新潟の魅力を発見できる店
新潟食材をより身近に楽しみたければ、鍋茶屋の隣にある〈鍋茶屋 光琳(こうりん)〉でコース料理をいただくのも、古町の上質な味わい方です。鍋茶屋7代目の高橋さん自身が料理長として2016年にオープンし、一品一品を手がけています。
鍋茶屋の近くになぜ新たに和食店をつくったのか――。素朴な疑問を坂田さんが問うと、「お客様にもよく聞かれるんです」と高橋さんが笑います。
「地元新潟の食材にこだわり抜き、少量でも新鮮なものを提供したいと思ったとき、限られた人数のお客様と向き合う〈光琳〉の規模が最適でした。料亭には、厳かな空間とともに目にも美しい料理を楽しめる良さがあり、〈光琳〉には、お客様と近い距離ならではのライブ感があると思っています」(高橋さん)
すると「わかります。今の私のお店もカウンター席を設えているのですが、お客様の反応が直に見えるのは、料理人としての醍醐味でもありますよね」と坂田さんも大きく頷きます。
この日は、香ばしいそばの実と大根おろしで味わう「カラスミ餅」や、やさしい甘みの「サバの酒粕汁」、アツアツの「白子の春巻き」など、趣向を凝らした一品を、カウンター席でじっくりと味わいました。
「光琳では、食材の95%を新潟県産にこだわり提供しています。地元でつくられたものは、地元で新鮮なまま食べるのが一番おいしい。『新潟県産のこんな食材を使っています』とご説明できれば、県内のお客様は新潟の魅力を再発見し、県外から訪れたお客様は新潟がより身近に、思い出深い場所になるはずです」(高橋さん)
メジマグロを、黄身が濃厚な〈思い出たまご〉に絡めてひと口。「口に入れた途端とろけるメジマグロと、卵の滋味深さが絶妙です」(坂田さん)
くり抜いた柚子に、タラ、新潟県産の肉厚椎茸〈やひこ太郎〉、〈雪国まいたけ〉、九条ネギを入れて柚子ごと蒸したひと皿。
「柚子の苦みは、丸ごと蒸すから出る味わい。素材それぞれの甘みも引き出されますね」と坂田さんも感嘆の面持ちです。
高橋さんと話をしながら食べる贅沢な時間。ほかにも、ねっとりまろやかな食感が魅力の新潟県五泉市でつくられている里芋〈帛乙女(きぬおとめ)〉や、新潟が誇るブランド牛〈村上牛〉を炭火で芯温58〜60度を保ちながら備長炭でじっくり焼き上げたひと皿など、高橋さんの新潟愛が随所に詰まった料理を満喫しました。
「生産者さんが育てた県産食材を、どう生かしたら最高の逸品が生まれるのか。高橋さんの創意あふれるお料理の数々に、同じ料理人として刺激をいただきました」と坂田さんはしみじみ振り返りました。
かつての趣が残る古町の、花街文化と洗練された味わい。新潟の知られざる魅力にあらためて触れる旅が、ここにあります。
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Profile 坂田阿希子
新潟県生まれ。料理家。〈洋食 KUCHIBUE〉店主。料理教室〈studio SPOON〉を主宰。フランス菓子店や、フランス料理店での経験を重ね、独立。本格的な洋風料理から、手軽にできる家庭料理まで幅広いレパートリーをもつ。雑誌や書籍、テレビなどで活躍中。
credit text:田中瑠子 photo:ただ(ゆかい)