家に代々受け継がれる美術品に出会える「屏風まつり」
おなかも満腹になったので、まちを散策する。村上のまちはとても風情がある。きっかわさんや井筒屋さんのような、落ち着いた色合いの町家造りの商店が並ぶ。
角を曲がってしばらく歩くと、黒塀が続き、寺町という名前の通り、お寺が続く。『おくのほそ道』の旅の途中に、松尾芭蕉が訪れたという、重要文化財の浄念寺もある。閻魔大王のいる十輪寺もある。そしてまちのところどころから、村上城跡の山が見える。そのかたちが、寝ている牛に似ていることから、臥牛山と呼ばれる山だ。
この時期、ちょうど「町屋の屏風まつり」が行われていた。屏風まつりとは、旧町人町と呼ばれたこのあたり一帯の民家や商店が、生活空間である奥の間を開け放ち、代々伝わる屏風や伝統工芸などを展示公開してくれているものだ。1633年から続く村上大祭のしつらいとして、かつては飾られていたものだ。
商店の奥に、失礼しますと声を掛けて入っていくと、外見からはまったく想像できない豪華絢爛が広がっている。百年、二百年と、百年単位で昔のまま使われている日本建築の部屋は、広々としていて天井が高く、見事である。博物館や映画のセットみたいでありながら、でも人が生活し続けているからだろう、独特のぬくもりがある。
そこに、どぎまぎするくらい立派だったり精巧だったりうつくしかったりする、屏風や茶器や、家具や工芸品がずらりと並べてある。美術品について何も知らない私でも、吸い寄せられるように見とれてしまうすごいものばかり。これらの美術品があることも、部屋のすばらしさも、おもて玄関からはわからないのだから、村上というところには、奥ゆかしい美意識があるのだなあと感動してしまう。
私がとても心惹かれたのは、〈九重園(ここのえん)〉というお茶屋さんのお座敷に飾られていた、虎の屏風だ。江戸時代に描かれたという屏風だが、その時代、日本に虎はいなかった。絵師が想像で描いた虎の姿が、なんとも愛嬌があってかわいらしい。
村上を訪ねるなら、民家や商店の「奥」を見ることのできる、屏風まつりや人形さま巡り(同様に、奥座敷に古くから伝わる人形を展示)の時期がおすすめだ。
ところで、黒で統一され、昔ながらの風情を残す村上のまち並みだが、これは昔からずっと変わらない光景ではないと聞いて、意外な思いだった。
20年前、このまち全体に再開発の計画が持ち上がり、商店街のほとんどすべての商店主がそれに賛成していた。そこに待ったを掛けたのが、先ほどの吉川真嗣さんをはじめとする数人だ。再開発ではなく、昔ながらの村上のまちの風情を取り戻そうと、自分たちで黒塀を制作したり、空き家再生や商店の外観再生に力を入れたりし、その結果、今のこのシックなまち並みがある。
今も、黒塀や空き家再生などのプロジェクトは続いているというから、村上は、きっとどんどん村上らしい個性を獲得していくのだろう。
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