新潟のつかいかた

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上越の田んぼでお米を育てる
俳優・小林涼子さん
AGRIKOを起業し、農業の価値を高める Posted | 2025/11/07

人気俳優が新潟で農業を始めた理由

俳優として幅広く活躍する小林涼子さんは、NHKの朝ドラ『虎に翼』にも出演。さらに2021年には起業し、新潟や東京で農業にも取り組むなど、俳優と社長、二刀流ともいえる多彩な顔を持っています。

2014年、お父さんの友人の縁で、新潟県上越市の田んぼをお手伝いに行った小林さん。それまで観光で訪れたことはあっても、新潟で農作業をするのは初めてでした。

「最初は遊びでした。戦力にはまったくならず、楽しく稲刈りを体験させてもらいました。新潟に来て、特にこのあたりは山深いし、植物の生命力がすごい。東京に比べると何もないと思ったのですが、実は『何でもある』。田んぼも畑もあって、自生している山菜もある。都会の価値観がすべてではないと感じました」

それまでの小林さんは東京の中心で生まれ育ち、東京の価値観で暮らしていました。しかし新潟での体験によって大きく視点が変わったようです。それからは毎年のように田んぼを訪れるようになりました。

雨の中、棚田までの道を歩く小林涼子さん
撮影日はあいにくの雨模様。それも農業のリアルな姿です。

棚田の「名もなき作業」をお手伝い

小林さんがお手伝いしている田んぼは山あいの棚田です。新潟県は農林水産大臣が認定した「つなぐ棚田遺産」の認定数が全国最多、面積も日本一の「棚田県」。新潟というと平野部の広い田んぼをイメージすることが多いと思いますが、山間部には傾斜を利用した棚田がたくさんあります。また、観光としても整備された棚田が人気を集める一方で、山奥にある棚田でもきちんとお米は育てられていて、新潟のお米の底力を感じます。

「山の雪解け水、風の抜け方、太陽の当たり方。そういうことをうまく利用しているのが棚田。本当によくできているんだなって思います」

今年は雨が少なく、日本中の田んぼで渇水に悩まされましたが、この棚田には大きな影響はなかったとのこと。多様な田んぼがあることは、利点があるのです。

コンバインを運転中
コンバインを乗りこなす小林さん。(写真提供:AGRIKO)

「田んぼが小さく区切られているのは、実はリスクヘッジにもなっていると思います。例えば、ひとつの田んぼはイノシシに入られてしまったけど、ほかは大丈夫だとか。ひとつは虫が多いけど、ほかは大丈夫だとか。生きる知恵だったんだと思います」

ただし棚田は通常の田んぼより作業の手間がかかります。

「お手伝いと言ってるけど、私は機械がそんなに上手ではないし、立派なことをできるわけでもありません。でも農業って包括的で、苗箱を洗ったりとか、端刈りしたり、刈った稲を束ねたり、落穂拾いしたり。小さな名もなき作業がいっぱいある。そういうちょっとしたことでも役に立っている感覚が楽しくて」

稲刈り作業が始まった棚田
小林さんが惚れた美しい棚田。(写真提供:AGRIKO)

この棚田は意識して保全していかなくてはすぐに失われてしまいます。農業従事者の減少は大きな問題。小林さんは偶然にもNHK FMのラジオドラマ番組、FMシアターの作品『田毎の月が沈む』で主演、棚田の相続問題に悩む女性を演じました。

「一面に稲が生えてる黄金色の景観を見ると、何より本当に美しい。私みたいにちょっと手伝うことから始めて少しでも維持に貢献できるといいなと思いますし、この景色を守りたいなっていう気持ちもあります」

収穫したお米を両手ですくっている

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