新潟のつかいかた

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紳士の見附、婦人の五泉。
日本一のニットセーターは
新潟県に在り! Posted | 2025/02/10

新潟といえば誰もが知るお米のおいしい県。豊富な水資源で食味豊かなお米が育まれてきただけでなく、古くから「繊維のまち」としても栄えてきた地域があります。

県内各地に今なお残る繊維産業のなかでも、今回注目したいのが日本一の出荷額(※)を誇る、新潟県産のニットセーターです。

2大産地と言われる五泉市、見附市は、なぜニット産地として発展したのかーー。その謎に迫るべく、トップニッター(編み立て業者)の皆さんにお会いしてきました。

※「ニット製男子・女子セーター他の出荷額」102億円(令和4年)

江戸時代から紡がれてきた新潟ニットの歴史

様々な色のニット用毛糸がディスプレイされている

新潟の織物の歴史は、江戸中期頃から連綿と受け継がれてきたといわれています。豪雪地の新潟では、稲作の閑散期となる冬の家内工業として農家の人々による織物生産が発展しました。現在、新潟の繊維産業はニットや織物の生産で知られていますが、その発展の影には、明治期に新潟県内で急増した絹織物生産が深く関わっていました。

100年前は「絹織物の一大産地・新潟」

明治期の新潟では、平野で「見附結城」や「亀田縞」といった綿織物、山間地では麻織物が普及。同じころ、山間盆地や山麓地では「栃尾紬(つむぎ)」「五泉平(ひら)」を筆頭に、絹織物の生産が盛んでした。

1869(明治元)年に新潟港が開港すると、メイド・イン・新潟の織物は、江戸や京都などの県外にも渡るようになりました。1887(明治20)年に新潟は絹織物生産額で全国5位となり、「絹織物の一大産地」と呼ばれるまでに成長したのです。

大型の機械が稼働している〈ウメダニット〉工場内
五泉市のニットメーカー〈ウメダニット〉の工場。現在は機械化が進み、世界に誇る高品質のニット製品を手がけている。

農業と繊維生産は新潟の基幹作業でしたが、昭和を経て、私たちの生活様式は目まぐるしい変化を遂げました。和装から洋装へ服装が変わったように、織物産業は徐々にニット産業に転換。そこから五泉市と見附市は、日本一の出荷量を誇るニット産地へと成長していきます。

レディースの五泉、メンズの見附

新潟県が発表している「新潟県の日本一」をみると、米菓や金属洋食器で全国1位の出荷額を誇る新潟ですが、「ニット製女子セーター他」と「ニット製男子セーター他」の出荷額でも、それぞれ1位を獲得しています。

技術力の高さを裏づけるのが、世界最高峰のメゾンも注目する新潟ニットの品質です。レディースニットの生産額でトップの五泉市と、メンズニットの産地を代表する見附市。どちらも自社ブランドの製造に力を入れ始めていますが、生産の大部分を占めているのが他社製品を製造するOEM生産です。

パソコンでニットワンピースの設計を行なっている
現在では、ソフトウェアを用いてデザインで設計も(ウメダニット)。

誰もが知るハイブランドや人気アパレルブランドの商品も、新潟のニットファクトリーから多数製造されています。そうした五泉・見附のつくり手たちが手がける自社ブランドのアイテムは、実は世界的な有名ブランドのお眼鏡にかかった品質で私たちのもとに届けられているのです。

五泉ニットのポスター

国内最大規模のニット産地・五泉

世界の名だたるブランドの品質が担保された五泉ニットの特徴は、細かな編み目を正確につなぐリンキング技術と、世界最高レベルの縫製技術にあります。セーターやカーディガンだけでなく、ニット小物にいたるまで、ワンストップで生み出す五泉ニットのファクトリーブランドは、洗練されたデザインでほかの産地からも一目置かれる存在です。

五泉ニット工業協同組合には、国内最大規模となる37の地元企業が参加(2024年度時点)し、2015年から五泉ニット地域ブランド化事業として積極的にイベントも行ってきました。その代表的な催しが、毎年11月に開催される〈五泉ニットフェス〉です。

