匠の手“共通”インタビュー
「至極の作品は、誰に一番に見せたい?」
この先、自分でも納得がいくような最高の作品ができたとしたら。一番に報告したいと思う人には、きっと匠にとって特別な“なにか”があるはず。足立さんからは、こんな答えが。
「やっぱり家族かなぁ。実際、渾身の作品ができあがると『できたぞ! すごいだろ!』って、まず家族に見せるのがいつものパターン。『球体』が完成したときも、まっさきに娘に見せましたね」
伝統を守りつつも、新しいジャンルの作品づくりにも積極的に取り組んでいる足立さん。
「仕事をする傍らで、こうしたものづくりも少しずつ進めています。これまで手がけたことのないものに挑戦するのは、やっぱりとってもおもしろいもの。ふるいなどの需要はだんだん減りつつあるので、新しい風も取り入れたいな、と思います」
そう言って、のびのびと笑っていた足立さんですが、顧客から修理の連絡を受けとると、すぐに職人の顔が戻ってきました。〈足立茂久商店〉では、網の張り替えなどの修理も請け負っているのです。
「製造や販売に加えて修理を行うというのは、ウチの特徴かもしれませんね。ウチのものじゃなくても引き受けますよ」
この日、青森から送られてきたという見事なせいろを検分しながら、「すばらしい出来映えです。文化財級かも。心臓に悪いですね……」と汗をぬぐう足立さん。そんな逸品を任されるのも、ひとえに一流の腕前があってのこと。
「師匠だった父から学んだことで、一番よく覚えているのは『つくった物には、つくった人間の性格や人柄がにじみでる』ということ。真剣に取り組めば、しっかりとした良品ができる。確かにそのとおりだとつくづく実感しています。これからも実直に、喜んでもらえるものをつくり続けていきたいですね」
今日も工房からは、トントン、トントンと足立さんが手を動かす音が聞こえています。
※足立さんの作品は、いくつかのECサイトなどで販売されているほか、長岡市のふるさと納税の返礼品にもなっているそうです。
Profile 足立照久(あだちてるひさ)さん
〈足立茂久商店〉11代目。ふるい、せいろ、裏漉しなどの曲げ物をつくり続ける。プロ向けの調理器具から一般家庭向けの電子レンジで使える〈わっぱせいろ〉まで、喜ばれる道具づくりに定評あり。〈曲輪の球体〉などのアート作品も精力的に発表している。
Information
credit text:矢口あやは photo:やまひらく