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毎日がまるで遠足!?
新潟市秋葉区の自然の中で遊びつくす
〈Akiha森のようちえん〉

2024.12.23

新潟市街地から車で30分ほど南に下った新潟市秋葉区にある〈認定こども園 Akiha森のようちえん〉。地域の里山をフィールドに、こどもたちは春夏秋冬の移ろいを感じながら、自然を相手に遊びを見つけて、目いっぱい活動しています。

一日のほとんどを自然の中で過ごすという同園。よほどの悪天候でない限りは、雨も雪も関係なく野外で活動するのだとか。いったいどのような園生活を送っているのでしょうか? ある日の園の過ごし方や、運営者の思いをご紹介します。

園庭もあるけれど、
日々の遊び場は地域の“里山”

その日〈Akiha森のようちえん〉に到着すると、園舎にも、園庭にも、こどもたちの姿はありません。“森の基地”と呼ばれている園舎周辺はしんと静まりかえり、野外にある音楽堂のステージには、今日の日付、天気、給食内容、午前・午後の遊び場が記された黒板が置いてありました。

「こどもたちはもう今日のフィールドに出かけているんです」と語りながら園舎から出てきたのは、同園の設立者であり、副園長の原 淳一さん。

日付とその日の天気、予定、給食の内容が書かれた黒板
野外音楽堂のステージに置かれてあった黒板。どうやらその日は「きのぼりひろば」というフィールドに出かけている様子。

今回ご紹介する〈Akiha森のようちえん〉は、環境保全活動の研修でドイツを訪れた原さんが、同国の自然に対するまなざしや敬意、森のようちえんのあり方などに感銘を受け、NPO法人〈アキハロハス〉を立ち上げたのち、2011年に開園。当初は無認可保育施設としてスタートしましたが、現在は認定こども園となり、2歳から6歳までの36名のこどもたちが通園しています。

園内にも広々とした庭はありますが、こどもたちの遊びのフィールドとなるのは秋葉区の広大な里山。そこに7~8つの遊び場を定め、日々そのフィールドへ出かけては一日の多くを過ごしています。

ある日の〈Akiha森のようちえん〉の過ごし方

登園してきたこどもたちは、9時半から始まる「朝の会」まで園庭で自由に遊びます。朝の会では、日にち、天気、その日に向かうフィールド、今日の当番を保育士と一緒に確認。その後みんなで暗唱するのは、孔子の『論語』。

「開園の際に私が選んだ10の論語です。ひと月に1語、毎朝みんなで暗唱して、次の月には違う語を暗唱する。それを3~4年間繰り返していると、こどもたちは自然とこの10の論語を身につけて卒園していくんです」

その意味を知識として知ることが目的ではなく、体にしみ込んだその言葉が、いつか人生のなかで選択を求められた際のヒントになれば、と原さんは語ります。

園舎内に掲げられた『論語』の書
園舎の玄関に掲げられている『論語』。

朝の会のあとは、いざフィールドへ。2歳から6歳までの全園児は、自らの足で山道を歩き、目的地を目指します。

こどもたちがその日通ったというルートを辿ってみると、アップダウンが激しく、なかなかの険しい山道。大人でも20分はかかるこの道を、保育士のサポートのもと、こどもたちは楽しみながら歩いていくのだといいます。

山深い中にある山道
こどもたちが歩いている山道。木漏れ日が美しく、道中には多種多様なキノコ、形もさまざまなどんぐりや木の実などがみられました。

その日のフィールド「きのぼりひろば」が見えてくると、こどもたちの元気な声が耳に届きます。原さんに気づいたこどもたちが駆け寄ってきて、手にしていた赤い実や、捕まえたトンボなどを見せてくれました。

広い原っぱを駆け回り、木に登り、全身で遊ぶこどもたち。遊具がなくても、木、草花、虫など、そこにある自然の中から遊びを見つけ出し、その発見を共有しながら過ごす姿がありました。

4人の女の子それぞれがトンボを手にしている
それぞれが手にトンボを持ち、まじまじと観察していた女の子たち。
木の枝に寝そべる子、その枝を揺すっている子

12時頃になると、園舎で用意したお弁当を持って、調理スタッフがフィールドにやってきます。「待ってました!」とばかりにこどもたちは手を洗い、お弁当を順番に受け取ります。

2人の調理スタッフさんが草むらで昼食を準備している
一列に並んでお弁当を受け取るこどもたち

この日の献立は、サバの竜田揚げ、三色ひたし、いものこ汁。それらを受け取って、あずまや、原っぱ、木陰など、めいめいのお気に入りの場所へ。小さな子に「だいじょうぶ? 持ってあげようか?」と声をかける大きな子の姿もありました。

木のベンチに座ってお昼を食べる2人の男の子
キャンプのような雰囲気の食器で提供されているお弁当とお味噌汁
カリカリに揚げられたサバの竜田揚げをおいしそうに頬張っていたこどもたち。「魚の皮がおいしいんだよね!」と最後までとっておく姿も。素材は新潟県産のものが中心。小麦粉や卵を使わずにつくられています。

「いつもお弁当スタイルの給食を提供しています。みんなお代わりしてくれて、カラの状態で園に戻ることが多いですね」

と調理スタッフさん。目いっぱい遊んだあと、気の合う仲間と自然の中で食べるごはんの味は、忘れがたい記憶となるのではないでしょうか。

木登り中のこどもたちと見守る保育士さん
フィールド遊びの際は、保育士の目の届かない所には行かない、帽子を被るなど、最低限のルールが伝えられています。それ以外は基本的に自由。

お弁当を食べ終えると、すぐに遊びを再開するこどもたち。保育スタッフが見守るなか、高い木にも果敢にチャレンジする姿のたくましいこと!

14時頃になると、こどもたちは荷物をリュックに詰め、園舎に戻る準備をします。行きよりも険しい山道を進み、ようやく園舎に辿り着いたかと思いきや、リュックを置いてすぐに園庭で遊び始めるこどもたち。その無尽蔵の体力に、ただただ驚かされるばかりでした。

大きな木の板で作られた滑り台で遊ぶ2人のこども
“森の基地”に戻ってすぐ、すべり台で遊び始めるこどもたち。
ままごと遊びが始まった園舎内の一角
ままごと遊びに興じるこどもたちも。

「朝早い子は8時前から来て、夕方の5時くらいまで遊んでいます。午前中にお日様にいっぱい当たるとよく眠れるし、よく食べるようになる。生活のリズムがしっかり整うんです」

そう話す原さんは、どれだけ遊んでいても「疲れた」という言葉をこどもたちから聞かないといいます。

遊具、おもちゃ、ゲームなど、多くを与えなくても、こどもは自然の中でさまざまなモノゴトを発見し、それらでとことん遊びつくせる――。発想力、創造力、柔軟性、強さ、たくましさといった、こどもたちの“遊ぶ力”を目の当たりにした一日となりました。

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野外で遊ぶ!?


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