこの場所でなにかやろうと決めていて、一緒にできる人を探しているところでした。私はまだ迫さんのことを知らなかったので、どうしようかなと1か月考えましたが、会社を辞めることを決意。そして今年の9月に新潟に戻ってきた頃からここの改修工事が始まって今に至りますね。

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発信に関しては、クラウドファンディングも利用しました。とにかく自分の気持ちを、暑苦しい文章を添えてぶつけたのですが、それだけだと嫌がられるかなとも思ったので、迫さんや小林さんなど、第三者に私を紹介してもらうコメントを書いてもらいました。友だちの友だちが言っていることは信用できるじゃないですか。人から人、と紹介制でファンを獲得していくやり方でやってみて、なんとか127人の方から支援をいただきました。これからは、新潟を紹介したり〈踊り場〉で踊ってもらったりするのが目標です。

やりたいことの先に仲間ができ、場ができる

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小林:ありがとうございます。今から3つのテーマをもとにお話を聞いてみたいと思います。最初のテーマは、場づくりと仲間づくり。リアルな場所として複合施設SANができましたが、場所があるから人が集まるのか、仲間がいるから場所をつくるのか。おふたりは、どう思いますか。

迫:僕は、実は場づくりも仲間づくりも全然好きじゃないんです。イラストとか、自分たちのやったことで社会が変わることに興味があるので。でも、やっぱりひとりじゃ寂しいからヒッコリーも3人で始めたわけだし。場づくりが特別好きなわけじゃないけど、結果、場ができたり、人と一緒に何かをしている、という感じです。

小林:矛盾を感じつつ、という感じなんですね。金澤さんは?

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全5回にわたってファシリテーターを務めた小林絋大さん。

金澤:私は場づくりしたい、から始まってます。編集とか写真って、光が当たらないところに光を当てるってよく言われるんですけど、私が担当する〈踊り場〉は人に光を当てたい。今まで編集業でやってきたこと、考えてきたことの延長線上として、アウトプットがリアルな場所になった感じですね。

小林:さきほどの金澤さんのイラストが、空間として見えましたよね。着想って、コンテンツが先ですか? 空間が先ですか?

金澤:このミニペーパーみたいに踊っている人たちが古町に集まったら、新しい風が吹いて楽しいのでは、というところからの着想です。

小林:迫さんはどうですか?

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現在の〈ヒッコリースリートラベラーズ〉の側面にも、元々あった〈渡道酒店〉の看板を設置している。

迫:昔やっていた〈ワタミチ〉ってそのイラストみたいにわちゃわちゃだったんですよ。結局そのときは儲からなかったけど、ひょっとしたら今だったらやれるかもしれない。金澤さんみたいないい人材ってなかなかまちにいないし、いたとしても気づいていないことも多い。そういう人と一緒にチャレンジしてみるのも大事かなと、今回思えました。

小林:金澤さんは、ここができて、拠点を持つことへの期待感などはありますか?

金澤:あります。ここで一緒にお店をやるお花屋さんや、ごはん屋さんという仲間もできました。それぞれのお店がそれぞれ、ここに連れてきてくれるお客さんがいると思うので、掛け算というか、倍々に人が集まっていくといいなと思います。

迫:お店はふたつ見つけていたので、あとはプレイヤーだなと思ってたところに金澤さんが来ました。僕はもうお店に力を入れる余裕はないので、ピースを集める役目として動いていましたが、結果的に仲間づくりにもなっていましたね。

思いを伝え、価値観を共有し、人をまちへと巻き込む

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小林:次のテーマは、人の巻き込み力。巻き込むのか、巻き込まれるのか。おふたりはどうですか?

迫:僕は巻き込まれる方が多いです。初めて金澤さんに会ったときは自分が巻き込んだ感じでしたけど、蓋を開けてみたら巻き込まれていましたね。一方で、スタッフとかお世話になっている人は巻き込んでいます。

金澤:私も両刀使いです。迫さんに巻き込まれたようで巻き込んでいるかなと。

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小林:編集視点というか、価値観を合わせていくのが大事かもしれないですね。巻き込まれたり巻き込んだりするときに、注意する点はありますか?

迫:先を考え過ぎないことが大事です。未来って予測できないし、あまり考えすぎても難しいですからね。

小林:金澤さんは今回クラウドファンディングで発信しましたけど、手伝うよ! みたいな声はあったんですか?

