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レポート2021.12.03

【オンラインセミナーレポート】
食が届けるローカルの魅力

初めて訪れた土地でも、地元で暮らす人にとっても、食文化には驚かされることが多い。とくに歴史と土地に紐づく食と出会えたならば、そのまちへの見え方が変わることもあります。

〈新潟コメジルシプロジェクト〉では、新潟にとって当たり前の日常を魅力として伝えるオンラインセミナー「地元をオモシロくする10人の発信力」を開催中。第4回でスポットライトを当てられたのは「食が届けるローカルの魅力」です。絶滅寸前だった食用菊〈りゅうのひげ〉の商品化を手がける元〈いわむろや〉館長の小倉壮平さんと、佐渡食材でつくるオリジナルの保存食品を販売する〈HOZON/佐渡保存〉の菅原香子さんをゲストにお招きし、食から新潟を再発見するヒントを探ります。

前回に引き続きファシリテーターは小林紘大さん。これまでのセミナーで培った経験をもとに、県外出身であるおふたりが新潟に注目した理由をひも解きます。

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ファシリテーターの小林絋大さん(左上)、元〈いわむろや〉館長の小倉壮平さん(右上)、〈HOZON/佐渡保存〉の菅原香子さん(左下)。

佐渡の地元食材にあたらしい価値を加える
〈HOZON/佐渡保存〉

小林紘大(以下、小林):新潟県のポータルサイト『新潟のつかいかた』で、「おいしいものはジモトが知っている」というコンテンツが注目されています。ローカル視点での食を知るニーズが高まっているなかで、はじめに菅原さんと佐渡との出会いから教えてください。

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菅原香子(以下、菅原):私は生まれが東京都足立区で、ただの佐渡好きです。祖父は寿司屋を、祖母は蕎麦屋を営む家系で育ち、幼少期から日本らしい食文化に囲まれて過ごしてきました。大学で建築を学んだものの、食から離れたくないという想いから北陸地域の食を扱う企業に就職しました。

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新潟に行って田植えをしたりして地域との縁を深めていき、大学の恩師の言葉をきっかけに、佐渡の地域活性化を行う〈合同会社ひととき〉に転職しました。佐渡のためなら何を行ってもいいという会社でしたので、カフェを立ち上げました。しかし運営していくにつれて、そもそも佐渡を知らない人が多いのではないかと感じたんです。

そこで2018年に、カフェ運営から保存食事業に転換して、四季折々に取れる佐渡の素材をジャムに、煮付けに、コンポートにした保存食をつくって、首都圏を中心としたギフト需要を狙うことで、佐渡を知ってもらおうと思いました。

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当時は、佐渡にある工房で保存食をつくって、深夜3時に東京へと出発してイベント出店を行うという日々。そんな日々が辛く、体力的にも限界でしたので、同年、東京の清澄白河に工房を兼ねた喫茶店をオープンしました。

ただ店舗運営と保存食事業をふたりで行っていたため、例えば100キロ近いりんごを接客の合間を見つけては手作業で加工していくというような、きつい仕事になっていました。そんな作業風景をインスタで投稿し始めたところ、東京に住む佐渡出身の方たちがボランティアとして手伝ってくれるようになったんです。

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〈佐渡保存〉というブランドでは、正規品と、形がよくないロスを、半々ずつ活用して保存食をつくっています。

農家はいいものを届けるために一生懸命つくっている、そんな思いを汲み取りつつ、ロスにも存在価値を与えるために素材を生かすスパイスと組み合わせたりしています。

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佐渡保存の主力商品「ポテサラに合うオニオン」は、佐渡産の玉ねぎを白ワインビネガーとスパイスで煮込んだもの。

もうひとつの〈HOZON〉というブランドでは、日本各地にある私たちのような瓶詰屋や保存食屋から食品を卸してもらっています。2021年10月から、シロップと自家製酒の量り売りの許可を取得できたので、佐渡保存とHOZONを組み合わせながら販売し、好評をもらっています。

絶滅危惧種から一般流通するまで復活した
食用菊〈りゅうのひげ〉

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小倉壮平(以下、小倉):続いて、僕からは新潟市西蒲原郡の岩室温泉で取り組む伝統野菜〈りゅうのひげ〉についてお話します。

武蔵野美術大学に在学中、僕は岩室温泉でアートイベントを仕かけるスタッフの一員として地域と関わり、新潟に移住して今に至ります。2010年から10年間、観光施設を指定管理するNPO法人の事務局長と〈いわむろや〉の館長を務めさせてもらい、地域活性化と西蒲のブランディングや商品開発をみなさんと一緒に取り組んできました。

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新潟に移住してまず見つけたもの、それは農産物の魅力でした。直売所に並んでいる野菜が、なぜこんなにもおいしいのか。農家に聞いて回っているうちに、この体験を農家レストランとして提供してみたいと考えました。
現在の〈灯りの食邸 KOKAJIYA〉の場所で、野菜ソムリエとして活動していた山岸拓真さんと二人三脚で、農家のお母さんたちの日常を価値として届ける農家食堂〈やさいのへや〉を月2回、運営していました。

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農家さんたちのネットワークをつくっていくうちに、農家のおばあちゃんから「昔はね、りゅうのひげというおいしい食用菊があったんだよ」と教えてもらいました。そこでりゅうのひげを1年かけて探し続けて、とあるお家の庭に2株のみ残っているものを見つけました。さらに2年間かけて、農家さんにりゅうのひげを預けて栽培してもらいました。

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りゅうのひげは、一般的な食用菊〈かきのもと〉と違って、しゃきしゃきとした食感と上品な香り、鮮やかな黄色の花びらが特徴。

