【匠】〈新潟・白根仏壇〉蒔絵師・佐藤裕美さん
古くから、信仰のあつい地域といわれる新潟県。
日本きっての穀倉地帯であることから、豊年満作の祝いや、五穀豊穣祈願が多く行われたこと、信濃川をはじめとした河川による水害が多かったこと、さらには浄土真宗の開祖・親鸞聖人に深く縁があることなど、神仏への信仰を心のよりどころにする民が多かったのだとか。ちなみに神社の数は日本一といわれ、寺院の数も国内上位にランク。
〈新潟・白根仏壇〉も、そういった信仰のなかで大切に育まれた伝統産業。300年余と歴史は深く、1980年には通商産業大臣により「伝統的工芸品」の指定を受けました。
〈新潟・白根仏壇〉って、どんなもの?
新潟には〈新潟・白根仏壇〉〈三条仏壇〉〈長岡仏壇〉と、3産地の国指定伝統的工芸仏壇があります。今回紹介する〈新潟・白根仏壇〉は、つややかな漆黒と、きらびやかな金箔、花鳥や人物といった緻密な彫刻に蒔絵―― 荘厳ながらも絢爛な姿の仏壇。
木地・彫刻・金具・塗箔・蒔絵と、5人の匠によって分業されるのが特徴で、工程すべてを手作業で行うため、1本の仏壇をつくるのに2~3か月かかるのだとか!
さらに、解体が容易な組み立て方式になっているため、古くなれば仏壇を“洗濯”し、再度組み直すことが可能。洗濯を依頼される仏壇のなかには、140~150年前のものも。仏壇を先祖代々受け継ぎ、大切に扱う文化がこの地には育まれているのです。
とはいえ、住宅の西洋化や核家族の増加など、生活様式が様変わりした現在。仏壇を処分したいと考える方も増え、仏壇業界は苦境にたたされています。
従来のやり方ではこの伝統を受け継いでいくことは難しいと、匠の技をとり入れた新たなアイデアで、伝統工芸を生かしたものづくりを展開している仏壇店が。
〈林仏壇店〉には伝統工芸士が3人も!
今回の匠は、新潟市にある〈林仏壇店〉の6代目、蒔絵の伝統工芸士・佐藤裕美さん。1830年頃から続く仏壇店の長女として生まれ、現在は子育てと蒔絵に奮闘する毎日。
彼女の父・林芳弘さんは、林仏壇店の5代目であり、伝統工芸士の資格を持つ塗師。母・由利子さんも、同じく伝統工芸士の蒔絵師なのだとか。
そんな両親のもとで蒔絵や漆を学び、裕美さんも蒔絵の伝統工芸士の資格を取得。親子3人が資格を所有しているなんて、すごすぎます!
とにかく絵を描くことが好き!という裕美さんは、高校卒業後はデザイン専門学校に通い、イラストレーターを目指していたそう。
「若い頃は、仏壇に用いられるような古典的な図柄に興味が持てなくて、家業を継ぐのはいやだなあ……って思っていて(笑)。でも専門学校に通いながら、仏壇の蒔絵の図柄を写す手伝いをしていたのですが、簡単にできるだろうと思っていた蒔絵が、想像以上に難しくて……。満足に線を引くことすらできなかったんです」
蒔絵には毛先の長い特殊な筆を使うそうで、とにかく扱いが難しい。それでも手伝いを始めて2年後には何となく線が引けるようになり、5年で「なんとかなったかな……?」と思い始め、約10年経って少しだけ納得のいく線が引けるようになったといいます。
「まだ今も全然納得できていないんですけど……。でも、できないことができるようになってきて、蒔絵がだんだん楽しくなってきました(笑)」
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