ジビエの本当のおいしさを求めて
現在、〈Restaurant UOZEN〉の料理はランチ、ディナーともにシェフのおまかせコースのみ。なかでもディナーコース(11,000円)の前菜として出される〈佐渡産ボタンエビのブイヤベース仕立て〉は、井上さんいわく「うちの看板メニュー」とのこと。
「もともとこのメニューは、地元で水揚げされる甘エビのために考えた一皿だったんです。そんななか、たまたま市場で甘エビよりもひと回り大きなボタンエビを見つけて『これはどこのですか?』と聞いたら佐渡産だと。その瞬間にボタンエビで調理したいなと思いました。調理方法はボタンエビをゼラチンで濃度をつけたコンソメでコーティングしつつ、魚介のスープに欠かせないニンニク風味のマヨネーズ、ルイユを美しいドット状に散らし、ハーブをあしらって仕上げています」
ボタン海老の艶やかな姿にぐっと引きつけられながら、同時に魅了されるのが盛りつけ用の器。彫刻的な佇まいをしたその美しい器は、聞けば富山県で作陶しているという陶芸家の釋永岳(しゃくなががく)さんの器だと言います。
「器やカトラリー、茶器や包丁など、できるだけ料理に関わるプロダクトは自分が敬愛する作家や職人によるものを使用しています。釋永さんは富山ですが、主に新潟のものが多いです。何より三条はものづくりのまちですから、茶器は〈玉川堂〉のもの、包丁と狩猟用のナイフは〈日野浦刃物工房〉につくってもらいました。ほかに三条から少し離れますが、長岡の木工作家、富井貴志さんの器も使っています」
そんな富井さんの器に盛りつけられた料理は、同じくディナーコースのひとつ、サラダ・ジビエのパテ・アン・クルートです。
「ジビエというと肉が硬くて臭みがあるイメージを持つ人もいて、それが苦手だと感じられる方もいると思います。でも本来ジビエとは屠殺方法と調理方法さえ間違えなければ、とてもおいしくなる食材なんです」
育った環境、食べていたもの、年齢や健康状態などで肉質や香りは変わるもの。その個性をひとつひとつ見極めることがおいしくするための大事な一歩で、それを井上さん自身、狩猟と調理を通じて日々体感していると言います。そんな井上さんに一番好きなジビエを尋ねてみると、「熊とヤマドリ」との返答が。
「ちょっとワイルドな匂いと雑味を感じるのがジビエだと思っている方も多いと思うんですが、本当においしいジビエは脂もさらっとしていて、実はすごくクリーンな味わいなんです」
まさにその通り。パテ・アン・クルートをひと口食べてみるだけで、そのクリーンな味わいが五臓六腑に染み渡ります。本当においしい!
目の前にあるひとつの命をどのようにしていただくか。井上さんは料理を通じてそのひとつの命の営みを見つめながら、責任を持って調理する。こうして四季折々、土地の営みに寄り添った〈Restaurant UOZEN〉の料理は、まさに本当の意味での自然へと限りなく近い、野生のひと皿でもあります。
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credit text:水島七恵 photo:ただ(ゆかい)