アイデアが生まれる源泉
出雲崎に生まれ、〈磯野紙風船製造所〉を家業とするご主人と結婚したことで、紙風船づくりの道を歩み出したという磯野さん。今でこそ50~60種類の商品を扱っていますが、お嫁に来た当時はわずか2種類だったとか。
「紙風船を扱い始めて、まず思ったことは、紙風船の工賃をもっときちんと上げられたら、ということでした。そのためには、定番のものだけじゃなくて、ほかにはないオリジナルの紙風船もつくりたいと考えたんです」
そこで、まず取りかかった作品が「金魚」でした。倉庫の中から、戦前に〈磯野紙風船製造所〉がアメリカに輸出していた時代の「金魚」の印刷版を見つけたのがきっかけだったといいます。復刻した完成品を売店に置いてもらったところ、なんと一瞬で完売。金魚たちは瞬く間に人気者になったのでした。
金魚の人気に後押しされて、タコが登場。さらにフグやペンギンといった商品を少しずつ増やしていったのだそう。
8枚でまんまるの球体になるところを、7枚や6枚に減らして楕円形にしたり、クラゲのように半球で形を表現したり。きらりと光るアイデアで、自由な紙風船の世界を広げ続けている磯野さん。
「アイデア次第でどんなものも紙風船にできるので、無限の可能性を感じます。特にこだわっているのは、細部をいかにリアルに見せるか、どうすれば“畳んだときもそれらしく見えるか”ということ。そこで悩んだり、工夫したりすることが多いですね。クラゲは夜中につくり方を思いついて、試作してみたら上手くいった思い出深い作品です」
匠の手“共通”インタビュー
「至極の作品は、誰に一番に見せたい?」
この先、自分でも納得がいくような最高の作品ができたとしたら。一番に報告したいと思う人には、きっと匠にとって特別な“なにか”があるはず。磯野さんからは、こんな答えが。
「仏壇にあげて、主人に見せます。生前は主人がデザイン担当でしたから、いつも作品ができるとまず仏壇に吊るすんです。だから、我が家の仏壇は紙風船でいっぱい。もちろんクラゲもありますよ」
身近で安全なおもちゃとして、あるいは、かわいいインテリアとして。はたまたパーティやイベントでも活躍するし、畳めば小さくなるから旅のお土産にもぴったりの紙風船。
「いろんな楽しみ方をもっとふくらませて、日本国内はもちろん、世界にもたくさん飛んでいってもらえたら。この出雲崎が唯一の生産地だと知らない人も多いので、認知を広めることでまちに貢献できたらいいな、と思います」
磯野さんの手のひらの上で、ぽん、ぽんと弾む、まんまるの紙風船。懐かしい空気をまといつつ、時代とともに進化を続けて、次はどんな姿を見せてくれるのでしょうか。夢はふくらむ一方です。
Profile 磯野成子(いそのしげこ)さん
1919(大正8)年創業の〈磯野紙風船製造所〉4代目。新潟県の生まれで、幼い頃から紙風船に親しんで育つ。日本唯一の老舗メーカーとして、常時50〜60種類の紙風船を扱う。おもちゃや土産物としてはもちろん、イベントや交通安全のPR用のものなど、全国からの注文を受け付けている。
Information
credit text:矢口あやは photo:やまひらく