頭ではなく、手でつくる。日本洋食器に宿る柳宗理イズム
「柳宗理先生のお父様が日本の民藝運動の第一人者である思想家・柳宗悦さんですが、その流れを汲んでいる方なので、見た目の美しさはもちろん機能美へのこだわりを感じます。いわゆる“用の美”を用いることによって、使いやすく美しいものができあがるという考え方で、シンプルだけれども美しい。なおかつとても使いやすいのが柳宗理先生の作品らしいところだと思います」
と、柳宗理デザインのらしさと魅力について話すのは、日本洋食器株式会社 総務部長の藤田龍一さん。その話しぶりには、柳宗理デザインへの絶対的な信頼感と理解を感じます。
「例えばレードルでもステンレスの一枚板からつくっているので継ぎ目がなく、お手入れも楽々。柳宗理先生は、日常的に使うことを前提にものをつくられているので、料理関係のプロの方からも支持されているのだと思います。組み合わせもよく考えられていて、ボウルもザルもなべもサイズが共通化されているので合わせて使うことができます」
柳宗理デザインを手がけて40年を超える同社。親子で愛用している人や、自身が気に入り周りの人にプレゼントする例も多いといいます。スタートからつくり続けているロングセラーの〈#1250 ステンレスカトラリー〉を筆頭に、愛され続ける理由を聞きました。
「やっぱり、見た目はシンプルだけれども、実際に手にとって良さがわかるところだと思います。いくら見た目が良くても、使い勝手が良くないものは次に買おうとは思わないですもんね。だからリピーターも多いんですよ」(藤田さん)
「カトラリーに始まり、調理器具までひとつずつ集めていく方も多いようです。カトラリーを自分へのご褒美として1本ずつ増やしていくこともあるみたいですね。シリーズとしてアイテム数もかなり増えたので、いろんな商品で喜びを見つけていただけていると思います」(内山さん)
工場を見せていただきお話をうかがいながら、藤田さんも内山さんも「柳先生」と呼ぶ姿に、実際の手の感覚で製品をつくりあげる姿に、柳宗理イズムが脈々と流れていると感じました。
どの家庭にもあり、毎日何度も使う身近なキッチン用品。手触りを大切にしながら、たくさんの工程を経てひとつひとつ丁寧に人の手でつくられていました。つくり手の思いに触れると、普段何気なく使っているカトラリーの見る目が変わるかもしれません。
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credit text:八木あゆみ photo:田頭真理子