海を見下ろしながらの乗馬体験でリラックス
最後に馬とふれあうことができる〈あわしま牧場〉へやってきました。ここで馬のお世話をしているのは「しおかぜ留学」の制度を利用して、島の小中学校に入学・転校してきた子どもたち。寮生活をしながら島の仕事を手伝ったり、行事に参加しているようです。その取り組みの一貫として、馬のお世話を通した“命の教育”が行われていました。
かつて、粟島にも野生馬が50〜60頭いたといわれていますが、昭和初期に絶滅してしまったとのこと。〈あわしま牧場〉では、背が低く、子どもたちが乗りやすい北海道の〈どさんこ〉という品種の馬を中心に飼育しています。
観光客のわたしたちも、予約をすればお世話体験や、ひき馬による乗馬体験ができます。どっしり座れる鞍なので安定感は抜群。背筋を伸ばして座るとよりしっくりときます。
わたしが乗馬体験させてもらう馬は“テン”という名前のメスで、大人しくてまじめだそう。目の前には青い海が広がっていますが、馬は海が好きなのでしょうか。
「それは馬の性格によります。いつも世話をしている留学生たちは馬と一緒に海に入ることもあるんです。海が好きな馬もいれば、濡れるのが嫌いな馬もいます。このテンちゃんは海が好きで、泳ぐのも上手なんですよ。犬かきみたいに上手に足を使って泳ぎます」
眼下に広がる海を眺め、ぽくぽくと歩く馬の振動は次第に体中の余計な力をときほぐしてくれます。赤ちゃんと一緒に乗ると、寝てしまう子がいるというのもうなずけます。何ともいえないリラックス体験になるでしょう。
Information
粟島時間は自分時間。飾らない自分と出会える島
「島時間」という言葉があります。それは、島がもつのんびりとした空気のこと。だけど、人はそれぞれの違ったタイミングを持っています。粟島に流れている空気は、だれもが本来持っている「自分時間」に気がつかせてくれるような魅力がある、と感じました。でも、こんなこと、言葉では伝わらないでしょう。これを書いているわたしの中でも、すでに半信半疑です。だから、あの感覚が本物かどうか、何度でも粟島を訪れて確かめるしかありません。
いくら小さな島とはいえ、1泊2日の旅はやっぱり短い。あっという間に帰りの船の時間になってしまいました。帰りは〈フェリーあわしま〉に乗ることにしました。2等室の切符を買って荷物を置いたら、すぐにデッキへ急ぎます。粟島との別れを惜しむためです。
定刻通りに、フェリーは滑るように走り出しました。何気なく港を眺めてみたら、〈カフェそそど〉の前で大漁旗を振り、見送ってくれる人の影を見つけました。ふいに、なにかこみ上げるものを感じて、振り切るように大きく手を振り返します。
「お世話になりました、また来ます!」
credit text:コヤナギユウ photo:斎藤隆悟