村上木彫堆朱って、どんなもの?
天然木と本漆を使用し、制作の全工程が手作業で、機械が入る余地はないという村上木彫堆朱。作品が完成するまでには20近い工程があり、それだけに、ひとつの作品を仕上げるまでに最低でも1か月はかかるそう。
「箸をつくるにも、漆を塗り重ねる回数は違わないので、塗りだけでもやっぱり半月はかかりますね」
村上木彫堆朱には “つや消し”という、この産地ならではの作業が。これは村上で用いる漆のかたさに関係する作業なのですが、胴摺りという作業によってつやが消されたマットな肌は、しっとりと上品な風合い。
使っていくうちに朱の色が鮮やかになり、輝きが出てくるといいます。そういった経年変化を楽しめるのも村上木彫堆朱のよさのひとつ。
「彫りの部分にゴミが溜まったらどうしたらいい? って聞かれるんだけれど、歯ブラシなどでこすればいいだけ。キズつかないですからね。そもそもそんなに傷むものでもなくて、もし傷んでも直しがきくものなんです。だからどんどん使ってほしいですね。
たまに箸を直してくれという依頼がありますよ。『短くなってもいいから』って。手に馴染んで、相当思い入れがあるんでしょうね」
川上さんの仕事道具を見せてもらいました。
常時20種類ほどの彫刻刀を用意しており、なかでも特徴的なのは「ウラジロ」と呼ばれる両刀歯。ウラジロという植物の葉に似ていること、砥いだ裏部分が白いことなど諸説あるようですが、このウラジロを多用するのは村上独特なのだとか。
さらにこのウラジロの柄の部分は川上さんお手製。最大のパフォーマンスを発揮するには、やはり道具は無視できません。道具をもほぼ自作で賄うなんて、さすがプロ!
「自分でつくったほうが手の大きさにあわせて決められるんで、馴染みがいいんですよね。ただ手間はかかりますけどね」
取材に訪れた日、川上さんが彫っていたのは、茶道具の「棗(なつめ)」。中国から伝来した、梅・竹・蘭・菊を描く“四君子(しくんし)”という文様を棗に落としていました。
木地に描いた線に沿ってウラジロを入れる川上さんの作業風景を見ていると、緊張感のなかにもどこか楽しげな雰囲気が。どのような一刀がこの木地が持つ素質を最大に生かせるか、そんなことを考えながら彫りを進めているように見えました。
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