新潟のつかいかた

feature-honmono3-002-ec

山田五郎さんと行く新潟、
建築旅(後編)。
新潟市から長岡市へ、
知られざる前川建築と
現代建築を巡る Posted | 2020/11/06

前編では新潟生まれの巨匠建築家・前川國男が手がけた〈新潟市美術館〉やゆかりの地〈イタリア軒〉を巡って、新潟の知られざる歴史や風土に触れた山田さん。次なる目的地は新潟市秋葉区と長岡市。建築を通して新潟を知る旅は、まだまだ続きます。

旧新潟税関庁舎
幕末の開港5港のなかで唯一現存する当時の税関庁舎。壁などは1972年に修復。

新潟市街を出る前に港の歴史地区へ

〈新潟市美術館〉で前川國男の建築世界にどっぷり浸かった山田さん。次なる建築を目指して新潟市街を出る前に、港へ立ち寄ることにしました。ここは明治元年に開港した新潟港の中心部。信濃川のほとりに位置し、国指定重要文化財の〈旧新潟税関庁舎〉をはじめ、歴史ある建造物が集まっています。

のんびりと歩きながら「やっぱり水辺はいいね」と気持ちよさそうな山田さん。ここは税関への荷揚場であったかつての信濃川の河岸を再現しています。〈旧新潟税関庁舎〉の前に立った山田さんは「新潟港はロシアや中国など諸外国への窓口としてもっと大きな税関があるかと思っていましたけど、意外とコンパクトですね。実際にはこの規模で足りるくらいの貿易量だったのかな?」と不思議そう。税関は小ぶりな平屋で外壁はなまこ壁。赤い瓦屋根の上には塔屋があり、ここから港に入ってくる船をチェックしていたといいます。

旧新潟税関庁舎の屋根
二重の塔屋、なまこ壁、瓦屋根など和洋の建築技法をミックスした擬洋風建築。

税関を背にして信濃川のほうへ歩くと、今度は白い石造りの建物が現れました。これは1927年に建てられた〈旧第四銀行住吉町支店〉。花崗岩を積み上げた外壁が美しい、昭和初期の古典的な銀行建築です。

旧第四銀行住吉町支店
かつて新潟の金融の中心地であった住吉町から、2003年に移築された。
移築後のレストラン
移築後はレストランに。銀行時代の内装をそのまま生かしている。

立派な石造りの銀行を見上げて「明治時代には新潟県が人口日本一の時期があったんですよね」と山田さん。「幕末の開港5港のひとつでもあるし、すでにその頃から経済や文化が根づいた一大都市だった。だからこうした立派な建築が残っているんだなぁ」

ふと信濃川に目をやると佐渡汽船のカーフェリーが入港するところ。船がゆったりと行き来する様は何百年も変わっていないのでしょう。ここにもまた新潟の歴史を感じる風景がありました。

UFOみたいな最先端建築へ!

新潟市秋葉区文化会館
2014年度のグッドデザイン賞を受賞した〈新潟市秋葉区文化会館〉。コンセプトである「文化の里山」をテーマにデザインした。

港を後にした山田さんは車で新潟市を南下し、秋葉区へやってきました。

郊外の住宅地に突如として現れたのは、不時着したUFOを思わせる渦巻き型の建物。建築家の新居千秋が設計した〈新潟市秋葉区文化会館〉です。

館内に入った山田さんは「これはちょっとすごいね!」と天井を見上げました。さまざまな方向にダイナミックに伸びるコンクリートの柱。最先端の技術を用いた現代建築です。「柱が曲がったり捻れたりして、建物を支える構造自体がアートになっています。これはコンクリートを打設するのも大変で、前川さんとはまた違った意味で施工会社泣かせの建築ですよ」と山田さん。

階段を登るとコンクリート柱がすぐ目の前に迫ってくる。
階段を登るとコンクリート柱がすぐ目の前に迫ってくる。
文化ホール
客席は496席。音楽コンサートや落語のほか、市民が企画した演劇や合唱コンクールなども開催されている。

秋葉区民のための文化ホールは「里山の洞窟」をイメージしたもの。複雑な壁の形状でどう音が反響するかも細かくシミュレーションしてあります。

「洞窟みたいな雰囲気のドラマチックな空間ですね。モーツァルトの『魔笛』なんかを上演するにはぴったりじゃないかな」と山田さん。客席に座り、舞台の幕が上がる瞬間をイメージしてみます。この秋は区民によるアキハ・ミュージカル・プロジェクト『走れ!ロコモーション』が開催されたそう。コンセプトである「文化の里山」にふさわしい活動が繰り広げられています。

客席に座る山田さん
壁にはLEDライトが組み込まれていて、光の演出も可能だそう。
星屑のような照明
壁に散りばめられた星屑のような照明。小さな電球がコンクリートに埋め込まれている。
円形のパンチングメタルが一面に
天井もユニーク。円形のパンチングメタルが一面に!

新潟市内にもこれだけ尖った建築があるのかと驚いた山田さん。一見すると奇抜ですが、平日の午後には学生たちがホールに置かれたテーブルで宿題をしたり、周囲の芝生で犬を散歩させる人がいたりと、すっかり区民の憩いの場になっているそう。新潟の人々の建築を使いこなす能力に感心しながら、続いて向かったのは長岡市。再び、前川建築を訪ねることにしました。

長岡ロングライフセンター

次のページ:長岡市民に愛され続ける
前川建築


次のページへ →