高速船で島へ! 子ども心がうずく磯遊び体験
山も海もある新潟。「島もある」といったら誰しも「佐渡島!」と答えるでしょう。
もちろん、間違いではありません。だけど、新潟県の地図をあらためてよーく見てください。北のほうの海にぽつんと浮かぶ、小さな粟粒のような島が。それが〈粟島(あわしま)〉です。
正直、新潟県民に粟島の情報を聞いても、少し失笑を交えながら異口同音に「なにもないでしょ」と返ってきます。しかし、県外からの見え方はちょっと違うことをご存じですか? なんでも、離島マニアを中心に注目が集まっているというのです。新潟県民が「なにもない」と口を揃える粟島の、一体なにが魅力なのでしょうか。その実態を確かめに、1泊2日の旅に出かけてみました。
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はやる気持ちを高速双胴船〈awalineきらら〉に乗せて
粟島への玄関口である岩船港はJR村上駅から乗合タクシーで約15分。自家用車で来た人には無料の駐車場がうれしい。港から島までの運航距離は35キロで、海の上の足は2種類あります。行きは、はやる気持ちに則って、高速船で向かいました。
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子ども心がうずく磯遊び〈穴釣り〉体験
粟島に到着してさっそく港から海をのぞき込む。驚いたのはその透明度です。レンタル釣り竿を片手に堤防から糸を垂らすと魚たちが寄ってくる様子がよく見えるということで、粟島は釣り人にも人気のスポットというのも頷けます。今回は釣り未経験の女性や子どもでも楽しめる〈穴釣り〉というものを教えてもらいました。
やって来たのは旗崎海水浴場。〈穴釣り〉をするのは岩場の多い磯エリアです。竹板にくくりつけられただけの糸と針を手渡してくれたのは、案内してくれた粟島浦村役場の本保慎吾さん。
「まずはエサ集めです。ヤドカリを捕まえてきてください」
間に揺れる岩場をジッと見ていると、保護色の小石のようなものが歩き出し、ヤドカリだと気がつきます。
「では、針にエサを仕掛けていきます。身近な石でヤドカリの殻を割って(ガシャン)、針が出ないようにエサを刺しましょう」
ペットにもなるヤドカリの殻を割るなんてと、つい、ひえぇ、などと声が。いやいや、これだって立派な自然の摂理です。わたしだって魚も牛も食べるのだから、魚だってヤドカリを食べるのです。
次に探すのがいよいよ「穴」。岩場の影に暮らしている「根魚」がいそうな穴に糸を垂らして待ちます。
くるぶしまで海に浸かりながら、竹片を握り、人差し指から糸を垂らします。指先に神経を尖らせると、糸から伝う感触で底にある砂粒まで見えるよう。肩の力が抜けてほうけているとくいっと糸が引っ張られました。海藻でもからまったかと思ったのですが、いったんは緩むものの、糸はまた張り、緩み、張る。もしかして、これは……。
「つ、釣れたかもしれません!」
なにぶん生まれて初めて感じる感触です。確信が持てません。
「しっかり針を食うように、なんどかしゃくってみてください」とアドバイスをいただきます。どうやるのかはわかりませんが、やってみるしかありません。糸がぴんと張るたびに軽くぐいと引いてみます。緩み、そしてまた引く。どうやら、針は外れていないようです。つまり、“釣れている”? 確信が持てないなら確かめるしかありません。引き上げてみると糸が激しく引っ張られました。間違いない、これはお魚が釣れています。慎重に引き上げると針の先にかかっていたお魚は「ギンポ」。江戸前では天ぷらの高級魚として食されていたそうです。
ひとりが釣れると半信半疑だった人も「本当に釣れるんだ」とばかりにスイッチが入るものです。時間いっぱいまで夢中で釣りました。
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ワイルド&ファイヤー、ロックでたぎる〈わっぱ煮〉
旅の楽しみとして外せないのがやっぱり「食」。特に地域の食材を生かした伝統食はぜひいただきたいものですよね。漁業で栄える粟島には、伝統の漁師飯「わっぱ煮」があります。
「もともとは漁師のお弁当。曲げわっぱにうるしを塗った弁当箱にご飯だけを入れ、フタで魚を煮たことがはじまりです。いまも、祭や集落行事の打ち上げに欠かせないアウトドア料理として親しまれています」
準備はいたってシンプルですが、それだけにワイルド。まずは竹槍で魚を3匹ほど通して、たき火で焼きます。
「魚は通常2〜3種類で、組み合わせによって味が変わります。今日はメバル、シマダイ、カワハギを用意しました。たき火だと遠赤外線で身がふっくら焼き上がります。また、この火の中で調理に使う石とお湯も温めます」