りゅうのひげの栽培数が増えてきて流通できそうになったので、次はブランディング。岩室温泉のお隣、三根山藩には、りゅうのひげを使った菊ごはんが大好きだったお殿様がいました。そのストーリーを生かして、ブランドづくりに着手していきました。

また農家食堂〈やさいのへや〉でお世話になったお母さんたちと〈りゅうのひげ会〉を結成し、黄色菊の生産地である青森県に視察に行ったり、新潟の食をテーマにした展示会に出展させてもらいました。

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食用菊の生食のほか加工品も始めています。もともと生産量が少なく、出荷時期が遅いため、天気が悪くなると花びらが茶色になってしまうという課題がありました。そうしたB品も余すことなく活用するために、乾燥させた花びらを菊茶や佃煮に加工して瓶詰にしたり。こうした加工と仕分け作業を地域の福祉施設と連携して行っています。

マスメディアやインスタ、そして地域の伝統野菜ブームが後押しとなって、現在では東京や大阪、秋田の卸問屋へと取引先を広げて、新潟では〈ぽんしゅ館〉で取り扱いが始まりました。

農家と事業者をつなぐ、地域をコーディネートする編集視点

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トークセッションでは、3つのテーマ「食材を切り口にした編集とは?本当においしいものは地元が知っている」「届ける、新潟の食材とは? 首都圏に届ける。地域に届ける。」「地域の食材どう発信する? わたしにもできることって?」をもとに対話した。

小林:おいしいものはジモトが知っている、まさに地を行きますね。おふたりとも農家や生産者ではなく、プロデュースする立場かと思います。焦点を当てる食材を発見する方法をお聞きしたいです。

小倉:僕はおばあちゃんがキーパーソンとなっています。岩室温泉に住んでいなかったら、もし住んでいてもよそものではなかったら、気づけなかったことです。

菅原:私は佐渡市役所の方に農家さんを紹介してもらいましたが、育てることと仕入れることではまったく別物と気づきました。おいしくても生産量が足りないということも多く、出荷日を調整するなど商業にするまでに時間がかかります。

小倉:地域あるあるですよね、生産者は事業者に野菜などを渡したいけど、そうできないケースもあります。それは現地にコーディネートできる人が少ないからでしょう。農家と事業者では距離が遠いんです。

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地方の歴史を遡ると、りゅうのひげのように、育てたくとも育てられない訳がわかる。

小林:プロデュースする食材がすばらしくても、知ってもらうためには編集する力が必要だと感じています。佐渡保存とりゅうのひげ、この言葉の表現はどう生まれたのでしょうか。

菅原:はじめは商品の品質ありきとするか、佐渡のおいしさをブランディングしていくかが論点でした。私は佐渡を軽井沢みたいなハイブランドにしたいと言い続けて、みんなが覚えやすく、コンセプトがはっきりとした佐渡保存という名前に決めました。

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小倉:もともと、おばあちゃんたちがりゅうのひげと呼んでいたので、そのまま拝借しました。金唐松(きんからまつ)や糸唐松(いとからまつ)と認知されている方がいますが、特徴である繊細な花びらからも髭を想起できますし。前述の通り、りゅうのひげにあるストーリーを表現するために、お殿様の御膳をイメージした黄色の煌びやかさをパッケージデザインに落とし込みました。

ニッチな食材こそ、県外で認知を広めて地元に逆輸入する

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小林:東京の展示会に出展し、りゅうのひげを販売した当時の様子をお聞かせください。

小倉:東京だと菊を食べる文化がないため、そのまま食用菊として販売しても関心を引かない。だから、エディブル・フラワーや彩りの花としてみせることで食いつく人が多かったと思います。

菅原:私たち、佐渡保存の名が広がったのは展示会以上にインスタの力が強くて。小さな事業者は広告に使えるお金もないし、試行錯誤しながら伝えるしかありません。きれいな写真から始まって作業風景、そして多忙な日々を投稿することでお客様との距離が近くなりました。

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佐渡保存のインスタでは、キャッチフレーズにもこだわりをみせる。

小倉:僕たちは県内販売を3年間続けてきましたが、どうしても頭打ちとなってしまう。だから、県外の展示会に赴いてりゅうのひげの評価を高めてから、県内へと逆輸入することに決めました。

菅原:その気持ち、すごくわかります。私もコロナ禍以前の2019年に、佐渡保存を持って佐渡で逆輸入販売したんです。佐渡で工房を持っていたときとは、比べものにならない行列ができるほどの反響でした。

ローカルと食。情報に埋もれないためのキャラクターで突き抜ける

小林:県内でもインスタ活用が増えているなかで、おふたりにとって印象的なエピソードはありますか。

小倉:商談相手や卸屋さんからも、りゅうのひげのインスタ経由でお問い合わせが来ることに驚いています。菅原さんも僕たちも分野としてはニッチですので、ローカルの食材を探している人にとってSNSは見つけやすいツールかもしれません。

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菅原:私たちもインスタで、バイヤーさんからDM(ダイレクトメッセージ)をもらったりします。カンフル剤としてマスメディアに取り上げていただくことも大事ですが、強固なファンをつくるうえでは、SNSはなくてはならないものです。

なぜなら私生活や趣味、ときに業務上での苦しさをインスタで綴ることだって、ファンの方に大切にしようと思ってもらえるきっかけとなり、佐渡保存や商品の価値を高めてくれます。佐渡が好き、というニッチから広げるためには中の人のキャラクターが必要なんです。

小林:生産地から食卓に届くまでのストーリーがあるからこそ、どういう風に切り取って、分解し、編集するのか。「食の編集」が大事になってくることがわかりました。みなさん、ありがとうございました。


Information

「地元をオモシロくする10人の発信力」セミナーは、2021年11月26日をもちまして、全5回のプログラムを終了いたしました。


text:水澤陽介(SANJO PUBLISHING)