匠・裕美さんのお仕事
蒔絵師になって、約20年。キャリアを積み上げるとともに、仕事のなかに自身がやりたいことを少しずつ加えていった裕美さん。じつは今、県内にある和楽器メーカーから琴の蒔絵装飾の依頼を受けているそう。
和楽器は、独特の音色と質感、扱いの難しさ、奏者の少なさもさることながら、他の楽器に比べると変化が加えにくいため、“進化しない楽器”といわれることも。そんな和楽器業界のなかでのオリジナリティや差別化をはかるため、裕美さんの自由な発想、イメージ、タッチを採用したいという要望なのだそう。
「古典的図柄とは少し違うものにしたい、というご依頼だったので、色漆と金を織り交ぜて、可愛らしさを出したいなあと思っています」
また仏具メーカーから依頼があった〈おりん〉は、桜・梅・唐草・蓮華・蝶の舞の5つの絵柄に、控えめながらも上品に輝くスワロフスキーの一粒。棒で鳴らせば、凛と澄み渡った音色。
「仏具ではあるんですが、インテリア感覚というか、手にとっていただきやすいものにしたくて」
現在おりんは、作業が追いつかないほどの人気商品に。ほかにも、新潟市のシンボル・萬代橋をモチーフにしたお箸、ふるさと納税の返礼品であるタンブラーへの絵つけ、鳳凰や風神雷神を描いたZippo、下駄、羽子板、ギター、刀の鞘への装飾、ショップや飲食店の壁画など、依頼内容も、手がける作品も、図柄もさまざま!
家族みんなで仕上げた、蒔絵ネイル
裕美さんはふたり姉妹で、妹の亜美さんは一級ネイリスト。そこで家族全員を巻きこんだ、蒔絵ネイルを手がけたこともあるのだとか。
まず、ネイリストである亜美さんが、爪の幅や湾曲にあわせたネイルチップを作成し、父の芳弘さんがそのチップに下地の漆塗りを担当。母・由利子さんが爪のデザインを手がけ、裕美さんが蒔絵をほどこすというチームプレー。
家族一丸となって制作したネイルチップは感動的な美しさ……! 和装につつまれた女性の手元を、さらに美しく際立たせます。
蒔絵という技術を、仏壇の装飾だけではなく、さまざまな分野に昇華させ、それを手にする人々に感動を与える。こういった堅実な仕事が噂をよび、認められ、裕美さんにはジャンルを問わない、多様な依頼が舞い込んでくるようです。