錦鯉のおもしろさは「グローイングビューティー」
錦鯉の魅力はなにかと問えば、色調の美しさ、ひとつとして同じものはない模様、やわらかな曲線を描くフォルム、それらの美しい錦鯉たちが池で群れる景観美。
「すべてが美しい!」とマニアに称賛される錦鯉ですが、もちろん生まれてくる錦鯉がすべて美しさをまとっているわけではありません。そこには、生産者の努力や苦労から生まれた“美”があるんです。
長岡で養鯉業を営み、これまでにさまざまな賞を獲得してきた養鯉のプロフェッショナル、〈(株)錦鯉新潟ダイレクト〉の大面富士雄さん。彼に錦鯉の魅力を尋ねると、「グローイングビューティー」だと言います。
「大きくなって、ますますきれいになる“可能性がある”というのが錦鯉の特徴です。例えば、まだ完全に墨色が出てきていない鯉がいたとして、これが将来ハッキリと墨色が出てくれば、もっとすばらしく、美しい鯉、印象的な鯉になるだろうと見立てるんです。それが錦鯉のおもしろさであり、ほかの魚と違うところですね」
1尾のメスが産む卵の数は約30~50万個。このなかから見込みありと選別される稚魚は、わずか0.01~0.1%程度。さらにこの段階での柄や色はアテにならず、「将来はこうなるだろう」という見通しをつけ、それらを一生懸命育てていくというのが生産者の役割。うーん、なんとも厳しく、深い世界……。
「錦鯉の飼育は、自然がつくり出すモノ、人間がつくり出す環境、己の眼力、そして“運”なんです。環境、餌、水質、飼育方法に加えて、幸運の女神が自分に微笑んでくれるかどうか、ということ。コントロールできない“自然美”というのが、楽しみであり、魅力なんです」
このように厳しく選別され、飼育された錦鯉は、日本の愛好家だけでなく、各国のバイヤーやオーナーの手に渡るのですが、そこにもまた驚くべき実情がありました。
錦鯉のオーナー制度!? 飼育委託される錦鯉
日本には現在、約500軒の養鯉業者があり、その内の約300軒は新潟の小千谷や長岡に集中しています。錦鯉愛好家にとって新潟は“聖地”そのもの。
外国人バイヤーは、来日すると複数の生産者を巡り、気に入った錦鯉を購入。輸入手続きをして持ち帰る人もいれば、生産者にそのまま飼育を委託する人も。
委託された錦鯉は、生産者のもとで最良の環境で育てられます。その間生産者は、色や柄の変化、健康状態など、定期的にオーナーへ報告。外国人オーナーは自国にいながら、自分の錦鯉の成長を見守るのです。
さらにこれらの錦鯉は、毎年秋に開催される〈新潟県錦鯉品評会〉や、錦鯉の世界選手権ともいうべき〈全日本総合錦鯉品評会〉へ出品。自身の目利きで選んだ錦鯉が、信頼をおく生産者のもとで美しく成長し、名誉な賞に輝くことがなによりの楽しみなのだとか。
これらの賞に輝くと、錦鯉には高値の価値が生まれます。自国に持ち帰り、栄誉に輝いた錦鯉を日々眺めるもよし、求める人がいれば高値で取引するもよし。または、成長するごとに美しさを増す錦鯉なので、もう少し生産者に預けて美を磨き、翌年の品評会でさらなる評価を得るという選択も。
ここまでくると、もはや絵画、宝石、骨とう品といった、鑑賞品・芸術品の域。「泳ぐ宝石」「泳ぐ芸術品」などと称されるのも納得です。