新潟にU・Iターンした「ニイガタビト」のインタビュー。
新潟でのリアルな暮らしをご紹介します。
Profile カーブドッチワイナリー トラヴィーニュ シェフ 佐藤龍(さとうりゅう)さん
1988年生まれ。埼玉県桶川市出身。調理師の専門学校を卒業後、ホテルニューオータニ東京を皮切りに料理人としてのキャリアをスタートさせ、本格的にフレンチの世界へ。都内のフレンチの名店で働いた後、2016年に新潟市のカーブドッチワイナリーに入り、ワイン造りを学ぶ。翌年、ワインの本場・フランスに渡り、ブルゴーニュのレストランで料理人として1年ほど働き、2018年に帰国、結婚。 現在はカーブドッチに戻り、レストランのシェフとして活躍している。
専門学校を卒業し、フレンチの道へ
小さな頃から台所に立つ母親の隣で、料理の手伝いをするのが好きでした。食に興味があったので、高校卒業後は池袋にある調理師専門学校に進学しました。その頃に読んだ料理雑誌で、有名なフランス料理のシェフがメインディッシュの仕上げにソースをかけている写真を見て、それがとてもカッコよくて本格的に西洋料理をやるようになりました。
卒業後はホテルニューオータニ東京に就職。洋食部門で2年間働いたのですが、次第に「フランス料理をやりたい」という気持ちになり、ご縁があり銀座のフレンチレストラン、ラ・トゥールに移りました。そこで本格的にフランス料理を学び、勉強を重ねて腕を磨き、2年半ほど後に西麻布のル・ブルギニオンというお店で働きました。
そこで4年が経った頃、当時のシェフから「そろそろ、本場フランスに行ってみては?」という言葉をいただきました。料理人としてある程度のキャリアも重ねたし、元々ワインが好きだったこともあり、フランスに行く決意をしたのです。
ドラマのような偶然で新潟へ
ところが、2015年のパリ同時多発テロ事件の後だったことも影響していたのか、なかなかワーキング・ホリデーの認可が下りずに、行きたくても行けない状況になっていました。そんな時、都内のあるレストランでシェフと食事をしながら、「フランスに行けないなら、ワイナリーで働いてみたい」という話をしました。
そうしたら、たまたまそのお店が、新潟市にあるカーブドッチワイナリーの醸造長のお兄さんが経営しているレストランだったのです。その場で「弟に電話してみるよ」と言ってくださり、その翌日にはカーブドッチワイナリーで働くことが決まりました(笑)。
フランスでの生活を経て、再び新潟へ
ワイン造りのことも、新潟のことも何も知らない私がワイナリーにやって来たのは、ブドウ収穫の最盛期でめちゃくちゃ忙しい8月でした。ワイン製造部に配属され、すぐにブドウ畑に出て仕事をしました。大したことは何もできなかったけれど、本当に楽しかったです。大好きなワインができるまでの工程に携わることができたわけだし、すごく大きな経験でした。このちょっとしたドラマみたいな話が、私の最初の新潟暮らしでした。
しばらくの間、新潟でワイン造りをする中で、今度は漠然と世界一のワインの産地で暮らしてみたいと思うようになり、知り合いを通じてフランスのブルゴーニュにあるレストランにコンタクトを取って、1年間の期限付きで働くことになりました。フランスでは料理人として働きながら、休日はワイナリーを巡ってたくさんのワインを飲みました(笑)。約束の1年が経ち、ちょうど妻との結婚を決めたこともあり、日本に戻ることになったのですが、日本のどこで料理人をやるかを考えた時、「東京じゃない」と思いました。
新潟はフランス料理店が本当に少なく、逆にそういう場所でこそ、勝負した方が楽しいんじゃないか。のどかな場所で仕事をしたいし、ワインの近くで暮らしたい。となると、もう答えは出ますよね(笑)。ありがたいことにカーブドッチワイナリーのレストランからシェフとして来てほしいと言ってもらい、2018年の6月から2度目の新潟暮らしが始まりました。
生産者からの声が料理のアイデアに
料理人の視点で見ると、新潟は食材の面が非常に豊かだと思います。ワイナリーのすぐ近くには海があり、新鮮な魚が手に入る間瀬(まぜ)漁港があります。漁師さんから直接魚を買うこともあるのですが、市場にはなかなか出回らない魚を仕入れることができたりもするし、驚きや発見があって楽しいです。
漁師さんに「この魚はどうやって食べるとおいしいですか?」と聞いたり、野菜農家さんに「11月になるとどんな野菜が出ますか?」と聞いたりして、生産者の方と直接話すことができます。それが調理方法や食材の組み合わせのアイデアにつながることもあります。これは東京ではできないことだし、新潟で料理人をやっているからこそのおもしろさだと感じています。それに、ワイナリーの中にあるレストランだからこそ、ワインと寄り添う料理を作ることができるのは幸せだと思います。
休日は妻といろんなところに出かけています。新潟に住んでみてはじめて、おいしい和菓子店が多いことを知りました。妻と和菓子店や野菜の直売所を巡るのが楽しみです。それに、水族館のマリンピア日本海が大好き過ぎて、年間パスポートを購入して常に携帯しています!ただ、唯一不便を感じるのは、新潟はクルマ社会なので、食事に出かけてもドライバーがいないと気軽にお酒が飲めないこと。ワインが大好きな私は少し残念だと感じることもあります。
新潟は料理人がチャレンジできる土地
料理人は労働時間が長くて休みが少ないというイメージがあるかも知れません。ですが、カーブドッチワイナリーは、月8日間の休日がありますし、シフト制なので平日の労働時間は8時間くらい。しっかりオン・オフを分けることができ、働く環境はすごくいいです。事実、1年前に私が新潟に移住して働き始めた後にも「カーブドッチで働きたい」と、県外から移住してうちに就職したスタッフが何人もいます。
新潟にはフランス料理店もほかのジャンルのレストランも東京に比べたら圧倒的にお店の数は少ない。だけど、食材やロケーションは東京では手に入らないものがあるので、料理人が活躍できる環境があると思います。志があって新潟の持っているポテンシャルを活かすことができる人なら、新潟でチャレンジするのもいいのではないでしょうか。
今は地方のガストロノミーが注目されていますし、地域の外から来た料理人がおいしい料理を作って注目を集めている例がたくさんありますよね。だから、その地域の秘めた力を見出して広めるには移住者の視点が大事だと思います。
踏み出した場所で、どれだけ努力できるかが大事
カーブドッチワイナリーには、おかげさまで県外からも多くのお客様が来てくださいますが、その数をもっと増やしていけるように、料理人としてレベルアップしたいです。おいしいレストランが増えれば、たくさんの人が新潟に来ることになり、それが結果的に働く私たちのモチベーションにもつながりますよね。
もし、移住するかどうかで迷っているのなら絶対に踏み出すべきです。進む先がどこかは、ある意味どうでもいいのです。大事なのは進んだ先で、自分が思い描く姿になるためにどれだけ努力するか。私は直感で新潟に来たようなものだし、今新潟で料理人として働きながら幸せだと感じられているのは、そうなれるように努力して、時間を重ねたからだと思っています。迷っているなら進む!これだけです!仮にうまくいかなかったとしても、またその先に進めばいい。ただ、それだけのことです!
●
この企画は、にいがたU・Iターン総合サイト「にいがた暮らし」の「ニイガタビト」の出張版です。2019年8月20日に掲載されたこちらの記事を転載しています。
【関連リンク】
web:カーブドッチワイナリー
他にもいろいろ、新潟の暮らしかた