壁に設置された〈LOOP & LOOP〉のロゴ
〈五泉ニットフェス〉のメイン会場となるのは、五泉ニット工業協同組合が運営する複合施設〈LOOP & LOOP〉。

〈五泉ニットフェス〉では、五泉ニット工業協同組合が運営する複合施設〈LOOP & LOOP〉を中心に、市内に点在するニットファクトリー各社が、工場内を特別公開するオープンファクトリーや、ワークショップを実施。〈LOOP & LOOP〉を含め、13店舗のファクトリーショップが営業しています。

一般の方だけでなく、全国展開するセレクトショップのバイヤーやスタッフもグループで参加し、アパレル業界のプロたちも学びにやってくるほどです。

〈LOOP & LOOP〉内観
〈LOOP & LOOP〉には常設ショップやカフェを併設。〈五泉ニット〉の各ニットファクトリーのブランドを取りそろえている。

Information

【LOOP & LOOP】
address:新潟県五泉市吉沢1-1-10
tel:0250-42-2156
access:五泉駅から徒歩約5分。安田ICから車で約15分
営業時間:10:00〜17:00、土・日曜・祝日は16:30まで(ショップは10:00〜16:00)
定休日:火・水曜
web:LOOP & LOOP
Instagram:@gosenknit_official

5つのファクトリーブランドを展開する
〈ウメダニット〉

施設内の壁にプリントされた「The Knit Bar」のロゴ

1961(昭和36)年創業のウメダニットは、数あるブランドのなかでもファッション性の高さが光るニットファクトリーです。

旗艦ブランドとなる〈UMEDA〉をはじめ、モダンでクリーンなスタイルを提案する〈WRAPINKNOT(ラッピンノット)〉、スタイリストCOZさんとのコラボレーションによる〈COZ manufactured by WRAPINKNOT〉、働く女性に向けたサステナブルブランド〈Calin(カラン)〉、ドッグウエアブランド〈Wants(ワンツ)〉を展開し、ニットの可能性を広げてきました。

〈ウメダニット〉3代目の梅田大樹さん
〈五泉ニットフェス〉でニットづくりについて説明する〈ウメダニット〉3代目の梅田大樹さん。

これらの仕掛け人となるのが、3代目の梅田大樹さん。

2014年からパリファッションウィークの合同展にも参加し、国内外の卸し先開拓も積極的に行っています。2022年には工場併設ショップ〈The Knit Bar〉をオープン。最新アイテムが店舗でもオンラインでもチェックできます。

白を基調とした〈The Knit Bar〉の店内
工場に併設するショップ〈The Knit Bar〉。アート作品も展示された洗練された雰囲気。

Information

【The Knit Bar】
address:新潟県五泉市今泉137
tel:0250-43-0600
access:五泉駅から徒歩約15分。安田ICから車で約15分
営業時間:11:00~16:00
定休日:月・土・日曜
web:The Knit Bar ウメダニット

ベーシックで高品質。本物のニットを
十人十色の着こなしで提案〈高橋ニット〉

ストア外壁に掲げられた〈Milestone〉のロゴ

1955(昭和30)年に創業した〈高橋ニット〉。普段使いできるベーシックなニットアイテムを熟練の技術を持って提案する〈PRODIGAL(プロディガル)〉は、カシミヤやウールを100%使用した贅沢なアイテムも手に届きやすい価格のラインナップとなっており、「より多くの方に本物を着てもらいたい」というメッセージが詰まっています。

ファクトリーの向かいで営業する工場直結のストア〈Milestone(マイルストーン)〉では、〈PRODIGAL〉のほかにも多彩な商品展開を見せる〈toiro〉、持続可能なファッションアイテム〈nacnarumade(なくなるまで)〉と、〈高橋ニット〉が手がけるファクトリーブランドも並びます。

インタビュー中の〈高橋ニット〉代表・高橋慶至さん
〈高橋ニット〉の代表・高橋慶至さん。〈五泉ニットフェス〉の実行委員長も務める。

「OEMで培った技術を生かして自社ブランドも強化しているところです。性別や年齢を問わずニットを愛用してほしいという思いから生まれたアイテムを実際に手に取って試してみてください」と代表の高橋慶至さん。

〈高橋ニット〉の製品が展示されている
店舗以外にもオンラインショップも開設。メンズ、レディース、小物とさまざまなアイテムをラインナップ。

Information

【Milestone】
address:新潟県五泉市泉町2-174
tel:0250-43-3221
access:五泉駅から徒歩約20分。安田ICから車で約10分
営業時間:11:00〜17:00
定休日:火・水・木曜
web:Milestone 高橋ニット

