女性ひとりでも農業ができる
ビジネスモデルを!
栽培を始めた当初は、農協への出荷や近隣の方々への直売に加え、全国発送も行っていた若杉さん。でも、栽培を続けるうちにある疑問を抱くようになりました。
「収穫時期の後半になるにつれ、どうしても越後姫の市場価格は下がっていきます。その対策として思いついたのが加工でした。周りの先輩農家さんたちは管理するハウスの棟数が多く、加工まで手がまわらない人が多い。だから競合もいないし、ハウス1棟で収益を上げる農業のやり方が見つかるかもしれないって。女性ひとりでも農業ができるという新たなビジネスモデルを築ける気がしたんです」
越後姫の加工の定番といえばジャム。でも、やるからには誰もやっていない商品をつくりたい……。そんな気持ちがあったそう。
「ちょうどドライフルーツがブームだったんですよ。都内の百貨店や食のセレクトショップなんかに、ドライフルーツがたくさん並んでいて。あと、ドライフルーツを水に漬け込むフォンダンウォーターも流行り始めていた頃でした。それで、ドライいちごを思いついたんです」
初めて試作を食べた瞬間、あまりのおいしさに「これはいける!」と確信し、ドライいちごに可能性を感じた若杉さんは、2017年1月、新潟県から6次産業化プランナーの派遣を受け、商品化に乗り出したのです。
立ち上げから商品化まで約1年半。味や品質に加えて、若杉さんがこだわったのはロゴやパッケージなどのデザイン。
「どんな商品も、まず手に取ってもらわないことには誰のもとにも届きませんよね。“人の手に取ってもらえるデザイン”について、デザイナーさんと1年近く考えました」
まず、こだわったのは色でした。越後姫の赤との対比と、セレクトショップなどに置いたときにほかの商品と違和感なく並ぶよう白を採用。そして、形。食べ終わったあとも外装を何かに活用できるよう、軽くて持ち運びしやすい紙製の筒型に。
〈Ichi-Rin 苺稟〉という商品名といちごの花をイメージしたロゴマークには、「稟という字には『生まれ持った運命を生きる』という意味があります。そして、いちごは花びらの数で実の大きさが決まるんです。そのふたつを重ね、与えられた運命のなかで力強く花開いてほしい」と、想いを語ってくれた若杉さん。
「ブランド化したい、と息巻いていたわけではないんです。デザインやコンセプトを大切にした結果、自然と周囲からブランドとして認知していただけるようになりました。でも、信念はぶれないようにしています」
〈Ichi-Rin 苺稟〉の販売は現在、自身が運営する直売所とオンラインショップ、新潟伊勢丹の店頭とオンラインショップ、新発田市のふるさと納税の返礼品に限定しています。いずれは首都圏での販売も視野に入れているそう。
【 次のページ:
「ハウス1棟いちご農家プロジェクト」って? 】