マンゴーをきっかけに温泉の活用術を広めていきたい
マンゴー栽培を始めて約11年。すべての苗を枯らしてしまうなど大失敗もありましたが、「絶対に成功させてやる」といった強い思いで毎日ハウスに足を運び、根気強く栽培を続けることで、南国と同じ糖度18度以上もあるマンゴーを安定して出荷できるようになりました。
そのおいしさは、本場・宮崎県産のものと比べても引けを取りません。評判が評判を呼び、今では〈新潟伊勢丹〉での販売をはじめ、〈千疋屋総本店〉からも視察団が訪れるほどに。
「販路拡大には地元の金融機関〈塩沢信用組合〉の協力がとても大きい。〈塩沢信用組合〉の設立60周年を記念したパーティでマンゴーを振る舞ったんです。それをきっかけに、〈新潟伊勢丹〉から声がかかり、自然と販路が拡大していきました」
2017年から始めた1年間38,800円(送料・化粧箱代込み)の年間オーナー制度も〈塩沢信用組合〉の発案によるもの。市場価格4,440円相当の2Lサイズのマンゴーが10個、最盛期に自宅に届きます。先着100名の募集が、毎年あっという間に定員に達してしまうほどの人気の制度です。もちろん今年分もすでに完売。
こうして栽培方法も確立し、販路も増えることで堅調に推移してきた〈魚沼の妖精〉。しかし実はマンゴー栽培には高いコストがかかるそう。「正直、儲けはありません」と江口さんも苦笑します。それでもマンゴー栽培に力を入れるのは、南国フルーツとは縁遠い雪国・新潟の人々に、美しくておいしいマンゴーを食べてほしいから。
マンゴー栽培は「あまり欲張ると失敗するから」といった奥様からの助言もあり、当面の間はできる範囲内で着実にやっていきたいとのこと。江口さんが今注力しているのは、マンゴー栽培に使用する分を引いても、今なお9割以上捨てているという温泉の活用法です。
「この温泉は私のものではなく、新潟県の資源だと思っています。温泉にはお客さんを引っ張ってくる力がある。有効に活用する術はないかと、息子や若い世代の従業員たちと模索しています」
県内にある高齢者の福祉施設や錦鯉の飼育に使ってもらったりしているそうですが、まだまだ捨てるほうが多い現状。「活用していただける企業があるようなら、ぜひ名乗り出ていただきたいです」と江口さん。
マンゴー栽培のように暖かい地域の農作物の栽培にはもちろん、温泉水を使ってウナギやニジマス、トラフグなどを養殖する事業は近年注目を集めています。
新潟県が誇る温泉と雪、そして新潟県民ならではの辛抱強さ。雪国の自然と人の力が合わさることによって、農業大国・新潟からまたひとつ全国に誇れる農作物が生まれていました。
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credit text:新潟Komachi 河野文香 photo:中田洋介