日本酒も野菜もコーヒー豆も雪室で眠る
南魚沼産コシヒカリが有名な新潟県南魚沼市。雪国としても知られる魚沼地域は、冬になると里山一帯が真っ白く覆われ、平均して2~3メートルほどの雪が降り積もります。長く厳しい冬が続く魚沼で、人々ははるか昔から雪と共存してきました。
特に魚沼の食文化は、雪に寄り添ってきた人々の知恵によって育まれてきました。越後三山のひとつ、八海山の里山に広がる約7万坪の〈魚沼の里〉では、そんな魚沼の方たちの生活に密接に関わる商品や食事を楽しむことができます。
日本酒・八海山で知られる〈八海醸造株式会社〉が手がけるこの施設は、敷地内に酒蔵やウイスキーの貯蔵庫、そば屋、菓子処、土産物屋などが点在しています。四季折々の美しい自然と、雪国の伝統や生活の知恵を感じることができる観光スポットです。
1000トンの雪が収容される〈八海山雪室〉

〈魚沼の里〉の代表的な施設のひとつが〈八海山雪室〉です。雪室とは、雪国の人たちの生活の知恵と工夫によって生まれた「天然の冷蔵庫」で、電気冷蔵庫が普及する昭和30年代までは家庭でも冬場の野菜などの保存手段として広く活用されていました。
施設内には1000トンもの雪が収容され、年間を通して4℃前後の環境が保たれています。

この雪室で貯蔵された日本酒は〈純米大吟醸 八海山 雪室貯蔵三年〉として販売されています。また、数量限定で販売された〈純米大吟醸 八海山 雪室熟成八年〉は、すぐに売り切れてしまい、現在は休売になっているのだとか。
これまで、日本酒の長期保存は劣化につながるという考えから推奨されてきませんでした。日本酒は通常、原酒を絞ったあと3か月〜半年ほど貯蔵して出荷されます。しかし、八海醸造では熟成することで生まれる味わいと香りの変化を研究し、雪室貯蔵の日本酒を完成させました。
「雪室で3年間眠った日本酒は、角が取れて驚くほどまろやかな味わいになるんです。まるで雪どけ水のように、やさしく喉を通り抜けていくのを感じられます」
広報の上村朋美さんは、雪室を案内しながらその特徴について説明しました。
「雪室の利点はふたつあります。ひとつは電気の振動が日本酒に伝わらないことです。振動によるストレスのなさは日本酒がおいしくなる要因のひとつと考えられています。もうひとつは湿度で、雪室は湿度が90%ほどあるんです。低温高湿な環境は日本酒だけでなく野菜の保存にも良く、雪中貯蔵庫の空きスペースでは、人参やじゃがいもなどの根菜類も貯蔵されています。低温高湿な環境は野菜のでんぷんを糖に変えるため、甘みが増加するのです」


日本酒や酒粕など、魚沼の恵みが
たっぷり詰まった新しい味わいのお菓子

魚沼の里の甘味処といえば、〈菓子処さとや〉。2011年にオープンしたこのお店は、南魚沼市内にある〈パティスリーシュクレ〉のオーナーが手がけています。

〈八海棒夢(はっかいバウム)〉は、八海山の山並みを再現するために、あえて表面がでこぼこになるように焼き上げています。火を使わず、遠赤外線で長時間じっくり焼くことでしっかりめの食感に仕上げているそうです。
やわらかいバウムクーヘンがお好きな方には〈さとやバウム〉がおすすめ。高温で短時間に一気に焼き上げることで空気の層がふわっとした膨らみをつくり、やわらかくしっとりした食感に。清酒・八海山の新鮮な酒粕を生地に練り込んでいるので、ほんのり広がる麹の香りが楽しめます。

〈菓子処さとや〉では、看板メニューのバウムクーヘンはもちろん、〈さとや饅頭〉や〈さとや大福〉などの和菓子も人気です。どの商品も現在オンラインでの販売はしておらず、現地でのみ購入可能。


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