毎日がまるで遠足!?
新潟市秋葉区の自然の中で遊びつくす
〈Akiha森のようちえん〉
目次
新潟市街地から車で30分ほど南に下った新潟市秋葉区にある〈認定こども園 Akiha森のようちえん〉。地域の里山をフィールドに、こどもたちは春夏秋冬の移ろいを感じながら、自然を相手に遊びを見つけて、目いっぱい活動しています。
一日のほとんどを自然の中で過ごすという同園。よほどの悪天候でない限りは、雨も雪も関係なく野外で活動するのだとか。いったいどのような園生活を送っているのでしょうか? ある日の園の過ごし方や、運営者の思いをご紹介します。
園庭もあるけれど、
日々の遊び場は地域の“里山”
その日〈Akiha森のようちえん〉に到着すると、園舎にも、園庭にも、こどもたちの姿はありません。“森の基地”と呼ばれている園舎周辺はしんと静まりかえり、野外にある音楽堂のステージには、今日の日付、天気、給食内容、午前・午後の遊び場が記された黒板が置いてありました。
「こどもたちはもう今日のフィールドに出かけているんです」と語りながら園舎から出てきたのは、同園の設立者であり、副園長の原 淳一さん。
今回ご紹介する〈Akiha森のようちえん〉は、環境保全活動の研修でドイツを訪れた原さんが、同国の自然に対するまなざしや敬意、森のようちえんのあり方などに感銘を受け、NPO法人〈アキハロハス〉を立ち上げたのち、2011年に開園。当初は無認可保育施設としてスタートしましたが、現在は認定こども園となり、2歳から6歳までの36名のこどもたちが通園しています。
園内にも広々とした庭はありますが、こどもたちの遊びのフィールドとなるのは秋葉区の広大な里山。そこに7~8つの遊び場を定め、日々そのフィールドへ出かけては一日の多くを過ごしています。
ある日の〈Akiha森のようちえん〉の過ごし方
登園してきたこどもたちは、9時半から始まる「朝の会」まで園庭で自由に遊びます。朝の会では、日にち、天気、その日に向かうフィールド、今日の当番を保育士と一緒に確認。その後みんなで暗唱するのは、孔子の『論語』。
「開園の際に私が選んだ10の論語です。ひと月に1語、毎朝みんなで暗唱して、次の月には違う語を暗唱する。それを3~4年間繰り返していると、こどもたちは自然とこの10の論語を身につけて卒園していくんです」
その意味を知識として知ることが目的ではなく、体にしみ込んだその言葉が、いつか人生のなかで選択を求められた際のヒントになれば、と原さんは語ります。
朝の会のあとは、いざフィールドへ。2歳から6歳までの全園児は、自らの足で山道を歩き、目的地を目指します。
こどもたちがその日通ったというルートを辿ってみると、アップダウンが激しく、なかなかの険しい山道。大人でも20分はかかるこの道を、保育士のサポートのもと、こどもたちは楽しみながら歩いていくのだといいます。
その日のフィールド「きのぼりひろば」が見えてくると、こどもたちの元気な声が耳に届きます。原さんに気づいたこどもたちが駆け寄ってきて、手にしていた赤い実や、捕まえたトンボなどを見せてくれました。
広い原っぱを駆け回り、木に登り、全身で遊ぶこどもたち。遊具がなくても、木、草花、虫など、そこにある自然の中から遊びを見つけ出し、その発見を共有しながら過ごす姿がありました。
12時頃になると、園舎で用意したお弁当を持って、調理スタッフがフィールドにやってきます。「待ってました!」とばかりにこどもたちは手を洗い、お弁当を順番に受け取ります。
この日の献立は、サバの竜田揚げ、三色ひたし、いものこ汁。それらを受け取って、あずまや、原っぱ、木陰など、めいめいのお気に入りの場所へ。小さな子に「だいじょうぶ? 持ってあげようか?」と声をかける大きな子の姿もありました。
「いつもお弁当スタイルの給食を提供しています。みんなお代わりしてくれて、カラの状態で園に戻ることが多いですね」
と調理スタッフさん。目いっぱい遊んだあと、気の合う仲間と自然の中で食べるごはんの味は、忘れがたい記憶となるのではないでしょうか。
お弁当を食べ終えると、すぐに遊びを再開するこどもたち。保育スタッフが見守るなか、高い木にも果敢にチャレンジする姿のたくましいこと!
14時頃になると、こどもたちは荷物をリュックに詰め、園舎に戻る準備をします。行きよりも険しい山道を進み、ようやく園舎に辿り着いたかと思いきや、リュックを置いてすぐに園庭で遊び始めるこどもたち。その無尽蔵の体力に、ただただ驚かされるばかりでした。
「朝早い子は8時前から来て、夕方の5時くらいまで遊んでいます。午前中にお日様にいっぱい当たるとよく眠れるし、よく食べるようになる。生活のリズムがしっかり整うんです」
そう話す原さんは、どれだけ遊んでいても「疲れた」という言葉をこどもたちから聞かないといいます。
遊具、おもちゃ、ゲームなど、多くを与えなくても、こどもは自然の中でさまざまなモノゴトを発見し、それらでとことん遊びつくせる――。発想力、創造力、柔軟性、強さ、たくましさといった、こどもたちの“遊ぶ力”を目の当たりにした一日となりました。