東京から近い別世界。
美しい景色と雪国文化が残る地域
角田 今回の旅で、私はこの景色に感激しました。360度、山々に囲まれていて、美しくてびっくりしました。
岩佐 東京からこんなに近くにこんな別世界が広がっているって、ご存知ない方が多いと思います。巻機山を含め上信越の山々は、八ヶ岳や南アルプスのように有名ではないし、標高もそんなに高くないけれど、きれいな山なんですよね。そしてこの辺りには雪国文化が残っている。食文化だけでなく、織物の文化もあります。
角田 今日、越後上布の雪晒しや機織りを見せていただいたのですが、気の遠くなるような作業でした。
岩佐 風前の灯といえども、ああいう高い技術が残っていて、あの大変な作業をいまだにやっているところは日本でも数少ないのではと思います。そういう文化が残っているのが新潟の魅力でしょうね。この塩沢のあたりは昔から宿場町として発展していて、江戸時代からしっかり文化が根づいているんです。
角田 塩沢のまち並みもすてきでした。牧之通りには古い建物をそのまま残した銀行もあれば、古い建物を生かしたおしゃれなカフェもあって、観光客も大勢いて、にぎわっていますね。
岩佐 雪国の文化を鈴木牧之という人が『北越雪譜』という書物に書き残していますが、文化レベルも高く、昔ながらの暮らしも残っているというのがこの地域の特徴かなと思います。遠慮がちで、人にあまり自慢したりしないけど、自分たちのやっていることに誇りを持っている人が多い地域だと思いますね。
角田 前回の旅で、糸魚川から上越妙高まで〈えちごトキめきリゾート 雪月花〉に乗ったのですが、あちらも岩佐さんがプロデュースされているんですよね。とても楽しかったです! 食事もすばらしくて。
岩佐 雪月花はソフトの部分をプロデュースさせていただいて、新潟の食を満喫できるようなリゾート列車にしようと考えました。おかげさまでとても高い評価をいただいています。特に、お召し上がりいただいた〈鶴来屋〉さんのお食事はアンケートでも非常に高い満足度をいただいていますよ。
角田 これからもずっと新潟でいろいろなことを手がけていかれるんですか。
岩佐 それは間違いなくそうだと思います。今年の秋はJR東日本の大型キャンペーン〈デスティネーションキャンペーン〉が新潟県で展開しますが、総合プロデューサーを担当します。「日本海ガストロノミー」と銘打って、食べ物をテーマに、新潟県の豊かな自然や文化を知ってもらおうというキャンペーンです。
角田 多くの方に新潟の美しさや楽しさ、おいしさを知ってもらいたいですね。
岩佐 またぜひ、新潟にいらしてください!
Information
Profile 岩佐十良
1967年東京・池袋生まれ。クリエイティブディレクター。武蔵野美術大学在学中に〈自遊人〉を創業。雑誌『自遊人』を発行する傍ら、食のプロデュースや販売を手がけ、2004年に新潟県南魚沼市に移住し、2006年には会社も移転。2014年〈里山十帖〉をオープン。2018年には大津市に〈商店街HOTEL 講 大津百町〉、箱根に〈箱根本箱〉と個性的な宿を開業。
Profile 角田光代
1967年神奈川県生まれ。作家。『幸福な遊戯』で第9回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。『対岸の彼女』で132回直木賞、『八日目の蟬』で第2回中央公論文芸賞受賞。現在刊行中の日本文学全集『源氏物語』(河出書房新社)の訳を手がける。旅にまつわるエッセイも多数。
credit text:榎本市子 photo:ただ(ゆかい)