わっぱの底に鉄板を敷き、焼けた魚を入れていきますが、なんせ3匹と多い。側面に這わせるようになんとか魚を収納して、中央にレンゲいっぱいの味噌を落とします。そこへ豪快に熱湯をそそぎ、ここからが見せ場。
「大切なのはネギを入れるタイミングです。焼けた石を3つ入れるとお湯が沸騰します。その瞬間にネギを入れるとおいしくなるんです」
投入する焼け石は、丸みのある手頃サイズの玄武岩。中が詰まっており、耐熱性もあり、保温力もあるとか。たき火の中から熱された石を取り出してもらい、それを入るだけ。でも長いトングを使っているのに、石に近づくだけで熱い! せっかくの焼け石が冷める前に、指先に力を入れてしっかりトングで石を掴み、自分のわっぱへオン。汁が一気に煮立ちます。
3つ目の石を入れる頃には器からこぼれるほどわき上がり、慌ててネギでフタをしました。味噌の焼けた香ばしい香りに、思わずツバを飲み込みます。
さて、いよいよ実食。沸騰が止まっても石はまだまだ熱いので、注意していただきます。3種の魚たちの出汁は複雑に絡み合い、発汗で乾いた身体に味噌の塩気が染みわたるようです。そして、火の通ったネギの甘いこと。
ある程度食べたら、かじっていたおにぎりをわっぱの中に入れてしまいましょう。熱した石をさらに加え、ひと煮立ちさせればおじやのできあがり。焼けた石にご飯が張り付き、お焦げができていました。
それにしてもうるしを塗った高級曲げわっぱに石をぶち込んでしまうこの料理、なんてロックンロールなんだ、とくだらないことを思いました。
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洗練されたチルタイムが過ごせる〈THE GOOD HOUR PARK〉
粟島は隆起した山によってできた島で、集落は東側の〈内浦(うちうら)〉と西側の〈釜谷(かまや)〉の2つしかありません。
港が直結した内浦集落は民宿が並び、観光と生活が一体となっている印象です。民宿を横目に海岸線に沿って南下すると、内浦海水浴場に着きます。整備された海水浴場はプールのように穏やかで家族連れでも安心。公衆トイレやシャワーも完備してあるため、海水浴のあとも気持ちよく過ごすことができます。
この夏、内浦海水浴場近くにビーチパークができたと聞き、立ち寄ってみました。大漁旗をリメイクしたガーランドをくぐり、連なる小さなライトに誘われ、やって来たのは〈THE GOOD HOUR PARK(ザ・グッド・アワー・パーク)〉です。
どんな思いでこのビーチパークをつくったのだろう。オーナーのイイダタクヤさんに聞いてみました。
「僕は新潟出身で、粟島には家族旅行で何度か来ていました。上京後も、奄美大島や小笠原諸島など、いろいろな島に遊びに行きました。それぞれいいんですけど、“やっぱり粟島が好きだ”って気持ちがずっと心の底にあったんですよね。それに、もっと魅力を伝えられる、とも思ったんです。
粟島といえば海の幸ですけど、ずっと続くとやっぱり肉も食べたくなるじゃないですか。島にはコンビニもないですし、バーベキューの食材が切れて困ることもある。そんなときに、食材や薪を売ったり、キャンプ道具を貸し出したりする場所をつくりたいと思ったんです」
いろいろな島を知っているイイダさんだからこそ、粟島が持つシンプルな魅力にたどりついたようです。
「粟島の魅力って、このコンパクトさだと思うんです。港とまちが直結している島って実はなかなかない。粟島なら船が着いたら歩いてここまで来られますから、船上から飲んでパーティ始めちゃうことも可能なんですよ(笑)」
いまも東京に会社を持ち、東京・新潟市・粟島の三拠点生活だというイイダさん。外からの視点を持って、これからの粟島をもっとおもしろくしてくれそうです。
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今回宿泊する民宿〈みなとや〉で夕食
今回の宿は民宿〈みなとや〉。親子2代で営まれている食事にこだわった素朴な宿です。夕食はお刺身に、焼き魚、煮魚、みそ汁はお頭入り、とお魚づくし! やっぱり島旅といえばおいしいいお魚三昧なのです。
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粟島のディープな夜を感じたければスナックへ
船着き場の2階にある〈レストラン憩(いこい)〉は、夜になるとスナックに早変わり。となりになったおじさんにお酒や餃子をごちそうになって、最終的には肩を組んでカラオケを唱い、一夜の親睦を深めました。
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credit text:コヤナギユウ photo:斎藤隆悟