粟島時間が全身で感じられるレンタサイクル
粟島は車なら40分、自転車で3時間もあれば1周できてしまう小さな島です。集落の近くは平地ですが、島の北や南へ行くにしたがい急勾配な道になるので、島1周を考えているならレンタサイクルは電動アシスト付きがいいでしょう。わたしはあまり体力に覚えがあるほうではないので、内浦をのんびりお散歩サイクリングすることにしました。
この日はとにかく天気がよく、急いでいるわけではないのに、風が抜けるたびに汗が落ちます。目の前に延びる道をただ追うように漕いでいると、汗と一緒に「あれやらなくちゃ」などといった計画や、ちょっとした悩みなどがどんどん揮発していきます。
次第に意識は、目の前の青い海だけに。ずいぶん身軽な気持ちになっていることに気がつき、もしかして、「粟島時間」ってこういうことかもしれないと思いました。
建物の影に気持ちよさそうな竹のベンチが。若い女性とおばあが談笑しています。女性の名前は青柳花子さん。ここに暮らす移住者で〈おむすびのいえ〉という島唯一のゲストハウスを運営しているそうです。
「ゲストハウスには宿泊客だけでなく、集落のおじいやおばあがフラッと立ち寄って、たくさんお話ししていってくれます。ここに暮らす前のわたしなら、仕事モードがオンで、こんなふうに訪れてくれるおばあとゆっくり話をする余裕がなかったかもしれません。生活の中に仕事が馴染んでいるいまの暮らし方。ここにはオンとオフだけではないゆるやかな時間が流れているんです」と語ってくれました。
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ランチはカフェで「そそど」時間を過ごす
ランチは港近くの〈カフェそそど〉でいただくことに。オーナーシェフの世良健一さんも移住者で、自然豊かな環境で子育てがしたかったとのこと。食を大切にする気持ちはメニューにも表れていて、粟島の特産品を生かした料理がいただけます。一番人気はフィッシュカレー。野菜もきちんと素揚げするなどひと手間かけてありました。
「シーフードは季節によって多少変わりますが、ブリが多いです。ブリの香りや脂に合うスパイスは、かなり試行錯誤を重ねた自信作。たまに貝やタコを入れることもありますよ」
島で捕れるサバは「小サバ」といわれる少し小さなもので、輸送して本土の市場に出しても採算がとれないため、ほとんど島で消費されるそう。小さくても脂の旨みは成魚顔負けで、なによりやわらかくなめらかな舌ざわりの身に驚きました。小サバ、本当においしいです。
畑での特産品はジャガイモ。これを使ったコロッケも人気メニューのひとつだそう。デザートには「粟島塩チョコアイスクリーム」の文字を発見。粟島でお塩をつくっているなんて話は聞いたことがありません。
「実は、塩は僕がつくっているんです。冬になるとストーブを焚くのですが、乾燥を防ぐためにいつも水を入れたやかんを乗せていて、ふと、これで塩がつくれるのではないかと思ってやってみたんですよね。鍋に海水を入れて、ストーブにかけて、水分が蒸発すると塩分が結晶化していきます。それを濾して、水気を飛ばし塩の完成。たくさんの量ができるわけではないので、なにかメニューに生かせないかと考えたのがこの塩チョコアイスです」
カカオ濃いめのチョコレートの甘みを、粟島の塩が引き出していく。心までゆったりくつろぐおいしさです。そういえば、店名の「そそど」ってどういう意味なのでしょう。
「島の言葉で、“ゆっくり、のんびり”という意味です」
滋味深いメニューの数々に、身も心も“そそど”できました。
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