ミリ単位の感覚を研ぎ澄ましてつくる、
美しい刃物〈日野浦刃物工房〉
最後に向かったのは、明治後期からの歴史を持つ、〈日野浦刃物工房〉。出迎えてくれたのは、4代目、日野浦 睦さん。国からは伝統工芸士、県からはにいがた県央マイスターの認定を受けている3代目の日野浦 司さんは取材当日にバイオロジー・オブ・メタル展のためにロンドンへ出発したばかり。
三条市のほかにも刃物が有名な地域はありますが、実は産地によってつくり方にかなり違いがあるそう。
「一般的な包丁の量産方法として、金属をプレスで抜いたりレーザーでカットしてから刃を付けていくことが多いですが、日野浦刃物工房の刃物は小さい鉄のプレートから叩いて整形してどんどん形をつくっていきます」
火の感じを見るため少し暗い工場の中で、手の感覚を頼りにどんどん作業を進める日野浦さん。普段から依頼があった際に工房は開放していますが、工場の祭典では3代目とともに、地鉄に鋼を鍛接する鋼づけの製造実演を行いました。
「伝統技術である鋼づけは、約1050度まで釜の温度を上げ、鍛接剤の粉をかけて鋼を乗せて叩くのですが、その際に火花が飛び散るんですよ。去年は200〜300人程見に来てくれましたね。ありのままの姿を見ていただいて、ものづくりの技術力と良さを伝えていきたいです」
「鍛冶屋」と聞くと叩いてつくるというビジュアルが浮かびがちですが、実は叩いてつくっているのは全国的にももう少ないそう。大量生産の機械化と業界全体の後継者不足により、10年後には三条市内の鍛冶屋の数が半分になると思う、と日野浦さんは話します。
工房の中には大きな機械がたくさんありますが、作業はほとんど手作業で、「手づくり」という言葉がしっくりきます。想像以上に人間の手が入る様子に驚くものの、どの工場でも職人の技術によってものづくりが支えられていました。これが燕三条エリアのものづくりの当たり前でもあるのでしょう。
オープンファクトリーを通年で開催している工場もあるので、あちこちでクラフトマンシップに触れることができる燕市と三条市へ実際に足を運んで、その目で彼ら職人の手を見てみてはいかがでしょうか。感覚が染み込んでいるその手は、ものづくりの歴史そのものです。
そして、次はぜひ来年の工場の祭典のワークショップで、自らの手で何かをつくってみるのもおすすめ。いつも使っている道具の数々が、より一層愛おしくなるでしょう。
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credit text:八木あゆみ photo:田頭真理子