海辺のまちでつくられている、かわいい「紙風船」たち
ネコ、キンギョに、トキ、ペンギン。見れば見るほどかわいい姿は、薄い紙でできていて、フーッと吹いてふくらませると丸く変身する……そう、「紙風船」です。
つくっているのは、大正時代の創業から2022年で105年を経る〈磯野紙風船製造所〉。日本に唯一残る新潟県の老舗紙風船メーカーで、常時50~60種類のラインナップを揃えています。
今も昔ながらの手法で丹念につくりあげることから「出雲崎(いずもざき)手作り紙風船」として、2022年5月に新潟県の伝統工芸品に指定されました。近年は、国内だけでなく、フランスやスイス、アメリカといった海外からも注文が入っているといいます。
このかわいい子たちの生まれ故郷をひと目見ようと、日本海に面した海辺のまち・出雲崎町にある製造所を訪ねました。
「ようこそ!」と迎えてくださったのは、〈磯野紙風船製造所〉の4代目・磯野成子(しげこ)さんです。
「今ではこの製造所が唯一残るのみとなりましたが、かつてこの地にはたくさんの紙風船専門店が軒を連ねました」と話す磯野さん。
すべての始まりは、製造所の初代・磯野彌一郎(やいちろう)さんが、冬の間に家庭でできる内職を探して、東京に出かけたことでした。
「出雲崎は昔から漁師の家が多く、日本海が荒れる冬は漁に出られないため、冬場の収入源に悩まされてきたんです。そこで、初代が東京から持ち帰ったのが、当時、都会で流行していた紙風船でした。そこから、出雲崎のまちをあげての紙風船づくりの内職が始まったんです」
町内にはたくさんの専門メーカーが生まれ、紙風船の紙を貼る“貼り子さん”を取り合いながら、競うようにつくっていた時代もあったとか。なんと1936(昭和11)年の新聞には、クリスマス時期にクラッカーの代わりとしてアメリカへ大量に輸出されていることが報じられていました。当時から、すでに海を越えていたんですね。
創業当時から現代に至るまで、変わらずつくり続けられている紙風船を見せてもらいました。
「昔なつかしのこのデザインは、創業当時からほとんど変わりません。カラフルで、きれいですよね。きっとこれが大正時代の人たちの感覚だったんだと思います。かつては『グラシン紙』といって、今よりもっと透明度が高くて光沢のある紙を使っていて、見る角度によっては色が混じって虹色に見えたそうですよ」
なんだか夢のような話。残念ながら、色鮮やかなグラシン紙をつくるメーカーはすでに姿を消し、今はやわらかく薄いパラフィン紙や和紙などを使って製造しているんだそうです。