毎日を彩る〈塚野刺繍〉のスレッドフラワー

〈塚野刺繍〉工場内に掲げられたロゴ入りタペストリー

〈塚野刺繍〉は1960(昭和35)年創業の刺繍屋。2018年に旧村松町から現在の工場に移転し、自社商品を販売するショップも併設されました。

「普通のものを普通で終わらせないのがうちのこだわり」と教えてくれたのは、代表の塚野毅之さん。娘の塚野紗羅さんもプロデューサーとして参加するようになり、2022年には糸からつくるスレッドフラワーブランド〈LOPIN〉を立ち上げ。1枚では表現できない立体感を刺繍屋の技術で具現化したものです。

〈塚野刺繍〉の塚野紗羅さん
〈塚野刺繍〉の塚野紗羅さんは2021年に五泉市にUターン。現在は〈LOPIN〉のプロデューサーを務めている。

「ブライダル業界で働いていた経験から、記念日のお花を枯らさずに長く楽しめないだろうかと考えるようになりました。1輪だけでも、生花に混ざっても見劣りしないスレッドフラワーをお楽しみください」と開発者の紗羅さん。刺繍から生まれるアクセサリーや絵本にも注目です。

糸で花を再現したスレッドフラワーが並ぶ
糸からつくるスレッドフラワーブランド〈LOPIN〉。刺繍で立体的なアイテムをラインナップ。

Information

【塚野刺繍】
address:新潟県五泉市南本町2-1-61
tel:0250-47-4173
access:五泉駅から徒歩約10分。安田ICから車で約10分
営業時間:13:00~17:00
定休日:土・日曜(詳しくはInstagamを確認)
web:LOPIN
Instagram:@tsukano_shishu

〈MITSUKE KNIT〉の指なし手袋が展示されている

世界レベルのニットファクトリー集積地・見附ニット

新潟県の中心部に位置し、「新潟のへそ」と呼ばれる見附市。繊維産業が盛んなまちとして平成初頭から見附ニット工業協同組合が継続してきたのは、年2回の〈見附ニットまつり〉です。

〈見附ニットまつり〉には、4月の第2土・日曜に開催される「春のニットまつり」と、例年11月第2土・日曜に行われる「秋のニットまつり」があります。どちらも共同会場の〈ネーブルみつけ〉のほか、ニットファクトリー各社が会場となり、自社商品をイベント限定価格で購入できる特別な2日間です。

〈MITSUKE KNIT FAIR〉の会場の様子
東京・銀座の新潟県のアンテナショップ〈THE NIIGATA〉で行われた〈MITSUKE KNIT FAIR〉。

そのほかにも、見附市では市内で生まれた赤ちゃんに、見附ニット製のおくるみ授乳ケープをプレゼントする「おくるみニット」という活動も行われてきました。「見附の赤ちゃんは見附のニットに包まれて育つ」というのが、このまちの慣例でもあります。

2015年、見附ニット工業協同組合に加盟する19社のうち、中核を担う6社によって産地ブランド〈MITSUKE KNIT〉の商品展開を開始。新潟県がモンゴル・フブスグル県と友好交流に関する覚書を締結したことを機に、2018年からはモンゴルカシミヤに特化したカシミヤニットの商品化にも力を入れてきました。

「一生もののモンゴルカシミヤ」と書かれたポスター
〈MITSUKE KNIT FAIR〉では、モンゴルカシミヤのアイテムを中心に販売会が行われた。

〈MITSUKE KNIT〉がつくるモンゴルカシミヤシリーズは、無染色(化学染料不使用)だから実現できた極上の柔らかさとツヤ感が特徴です。アイボリー、ベージュ、ブラウンといったナチュラルなカラーバリエーションで着回しやすく、ニット小物も名品がそろいます。

