土地を着る〈LOCAL WEAR〉で、“アパレル”という土壌を耕す
2014年からデザイナー山井梨沙さんを中心に、アパレルラインを開始したスノーピーク。アウトドアウェアとまちで着る服の境界線をなくし、それまでカラフルでカジュアルなイメージが強かったアウトドアウェアのイメージを一新し、シーンを選ばないアイテムを展開してきました。
「今までのアウトドアウェアは機能性重視で普段着としては着にくいデザインのものも多かったり、スペックを追求しつつ、ファッション性も備えたアウトドアアパレルが世の中になかったんです。そこで、家とテントに境界線をつくらない『Home⇄Tent』というコンセプトで、アパレルラインをスタートしました。場所を選ばず、まちでもキャンプでも着ることができるアイテムが揃っています」
そんなアパレルラインの新しい試みとして、2018年の春に始まった、日本各地の「着る文化」に光を当てる〈LOCAL WEAR〉。日本各地のものづくりとのコラボレーションにより展開していくアパレルラインのスタートを飾ったのは、スノーピークの地元である新潟でした。
「LOCAL WEARのきっかけは、佐渡の織物技術でした。デザイナーの山井が、使い古した布を細く裂いて織り込む裂織(さきおり)という伝統技術を見せていただく予定で佐渡を訪れたのですが、職人の方が高齢で何度織ろうとしても結局できなかったとのことでした。しかもその方が、その地で裂織を受け継いでいた最後のおばあちゃんだったのです」
日本の各地に伝わるものづくりの文化はたくさんありますが、高齢化や後継者不足の問題で衰退が進み、貴重な技術が途絶えてしまう場面に、山井さんたちは直面したのだと言います。「スノーピークならではのデザインと機能を経糸に、その土地ならではの伝統手法を緯糸にしながら『着る』と『つくる』を継承する新しい価値を織り成したい」。そんな山井さんの想いから、LOCAL WEARはスタート。
「佐渡でのできごとから、“その土地ならではの風土や技法をリスペクトする”というLOCAL WEARのコンセプトが生まれました。その後、日本で数か所しかやっていないしじら織や染色の老舗企業〈港屋〉さんなど、日本に昔から続くものづくりに従事する職人さんたちとともに、その文化や技術を未来につないでいこうと、LOCAL WEARの第1弾が新潟からスタートしました」
さらに、LOCAL WEARはただ洋服をつくる、売る、着るだけにとどまらず、〈LOCAL WEAR TOURISM〉という旅行企画に発展。かつての日本の日常的な光景として見られた風土や労働、習慣、デザインを現代風に再構築したLOCAL WEARを身にまとい、実際に現地に訪れることで、衣類の機能性はもちろん、季節ごとの地域の魅力も体験することができます。
2018年5月と10月には、企画の原点である佐渡で、田植えや収穫をするというツアーを初めて実施。参加者もLOCAL WEARのルーツを追体験することができました。このローカルウェアツーリズムは2018年11月現在、新潟県内で3回行われています。
ローカルに宿る文化を、キャンプだけでなくアパレルという切り口でも体験するLOCAL WEAR。今後は別の地域へも拡大していく予定なのだとか。体験も含めたアパレルラインによって、第二の故郷のようにその場所への愛着がもっと湧きそうです。地域に根付く暮らしをまとうプロジェクトで、どんな服が生まれ、どんな体験のツアーが催されるのでしょうか。
国内外問わず多くのファンに愛されるスノーピークのアイテムは、新潟に地を根ざした企業だからこそ生まれたものがたくさんありました。キャンプをより一層楽しくするプロダクトと、ローカルとの新しいつながりを紡いでいくアパレルの両輪が揃い、力強く前進を続けるスノーピーク。これからも目が離せません。
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credit text:八木あゆみ photo:田頭真理子