名刺入れの製造・販売から社内ベンチャー設立へ
大小合わせて3000以上もの工場があるといわれる、ものづくりのまち、燕三条。ここで、ほかの人たちとはちょっと違ったスタイルで、ものづくりに関わっている人がいます。〈株式会社MGNET(マグネット)〉代表の武田修美(おさみ)さんです。
8月某日、武田さんを訪ねて燕市東太田へ。JR弥彦線、西燕駅から歩くこと約5分。本社併設のセレクトショップ〈FACTORY FRONT(ファクトリー・フロント)〉が見えてきます。店には、全国から選りすぐった、つくり手の思いあふれるアイテムがずらり。
「これ、かわいいでしょ。昔はこういったフォークで、梨なんかを食べていたんですけどね」と武田さんが見せてくれたのは、燕市の〈工房アイザワ〉の昭和レトロなカトラリー。もともとは工場の倉庫で眠っていた廃番商品でしたが、引き取って店に並べることにしたそうです。
「このシリーズは、製造工程の変化や職人の減少によって現在は製造されていないものなんです。残念という人もいますが、それはそれで、時代の流れを受け入れればいいと思っています」
武田さんの仕事は「ものづくりにとって、よりよい環境をつくること」。工場で埋もれていたカトラリーに光を当てて、その魅力を伝えるのも仕事のひとつです。
MGNETは、武田さんの父親が営む町工場〈武田金型製作所〉から、社内ベンチャーというかたちで生まれました。もともと家業を継ぐ気のなかった武田さんは、自動車メーカーに就職。営業マンとして働いていましたが、病気を患い退職することに。その後、父親の勧めもあり、2005年、武田金型製作所に入社します。
「父から任された仕事は、自社の金型技術を生かした名刺入れの製造、そしてそれを販売するECサイトの運営でした」
ゼロからのスタートでしたが、わずか数年で事業を軌道にのせ、2011年にMGNETを設立。その背景には、名刺入れの売上伸長を受けてという経理上の事情もあったそうですが、現場で仕事をするなかで、ものづくり全体の課題が見えてきたことが大きな理由だったと当時を振り返ります。
「燕三条には、職人にとっては当たり前でも、知らない人にとっては驚愕するようなおもしろい技術や商品がいっぱいあるんです。でも職人たちはそれをうまく発信して、新しいビジネスにつなげていくノウハウがありません。加えて、製品をつくってもらいたいと、工場にやってくる新しい人たちを柔軟に受け入れる態勢も整っていません」
そんな閉鎖的な体質を変えていきたいと武田さん。
「ものづくりだけしていればいい時代は終わりました。これからやるべきことは、いいものを生み出し、その楽しさをより多くの人に伝えること。そうすれば、社会全体がものづくりしやすい環境に変わり、若いつくり手を増やしていくことができると考えています。MGNETが目指すのは、こういった持続可能な循環型のビジネスモデルをつくることです」
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