Information

【MITSUKE KNIT】
web:MITSUKE KNIT 見附ニット工業協同組合

国内唯一のFF30Gをつくる
〈第一ニットマーケティング〉

ハイゲージの白ニットを着たモデルカット

1951(昭和26)年に織物製造会社としてスタートを切った〈第一ニットマーケティング〉。昭和中期から編み目の細かいハイゲージニットの生産に注力してきました。

強みは、超ハイゲージの横編み機、フルファッション機によるハイテク設備と、職人の手仕事を融合させた、国内唯一の技術です。

〈第一ニットマーケティング〉加藤寿脩さん
〈第一ニットマーケティング〉のニットアドバイザー・加藤寿脩さん。

自社のこだわりについて、営業部副部長の加藤寿脩(ひろはる)さんは「ほかのニッターさんでは実現できない、超ハイゲージの横編み機〈FF30G(ゲージ)〉と断言します。FF30Gは、英国王室御用達のニットウエアブランドと同じ編機です。

手作業による工程が多く必要な製品で、上質なクオリティと、ガシガシ使ってもヘタらないタフさを併せ持ったデイリーウェアです。長く愛されるようにベーシックデザインで展開しています。

ファクトリーショップとなる〈Primera〉では、自社ブランドの〈Primera〉〈30/70(トレンタセッタンタ)〉〈no+af(ノアフ)〉に加え、見附ニットのアイテムも販売。自社のECオンラインサイトストア「diiiito」でも自社ブランドをチェックできますも展開しています。

ファクトリーショップ〈Primera〉外観
〈第一ニットマーケティング〉の本社1階に併設するファクトリーショップ〈Primera〉。(写真提供: 第一ニットマーケティング)

Information

【Primera】
address:新潟県見附市柳橋町270-1
tel:0258-66-4513
access:見附駅から徒歩約10分。中之島見附ICから車で約20分
営業時間:10:00〜16:00
web:diiiito Primera 第一ニットマーケティング
Instagram:@diiiito_official @primera_factoryshop

創業1832年の伝統と革新産地が誇る
老舗メーカー〈丸正ニットファクトリー〉

〈丸正ニットファクトリー〉のニットを着た男女のモデルカット

1832(天保3)年に織物業として創業した〈丸正ニットファクトリー〉は、192年の歴史を持つ新潟県内最古のニットメーカー。「あらゆるゲージの編み機を保有しているため、自社工場でどんなデザインでも実現します」とニットエンジニアの治田信(しん)さんは言います。

「見附は最高級の素材を生かしたものづくりを手の届く価格帯で提供する希少な産地。自社ブランド〈ROUVER(ルーバー)〉の海外進出も動き出しているので、新潟から世界へ、見附ニットの魅力を発信していきたいです」

〈丸正ニットファクトリー〉治田信さん
〈丸正ニットファクトリー〉のニットエンジニア・治田信さん。

〈丸正ニットファクトリー〉では、カシミヤの心地良さを提案する〈LUYUAN ROSE(ルーエン ローズ)〉と、アウトドア専門ブランド〈ROUVER〉を展開。老舗メーカーの強みとなる無縫製技術・ホールガーメントのアイテムは必見です。

〈丸正ニットファクトリー〉の工場外観

Information

【丸正ニットファクトリー】
web:丸正ニットファクトリー LUYUAN ROSE ROUVER

異素材ミックスを得意とする〈金録ニット〉

〈金録ニット〉ロゴ

ゴルフウエアを中心に手がける〈金録ニット〉は、ニットと異素材の組み合わせを得意とするニットファクトリー。1962(昭和37)年の創業から、華やかでバリエーション豊かなニットアイテムをつくり続けてきました。

「ゴルフウエアは外で着る機会が多いので、表がニットで裏面を防寒性に優れた機能性生地にしたり、ファッション性の高いものならMA-1ブルゾンの一部をニットパーツにしてみたりと、さまざまな異素材MIXを提案しています」と、営業部の志賀由紀恵さん。

ニットとスウェット素材やナイロン素材を組み合わせたアイテム2点

万能な設備とハイクオリティーの縫製技術でメンズ、レディースアイテムを製作しています。〈MITSUKE KNIT〉のポップアップショップや見附ニットを販売する〈Primera〉、春秋に開催される〈見附ニットまつり〉で探してみてください。

日本が誇る最高品質のニット
〈五泉ニット〉と〈MITSUKE NIT〉

おいしいお米や日本酒のように、新潟県には最高品質のニットがあります。

日本有数のニット産地・五泉市と見附市——同じニット産地でも、ファクトリーごとにこだわりも、デザイン性も異なります。ふたつの産地で毎年開催されているイベントに参加して、その違いをぜひ確かめてみてください。

credit text:松永春香 photo:中田洋介(『新潟のつかいかた』編集部)