やりたいことをこどもが自ら選択し、遊びきる。
長岡・寺泊の「海」と「山」がフィールドの
〈海辺のこども園 かいじゃり〉 | Page 2
目次
「海」という場所だからできる育み
野外保育に魅了され、森のようちえんなどで経験を積み、〈海辺のこども園 かいじゃり〉をスタートさせた園長の太田 真さん。海に近いこの場所を保育の拠点にしたのには、自身の幼少期の経験がもとになっているといいます。
「出身は加茂市なんですが、長岡市に縁があったり、母の実家が富山の海のすぐ近くだったり、家族でよく釣りに行ったりと、こどもの頃は海で過ごすことが比較的多かったんです。僕にとって海は大好きな場所。この環境を選んだのは、そんな思いが強かったからだと思います」
そんな真さんが寺泊を中心に住まいを探していたとき、空き家だったこの家に出合います。海を一望できる立地が気に入り、2015年に購入。県内の森のようちえんに勤務しながら設立の準備を進め、2019年に開園となりました。
「この海の景色をこどもたちと一緒に見られたらいいなって思ったんです。海へすぐ行ける距離だし、日常のなかに海の暮らしがあるなぁと」
その言葉通り、〈かいじゃり〉では海を中心としたさまざまな活動が行われています。
海藻が増える春は、こどもたちと岩海苔を収穫して佃煮や板海苔にしたり、打ちあがったワカメをお吸い物の具材にしたり。アオサを乾かして青海苔にし、たこ焼きにかけて食べることも。
夏は海に出て水遊びを楽しみながら、多様な生き物の観察や、釣りなどにも取り組みます。貝を採って汁物の出汁にすることもあるのだそう。
「15センチくらいの魚を釣った5歳の女の子は、初めの驚きが時間とともに喜びに変わって。そうするうちに魚が弱って死んでしまうと『かわいそう』という気持ちを抱いて。その魚を食べてみたら『おいしい! おかわり!』と、さまざまな感情の起伏を経験した一日になったようです」
秋には信濃川沿いのクルミの木から落ちた実が海に流れ着き、それらを拾って中身をくりぬき、五平餅にして食べることもあります。
そして、冬場になるとおおいに荒れる日本海。園舎の窓にも波のしぶきが飛んでくるのだとか。
「長いうねりを見て『あそこに龍がいる!』という表現をする子もいますね。夏場は海に出ていろんな生き物たちと触れ合う一方で、冬場の人が近づけない荒れ狂う海も目の当たりにする。ここでは海の四季をダイレクトに感じることができるんです」
海という場所の楽しさ、生き物の多様さ、穏やかさ、怖さ、美しさ――。幼少期の真さんがときめいていたという海のさまざまな事象を、この場所でこどもたちにも存分に体験してほしい。そして、それらの体験と折り重なるように、自身の成長を感じ、自信につなげてもらいたいといいます。
〈かいじゃり〉の日々で得た知恵、目にした風景は、こどもたちの記憶の深い部分に残り、真さんと同じように、ふとした瞬間に蘇る大切なものになっていくかもしれません。