水陸の交通の要所として栄えた六日町
神が宿るとされる八海山をはじめ、六日町の住民は山に囲まれた風景に愛着を持っています。特に、まちの東にそびえる「坂戸山」は、不落の山城だったそう。兜に「愛」を掲げ、大河ドラマで有名になった直江兼続の居城で、高さはスカイツリーと同じ634メートルほどです。
「山としては高いほうではありませんが、平屋ばかりの戦国時代、魚沼平野に切り立った坂戸山が相手の戦意を喪失させたといわれています」
そう話してくれたのは、六日町のまち歩きガイドをしてくれる小林昌子さん。東京でバスガイドを経験し、いまは地元の案内係を務めています。
「六日町は新潟と関東をつなぐ三国街道や清水街道が交差する宿場町でした。また、魚野川の水運で栄えた交通の要衝。六日町大橋のたもとにある〈金城酒販〉さんのご当主は写真機を持っていて、当時の貴重な写真が展示してありますから見に行きましょう。もちろん日本酒の試飲もね!」(小林さん)
日本酒の試飲と聞いて歓声を上げる一同。白壁の土蔵づくりの外観からも歴史を感じる〈金城酒販〉。もともと造り酒屋だったそうですが、いまは銘酒〈八海山〉で知られる〈八海醸造〉唯一の専門販売店。大正時代の六日町を偲ぶ貴重な写真を見上げながら、自慢の地酒を次々と試飲し、すっかりいい気分になってたくさんお土産を買いました。
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名だたる文人を魅了した甘口の粕漬け
漬け物の始まりは、食材が乏しくなる冬場をしのぐ雪国の知恵だったのでしょう。やがてそれは文化になりました。〈今成漬物店〉には数々の文豪を魅了した、甘口の粕漬け〈山家漬(やまがづけ)〉があります。
厳選した地元野菜を塩漬けで半年寝かせ、八海山の純米吟醸の酒粕で2年かけて塩を抜きます。もともとはおもてなしのお茶請けとして身近な人へ贈っていたそうですが、この味わいに魅了されたのが文人・會津八一で、〈山家漬〉の名づけ親となり販売するようになりました。以来、坂口安吾や正岡子規なども珍重したといいます。
なかでも〈錦糸漬〉は、錦糸瓜がほぐれる独特の歯ごたえが、ご飯のお供にも、お酒のあてにもぴったりです。
「野菜は自然に左右されますから、収穫量は一定ではありません。でも、数が少なければ少しだけ漬ければいいんです」(今成洋子さん)
だから、〈山家漬〉は来店する方優先で販売されています。まさに、ここでしか味わえない逸品なのです。
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