新潟のつかいかた

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料理家・坂田阿希子さんが巡る、
新潟「食」の旅
「古町で味わう、花街の文化」 | Page 2 Posted | 2020/03/06

古町の老舗料亭の設えに魅了される

そんな古町の料亭文化の中心にあった老舗料亭が、1846(弘化3)年創業の〈鍋茶屋〉です。白い石造りの重厚な門構え、国の登録有形文化財に登録されている木造建築の趣に「170年の歴史ある空間でいただく料理はまた違いそうですね」と坂田さんがつぶやきます。

〈鍋茶屋〉の門構え
古町八番町を折れて、東新道の通り(現・鍋茶屋通り)に入ると目に入る立派な門構え。
お店の入り口へ
門をくぐり、中庭を抜けてお店の入り口へ。建物は中庭を囲みコの字になっています。

創業時はすっぽん鍋専門店だったという鍋茶屋。店名と合わせて、料亭のしるしになっている亀甲型は、すっぽん料理に由来しているのだとか。多くの文人墨客に愛されたほか、1878(明治11)年の明治天皇来県時には、会席を調進したことでも知られています。

玄関
玄関を入ると、ゆったりとした空間が来客を出迎えます。
敷地内の行灯
敷地内いたるところにある「鍋」のロゴがかわいらしい。

ご案内してくれたのは、7代目の高橋英司さん。
「かつては一見さんお断りの時代もあったのですが、今では法人のお客様はもちろん、料亭文化に触れたいという個人のお客様も多く訪れ、家族の大切なお祝いの場としても利用されています」

玄関には人力車も
火事での全焼を経て明治43年に建て直された。築100年以上の趣が随所に。
会席用の大広間
結婚式や大人数での会席用の部屋も設けられている。
虫食いの欄間
何百年もかけて自然と虫に食われたケヤキの巨木をスライスしてつくられた「虫食いの欄間」。自然の営みを、建物の中でも味わえる。
増築された洋間
昭和7年に増築された洋間。ヨーロッパ外遊から帰国した鍋茶屋3代目がイタリアから技師を連れてつくったという。弥彦山を描いた絵やステンドグラスにこだわりが光る。

四季折々の新潟を丸ごと味わえる料亭料理

今回、坂田さんがいただいたのはお昼のコース。
前菜には、新潟の郷土料理「氷頭(ひず)なます」、車エビとウニ、カラスミ大根、スモークサーモンの甘酢カブ巻き、数の子、黒豆、田作りと、1月のお正月料理が並びます。

綺麗に盛り付けられた料理
写真左上から右回りに、氷頭なます、車エビとウニ、数の子、黒豆、田作り、スモークサーモンの甘酢カブ巻き、カラスミ大根。

氷頭なますは、鮭の鼻先の軟骨部分をスライスして大根と合わせた、県内ではおせちにも出てくる一品。鍋茶屋の氷頭なますは、いくらを茹でた「ととまめ」と一緒にいただきます。

「生いくらのとろっとした食感はなくなり、もちもちした食べ応えがととまめのおいしさです。氷頭のコリコリとした食感とととまめの弾力がいいバランスですね」と坂田さん。

氷頭なます
ととまめは、新潟の煮物料理「のっぺ」にもよく入っているそう。
料理をいただく坂田さん
見附市出身の坂田さんは「いくらといえば、ととまめ。茹でたほうが好きです」と話します。

続いて、お椀でいただくのは、白子のすり流し。真鱈の白子を出汁ですり流し、白みそを隠し程度に加えた一品です。

白子のすり流し
出汁はすべて北海道・利尻昆布を3~5年寝かしたひねものと、前日に削ったばかりの鹿児島県産かつお節でとったもの。
白子のすり流しをいただく
身が締まった真鱈の旨み、カブの柔らかな甘み、そして白子の濃密な味わいが口に広がり、「ポタージュのように濃厚ながら、さわやかなゆずの香りと相まって後味はさっぱり」と驚く坂田さん。
7代目・高橋英司さん
7代目・高橋英司さん。毎朝届く新鮮な食材を見て、素材の味を生かすひと皿を考える。

「利尻昆布は、藁で囲って温度管理して寝かせることで昆布の旨み成分グルタミン酸の含有量が増し、出汁の風味が変わるんです」と高橋さんが教えてくれました。
お客様の舌に合わせて調理法は代々変わっているものの、化学調味料を一切使わず完全無添加にこだわる姿勢はゆるぎなく続いています。

そして、新潟の冬のご馳走として外せないのは、ズワイガニです。10月1日のカニ解禁日に合わせてカニを食べる文化が根強い新潟県。柔らかくジューシーな身に、ほのかな苦みのあるカニみそを合わせ、冬の時期にしか味わえない甘みを堪能します。

ズワイガニ料理
身の締まったオス蟹の足と、甘みのあるメス蟹の甲羅を使っているそう。
ズワイガニ料理に舌鼓
生きたまま茹でたズワイガニは新鮮そのもの。

「懐かしい味。新潟にいた頃は毎年、解禁日が過ぎたら家族でカニパーティーしていたことを思い出します。身の締まりと瑞々しい甘みのバランスは、漁港のあるまちならではですね」(坂田さん)

「地元・新潟の旬の食材をふんだんに取り入れるというのは昔から変わらないことです。1か月ごとに料理は変わるほか、日々届く食材の変化に応じて、素材を最大に生かす一品をご提供しています。また、鍋茶屋の魅力は、お料理とお部屋ごとについた庭から季節の移ろいを感じられるところでしょう。深々と降る雪を眺める冬の日もあれば、窓から入る木漏れ日を味わう春の日もある。五感すべてで新潟を味わえる空間になっています」(高橋さん)

庭付きの和室
柔らかな光が入る庭付きの部屋。「縁側を歩くと床の木がしなる音がする。心が落ち着きます」(坂田さん)
高橋さんと談笑する坂田さん
高橋さんと束の間の談笑。「暖かくなったら、窓を開けて縁側でのんびりと過ごすのもいいですね」(坂田さん)

100年以上変わらぬ静謐な佇まいのなか、季節の移ろいを食と景色で感じることのできる〈鍋茶屋〉。「新潟の旬を贅沢な空間でいただけて、とても豊かな時間でした」と坂田さんの笑顔がこぼれます。

「老舗料亭だからこそ、“代々続く伝統の味”へのこだわりが強いのかと思っていました。でも高橋さんは、食材やお客様のニーズに合わせて変化していくことにとても柔軟で軽やか。変わらないものと変えていくもののバランスのよさを、私もぜひ取り入れていきたいです」(坂田)

〈鍋茶屋 光琳〉のカウンターとサバの酒粕汁

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