金澤:ありました。支援者は新潟の人が多いと思っていたけど、県外の人も多かったです。古町のことは知らなくても、私のことを支援してくれているんだなと自信になりました。だから気づかぬうちに、県外の人も上古町に巻き込んでいましたね。

小林:先程のおふたりそれぞれの紹介で、暑苦しい文章を書くのが共通点だなと思いました。

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前出のミニペーパー。表面には金澤さんの思いが綴られている。

迫:伝わりやすく、誰もが理解できる言葉で長く書くのは大事かなと思います。僕はそんなに文章が上手じゃないけど、たくさん書けばなんとかなるかな。「てにをは」なんてバラバラだけど、なんとなく伝わっている気がします。

金澤:前回のトークセッションに登壇してくださった〈HOZON/佐渡保存〉の菅原さんのお話では、SNSで最初は商品紹介をしていたものの、「いいね!」やフォロワーが増えなかったそうです。でも「疲れた」とかネガティブなことなどを書き始めたらフォロワーが増えて、テレビにも出たりしたそうです。この考えには私もわりと共感します。クラウドファンディングでは楽しかったこと、疲れたことなど、日記のように正直に出来事や感情を書いていました。

小林:量をこなしたり、身近な発信をすると、発信力は身につくものですか?

金澤:自分がやりやすい発信の仕方を見つけられるので、とにかく続けることが大事だと思います。

場づくりに完成はあるのか?
決めすぎず、余白の可能性を楽しむ

小林:次が最後のテーマです。SANは完成するのか?  金澤さんは、この場にどんな展望を抱いていますか。

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金澤:続けることが目標です。オープンバブルが冷めたときにいかに大切にしてもらえるか。それがいちばん大事、かつ難しいと思っていて。まずは自分たちが楽しくやりながら、人が共感してくれるポイントを見つけていこうと思っているので、永遠に完成しないのがいいかな。

迫:人が入ってきて、良い悪いの評価があっての完成だから、完成しなくていいかな。同じ状態で維持されることって絶対にないから、常に変わろうと思いながらやることが大事だと思います。2年後にはもっといろんな店が入っているかもしれない。決めすぎず、変化を楽しみながらやりたいです。

小林:余白があって、永遠に完成しないのもまた楽しみですね。ありがとうございます! 続いては参加者からの質問へ移ります。「SANに今後どんなお店になってほしいですか」という質問です。

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金澤:外から色々な人に来てもらって、新潟に新鮮な風を吹かせたい。私は東京の高円寺に住んでいたんですけど、そこの商店街には、椅子に座って500円で愚痴を聞いてくれる人がいたんです。そういう人でもいいし、変な人が来てほしい。

小林:迫さんはどうですか?

迫:だれかの「思い出の場所」になってほしい。「初めての展示をここでやりました」って人が出てくるのも楽しみですね。うちのスタッフの野中さんは、大学生のときに〈ワタミチ〉で写真の展覧会をやってくれたんです。そういう人が出てくることを期待しています。

小林:ありがとうございます。次は金澤さんに質問。「上古町が楽しくないと感じたのに、それでも上古町で何かしたいと思った」のはなぜですか?

金澤:私は家族が転勤族なので、地元と呼べる場所がないんです。中高生の6年間だけですけど、それまでの人生でいちばん長くいた場所で、楽しく青春を過ごしたのが上古町だったので、ここを自分の地元にしたいという、こだわりが根底にあります。

小林:なるほど。この質問には続きがありまして、「若い子にそう思ってもらえるように、大人たちがやるべきこととは?」です。

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迫:若い子たちがここで何かしたいと思ってもらえるように、環境を整えるのも大事ですけど、いちばんは自分がやりたいことをするということでしょうね。

小林:ありがとうございます。このオンラインセミナーをひとつのきっかけとして、新潟の人もこれから発信力を高めていければうれしいです。おふたりから最後にひと言ずつ、いただけますか。

迫:デザインとは関係性だと私は思っています。聞いてくれる人がいて話す人がいる。発信も、この関係性をつくることが大事かなと、今日ここで話して感じました。そのことも、参考にしていただければと思います。

金澤:複合施設SANはこれからですし、私は店もやったことがないのにこんな馬鹿でかいところにいるので、ヒヤヒヤというかアセアセしていることも含めて、温かく見守りつつ楽しんでもらえたらと思ってます! ありがとうございました!

小林:これにて、新潟の魅力発信セミナー「地元をオモシロくする10人の発信力」は終了です。みなさま、ありがとうございました!


Information

「地元をオモシロくする10人の発信力」セミナーは、2021年11月26日をもちまして、全5回のプログラムを終了いたしました。


text:片岡樹