家族経営をやめてプロが活躍する宿へ
山岸さんが家業を継いだのは2016年のこと。横浜国立大学で経営学を学んだ後、宿の経営者にも料理の知識が必要と、調理師専門学校に通い、日本料理店で修業。これだけでも異色ですが、さらに企業に就職し、海外出張もこなすビジネスマンとして活躍。さまざまな経験を積んだあと、故郷に戻り、4代目に就任しました。そして自分の強みを武器に、これまでの玉城屋のスタイルを一新。
「玉城屋は家族経営の昔ながらの旅館で、料理も刺身や天ぷらを一度に出す、よくあるタイプの宿でした。そこで料理内容と提供方法を見直すことにしたんです。コンセプトは “田舎の贅沢”。野菜を中心に地元の食材を多く使い、温かいものは温かいうちに食べていただけるよう、1品ずつ出すようにしました」
日本酒にも力を入れます。
「数種類しかなかったものを約50種類まで増やしました。いらっしゃるお客様は新潟の地酒を楽しみにしていますからね。宿の名前も〈玉城屋旅館〉から〈酒の宿 玉城屋〉に変更して、特徴を明確にしたんです」
料理、サービス、経営のすべてを山岸さんが担当。ブレのない完璧なサービスは、客の心を一気に掴み、リピーターを増やしていきます。そして、さらなるサービスの向上を目指し、厨房はその道のプロに任せ、山岸さんはお酒に専念することに。SNSを使ってスタッフを募集するなかで、現在の栗山シェフとの出会いがあったといいます。
「十日町出身で、東京・六本木にあるミシュラン2つ星のフレンチレストラン〈リューズ〉を経営されている飯塚隆太シェフからの紹介でした。栗山シェフはリューズで長年、修業してきた料理人で、東京で自分の店を開いてもおかしくない実力を持っています。こんな田舎の旅館に来てくれるなんて、夢のようでした」
フレンチと日本酒という新たなコンセプトは、瞬く間に評判に。さらにシニアソムリエや元有名ホテルのコンシェルジュといったスタッフを迎え、家族経営からその道のプロが活躍する宿へとスタイルを変えていきます。
【 次のページ:さらなる挑戦、姉妹宿は
“泊まれるフレンチバル” 】