新潟のつかいかた

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上越の田んぼでお米を育てる
俳優・小林涼子さん
AGRIKOを起業し、農業の価値を高める | Page 2 Posted | 2025/11/07

〈AGRIKO〉の起業

こうして上越の田んぼに通うようになった小林さん。秋冬は農業の農閑期です。すると新潟のおいしい冬の幸に出合えます。

「以前、鮭が遡上してくる場所に、イクラをとる作業を見学しに行ったことがあります。そこでとったイクラがすごくおいしかった。鮭も川をずっと上っていくと、皮が固くなるらしいです。でもここは海と川が近い下流だから、めちゃくちゃやわらかくておいしいんですって! 新米に乗せたら天国! 新鮮なので卵の味がして、イクラが卵であるということを再認識しました。一粒一粒が命だってこと」

お米の選別計量機の横に立ち笑顔の小林さん
地道な籾摺りや米袋を運ぶ力仕事でもこの笑顔。

新潟はおいしい。この感覚が〈AGRIKO〉の起業につながったといいます。

「おいしいものは勝手にできるわけではなくて、育てる人や加工する人によって育まれてきた文化。人がいなくなったり、手伝う人がいなくなったら、そもそもおいしいって持続しないんだってことに気づきました」

持続したくても、家族の体調不良を機に持続できない状況になってしまい、初めてその脆さに気づき、それに対して今まで無自覚であったことに危機感が生まれました。

「それまで食への感謝はあったけど、どこかまだ他人事でした。米は植えなかったら収穫されないわけだし、山菜も気づかれなかったら食べられずそのままなわけで。初めて自分ごととしておいしいを守りたいなっていう気持ちになりました。それがAGRIKOという会社を起業するきっかけになります」

AGRIKOは2021年に起業。コロナ禍だったこともあり、まずは都市型農業から始めました。事業家として初めて自分で畑を持ったのは、桜新町のビルの屋上です。

「東京には新潟のような広い畑や田んぼはないけれど、食べる人たちはたくさんいるし、料理をつくる人たちもたくさんいる。であれば、都市型農業として、東京のシェフが欲しいもので、なおかつ“足が速い”ものをつくろうと思って、ハーブやエディブルフラワーを生産しています」

軽トラ横に立つ小林さん
農家の相棒・軽トラ前にて。

桜新町のほかに白金にも都市型農園「AGRIKO FARM」を構え、水耕栽培と養殖を組み合わせた環境にやさしい「アクアポニックスシステム」を導入しています。ビルの屋上で育てられた作物は、同じビル内にある飲食店で提供されています。まさに「ビル産ビル消」。徒歩で出荷され、提供される作物の鮮度の良さは折り紙付きです。

これまでお手伝いしていた上越の田んぼにも引き続き通いながら、AGRIKOの事業としても関わっています。生産のサポートをしながら、販路拡大が主な仕事といいます。お米の一部を買い上げ、少しでもいいかたちにして消費者に届くようにしたり、企業ノベルティとしての商品化も行っています。

米粉でつくる“古代パン”

AGRIKOは、今年度、米粉の事業にも取り組んでいます。お米の価格が上がるなかで今後はどうなるのか、米農家も不安を抱えています。そのなかで、お米の新しい可能性や魅力を探っていくための事業です。

「地域のライスセンターさんやいろいろな農家さん、飲食業の方々にお手伝いをいただいて、米粉の商品化まで手がけています」

小判形の2種類のピンサーレ
11月30日(日)まで開催されている「米粉を使ったグルメフェア2025」での特別メニュー。全国の〈ベーカリーレストランBAQET〉や〈ブレッドガーデン〉で展開中。トマト×チーズのピンサーレ(左)、オリーブオイル×塩のピンサーレ(右)ともにパン食べ放題単品979円、お料理とセット528円(写真提供:AGRIKO)

その一環として〈サンマルクホールディングス〉、〈ぐるなび〉と一緒に事業を進めています。

「古代ローマ時代は小麦粉、米粉、大豆粉でつくったといわれているピンサというピザのようなものを開発しました。まずは自分たちのお米から小さく始めていきますが、少しずつ拡大できたらいいなと」

実は最初はあまり米粉の可能性に気がついていなかったという小林さん。自身がパーソナリティを担当しているJ-WAVEの番組『EARLY GLORY』では、いろいろなパン屋さんに話を聞いています。そこで気がついたことがありました。

「新麦の収穫時期に合わせた新麦パンをつくっているパン屋さんを知りました。そうやって小麦粉の時期にもこだわったり、米粉パンをつくっているお店もたくさんあって、みなさんすごく開発意欲にあふれているなと感じて刺激を受けました」

四角い形の、生ハムと自家製リコッタのピンサーレ
〈Petrichor bakery and Cafe NEWoMan新宿店〉にて11月30日(日)まで販売中。生ハムと自家製リコッタのピンサーレ490円(写真提供:AGRIKO)

一方で米農家にとって、あまり米粉は自分ごとになっていないことも感じました。

「妹に2歳になる子どもがいて、米粉の安心感に気づきました。そうして始めて私も自分ごとになってきました。新潟生まれではないけれど、私たちのような外部が入ることによって、地域に新しい視点やきっかけが生まれればいいなと思います。私はお米が大好きなので、幅広くお米の良さが伝われば……と思っています」

ホップ畑にいる小林涼子さん

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手がけています!


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