古町の老舗料亭の設えに魅了される
そんな古町の料亭文化の中心にあった老舗料亭が、1846(弘化3)年創業の〈鍋茶屋〉です。白い石造りの重厚な門構え、国の登録有形文化財に登録されている木造建築の趣に「170年の歴史ある空間でいただく料理はまた違いそうですね」と坂田さんがつぶやきます。
創業時はすっぽん鍋専門店だったという鍋茶屋。店名と合わせて、料亭のしるしになっている亀甲型は、すっぽん料理に由来しているのだとか。多くの文人墨客に愛されたほか、1878(明治11)年の明治天皇来県時には、会席を調進したことでも知られています。
ご案内してくれたのは、7代目の高橋英司さん。
「かつては一見さんお断りの時代もあったのですが、今では法人のお客様はもちろん、料亭文化に触れたいという個人のお客様も多く訪れ、家族の大切なお祝いの場としても利用されています」
四季折々の新潟を丸ごと味わえる料亭料理
今回、坂田さんがいただいたのはお昼のコース。
前菜には、新潟の郷土料理「氷頭(ひず)なます」、車エビとウニ、カラスミ大根、スモークサーモンの甘酢カブ巻き、数の子、黒豆、田作りと、1月のお正月料理が並びます。
氷頭なますは、鮭の鼻先の軟骨部分をスライスして大根と合わせた、県内ではおせちにも出てくる一品。鍋茶屋の氷頭なますは、いくらを茹でた「ととまめ」と一緒にいただきます。
「生いくらのとろっとした食感はなくなり、もちもちした食べ応えがととまめのおいしさです。氷頭のコリコリとした食感とととまめの弾力がいいバランスですね」と坂田さん。
続いて、お椀でいただくのは、白子のすり流し。真鱈の白子を出汁ですり流し、白みそを隠し程度に加えた一品です。
「利尻昆布は、藁で囲って温度管理して寝かせることで昆布の旨み成分グルタミン酸の含有量が増し、出汁の風味が変わるんです」と高橋さんが教えてくれました。
お客様の舌に合わせて調理法は代々変わっているものの、化学調味料を一切使わず完全無添加にこだわる姿勢はゆるぎなく続いています。
そして、新潟の冬のご馳走として外せないのは、ズワイガニです。10月1日のカニ解禁日に合わせてカニを食べる文化が根強い新潟県。柔らかくジューシーな身に、ほのかな苦みのあるカニみそを合わせ、冬の時期にしか味わえない甘みを堪能します。
「懐かしい味。新潟にいた頃は毎年、解禁日が過ぎたら家族でカニパーティーしていたことを思い出します。身の締まりと瑞々しい甘みのバランスは、漁港のあるまちならではですね」(坂田さん)
「地元・新潟の旬の食材をふんだんに取り入れるというのは昔から変わらないことです。1か月ごとに料理は変わるほか、日々届く食材の変化に応じて、素材を最大に生かす一品をご提供しています。また、鍋茶屋の魅力は、お料理とお部屋ごとについた庭から季節の移ろいを感じられるところでしょう。深々と降る雪を眺める冬の日もあれば、窓から入る木漏れ日を味わう春の日もある。五感すべてで新潟を味わえる空間になっています」(高橋さん)
100年以上変わらぬ静謐な佇まいのなか、季節の移ろいを食と景色で感じることのできる〈鍋茶屋〉。「新潟の旬を贅沢な空間でいただけて、とても豊かな時間でした」と坂田さんの笑顔がこぼれます。
「老舗料亭だからこそ、“代々続く伝統の味”へのこだわりが強いのかと思っていました。でも高橋さんは、食材やお客様のニーズに合わせて変化していくことにとても柔軟で軽やか。変わらないものと変えていくもののバランスのよさを、私もぜひ取り入れていきたいです」(坂田)