新潟のつかいかた

spot-artisan-002-paged3

若手クリエイターの
コラボ作品も!
武士がスタートさせた
“村上木彫堆朱”の
伝統継承とイノベーション | Page 3 Posted | 2018/07/20

世代のギャップ、驚きを超えて
新しい堆朱のかたちを生み出す

現在、20の業者が加入する村上堆朱事業協同組合ですが、職人は30人もいないのでは、と川上さん。

「彫師が6~7人で、塗師は20人くらい。だから職人は全部で26~27人かなあ。でも今、20~30代の若いお弟子さんが3人入ってくれて、組合として教えているんです」

若弟子さんたち。この日は川上さんの指導のもと、彫りの修業中。
若弟子さんたち。この日は川上さんの指導のもと、彫りの修業中。

昨年から県と市の補助金を受け、「後継者育成事業」をスタートさせたそう。

「やっぱり組合だけで後継者育成を、っていうのは到底難しくって。県や市の補助金を活用しながら、そのなかでゆっくり頑張ってもらおうと、我々のような講師がついて、週に彫りを2日、塗りを3日、教えているんです」

新しい取り組みへ果敢にチャレンジする組合は、2017年、塩川いづみ、sneeuw(スニュウ)、とんぼせんせい、はしのちづこといった若手クリエイターと組み、“伝統的工芸品の普段使い”をコンセプトにした〈朱器(SHUKI)〉を発表し、話題を呼びました。

イラストやテキスタイル作家によってデザインされた新ブランド〈朱器(SHUKI)〉。左から、はしのちづこ、塩川いづみ、sneeuw(スニュウ)のデザイン。
イラストやテキスタイル作家によってデザインされた新ブランド〈朱器(SHUKI)〉。左から、はしのちづこ、塩川いづみ、sneeuw(スニュウ)のデザイン。

ほかにも、長岡造形大学の学生が考えたデザインを、職人の技で形にするというプロジェクトも展開し、伝統的工芸品をもっと身近に感じてもらうための取り組みが始まっています。

新進気鋭のクリエイターのデザインソフトを用いた提案には、手作業が信条の職人にとってはギャップと驚き、戸惑いもあったそう。ですが手さぐりしながらも、クリエイターたちのデザインを形にしていくのは、難しくもあり、勉強にもなり、ああいう機会があったのはよかったと語る川上さん。

匠の手“共通”インタビュー

「至極の作品は、誰に一番に見せたい?」

〈村上木彫堆朱〉彫師・川上健さん

この先、自分でも納得がいくような最高の作品ができたとしたら。一番に報告したいと思う人には、きっと匠にとって特別な“なにか”があるはず。川上さんからはこんな答えが。

「たぶん誰にも言わないんじゃねえかな。自分のなかに留めておくのって、楽しいじゃないですか。その作品をお嫁に出したくないってことはないですね。やっぱり誰かの手に渡ってくれないと……なんだか気になるね」

半世紀もの間、彫りに向き合ってきた川上さんですが、まだまだやりたいことが全然できていないといいます。それは、先人が成し遂げてきた職人としての高み――

「図案でも彫り方でも、昔と今では違うところがいっぱいあって。今の技術って、“売る”ことが目的みたいになっているところがあるけれど、それ以前の技術というものがあったんです。昔の作品をみると、とってもおおらか。本当に村上の堆朱ってすばらしくて、すごい。私もこういう彫りができたらな、近づきたいな、と思っているけど……全然できていないですね」

川上さんが手がけた三彩彫りの手鏡。朱・黄・緑・黒の漆を塗り重ねたあとに表面を彫って文様を描き出す技法。
川上さんが手がけた三彩彫りの手鏡。朱・黄・緑・黒の漆を塗り重ねたあとに表面を彫って文様を描き出す技法。彫りの深さによって現れる色が変わるので、熟練の技術が必要。カラスウリと蝶のモチーフが楚々として、すてき。

さまざまなアクションで後継者問題に取り組んではいるものの、課題は山積みで、組合としてやるべきことはたくさんあるといいます。これからの若手が商売としてやっていける状況づくり、販路の構築、方向性の選定――。

「後継者がいない、いないって言ったって仕方がないので、組合としてどういうことをやるか考えないといけないですよね。組合そのものがちゃんとしていかないと。大企業とはまた違うわけですから」

〈村上木彫堆朱〉彫師・川上健さん

さらには、後継者にむけたこんなメッセージも。

「今も残っている昔のすばらしい作品を、若い人たちにももっと見てほしいですね。それがつくれても、つくれなくても、昔と今との違いがわかっていけばいいんです。それが大事」

江戸時代から脈々と受け継がれてきた美しい伝統的工芸品を、自分たちの代で終わらせたくない―― 世代やテクノロジーの向上に惑いながらも、今できることを模索する村上木彫堆朱の匠たち。未来の職人がいきいきと活動できる環境を思い描きながら、新たな境地へあゆみよる気概に、心打たれるものがあります。

匠の作品の購入は、〈村上木彫堆朱館〉や村上市内の漆器店で

村上木彫堆朱館では、名工が手がけた堆朱の展示販売を行っています。もちろん川上さんの作品にも出合えます! 予約制の木彫体験も実施中。また村上市内には漆器店が点在しているので、城下町散策がてら立ち寄ってみては?

毎年3月は〈堆朱まつり〉開催

3月中旬頃、村上市三の丸記念館を中心に〈堆朱まつり〉が開催されます。気になっているあの漆器が店頭表示価格より10%引きに(一部商品を除く)。同時期には「町屋の人形さま巡り」も行われているので、併せてお出かけしてみては?

〈村上木彫堆朱〉彫師・川上健さん

Profile 川上健(かわかみけん)さん

新潟県村上市生まれ。16歳より堆朱の世界に入り、彫師へ。平成14年度に伝統工芸士認定。村上木彫堆朱のなかでも繊細な作業が必要な三彩彫、引下彫を得意とする。

Information

【村上木彫堆朱館(村上堆朱事業協同組合)】

address:新潟県村上市松原町3-1-17

tel:0254-53-1745

access:村上駅より車で約5分、徒歩約15分

web:村上堆朱事業協同組合

credit text:林貴代子 photo:大畑陽子