日本屈指の豪雪地帯、新潟県十日町市。多い年には3メートル近くも雪が降り積もり、4か月にわたり、しんしんと雪に閉ざされます。その静まり返ったなかに、カタン、カタンと心地よく響く音―― 十日町の産業「機織り(はたおり)」です。
かつては春を待つ間、糸を紡ぎ、糸を染め、機(はた)を織るのがこの地に暮らす女性の主な仕事でした。その産業は脈々と受け継がれ、現在も全国に名をとどろかす「雪と着物のまち」で知られています。
驚くことに、同市の古墳時代中期の遺跡からは、機織り用具が発見されたことも! 1500年ものいにしえの時代からこの地で織りがなされていたことは、それに適した気候と環境がそろっていたことがうかがえますが、そういった自然的条件を感じとり、産業に発展させた昔の人の叡智には、敬服するものがあります。
現在十日町には、〈十日町絣〉と〈十日町明石ちぢみ〉という、国の伝統的工芸品に指定されたふたつの織物が。どちらも先に糸を染めてから織る「絣(かすり)」という部類の織物ですが、織り方も、風合いも、着られ方も、それぞれに違いがあります。
シックから、モダンまで
絣の模様が美しい〈十日町絣〉
民芸調の文様や色味がどことなく懐かしさを感じさせる十日町絣。新潟の伝統的な麻織物であった〈越後縮(えちごちぢみ)〉の技法を受け継いで、19世紀中頃に誕生した絹織物です。
「たてよこ絣」とも呼ばれ、あらかじめマダラに染められた、経糸(たていと)、緯糸(よこいと)の柄を合わせながら織っていくため、高度な製織技術が必要。
絹独特のツヤ、美しくも味わいのある絣文様、落ち着いた風合い。普段着からおしゃれ訪問着まで、さまざまなシーンで着用されます。
民謡・十日町小唄にも登場する
〈十日町明石ちぢみ〉
「蝉の翅(せみのはね)」と呼ばれるほど、透けるように薄い十日町明石ちぢみ。もともと播州明石(兵庫県)が発祥といわれており、京都西陣を経由し、十日町へ。明治20年頃に織られ始めたものの、その技術的な難しさに、生産が軌道にのるまでには約30年という年月を要しました。
肌触り、着心地、通気性抜群の明石ちぢみは、「夏物といえば明石、明石といえば十日町」と謳われ、大正期以降は一世を風靡。
「〽 越後名物かずかずあれど 明石ちぢみに雪の肌 着たら離せぬ味のよさ」
この十日町小唄(作詞:永井白湄、作曲:中山晋平)は、昭和4年に発表された、全国初のコマーシャルソングといわれています。また、竹久夢二にポスター制作を依頼し、美人画と“ちぢまぬ明石”のイラストで、女性の憧れの夏織物という地位を確立させました。
春には一般参加が可能な着物イベントが開催され、毎年多くの来場者でにぎわう十日町。明石ちぢみ、十日町絣のほか、色鮮やかな振袖などが一堂に展示されます。実際に手にとって見ることができる絶好の機会。着物工場見学イベント〈十日町きものGOTTAKU〉では、これから紹介する匠の技を目の前で見て、お話を聞くこともできますよ!
・4月中旬 十日町きものフェスタ
・5月上旬 十日町きものまつり
・5月下旬 十日町きものGOTTAKU
問い合わせ:025-757-9111(十日町織物工業協同組合)