6次産業化を成功させる秘訣は“コラボ”
現在、新谷さんは6次産業化のプランナーである「地域プランナー」として、農林水産省が推進する「農山漁村発イノベーションサポートセンター」に登録しています。
「農山漁村発イノベーション」とは、農林水産物や農林水産業に関わる地域資源を生かして、新事業や付加価値をつくりだす取り組みのこと。
「このサポートセンターは、県庁の管轄なので、6次産業化に取り組みたい生産者さんの相談窓口として各都道府県に設置されています。相談を受ける人たちが、お金の負担をしなくてもいいことがメリット。次第に県外の農家さんからも依頼が入るようになったので、いまは新潟県だけでなく、福島県、群馬県、埼玉県、山形県のサポートセンターにも登録しています」
これまで手がけた事例は、商品開発から規格外品の販路開拓、農福連携まで多岐にわたります。6次産業化と聞くと、生産から販売まですべて行わなければいけないと思いがちですが、そうではないと新谷さん。
「すべて自分たちでやろうとしないことが大切。特に小規模の農家さんの場合、仕事量が増える分、それぞれのクオリティが落ちてしまうことも。例えば、加工は専門の業者にお願いして、販売を自分たちで行うなど、誰かとコラボするとうまく回ります。
私はいつも、農家さんを訪ねて、実際の現場を見せてもらうんです。どのくらいの規模で何ができるのかを確かめたうえで、相談者の得意分野を生かせるようなアドバイスを心がけています」
現在は、カフェ経営と並行しながら地域プランナーとして全国を飛び回る日々。カフェは、6次産業化を試験的に行う場にもなっています。最近のヒット商品が「さつまいもコロッケ」。
「農家さんから、規格外の巨大なさつまいもが届いたんです。本来なら、何かおもしろい商品を考えたいところですが、“売る”ということだけを考えた場合、唐揚げやおにぎりのように、商品名を聞いただけで味をイメージできるほうがいいのではないかと。そこで思いついたのが、このコロッケ。週末になると100個以上売れるんですよ」
そしていま、西日本を中心に展開しているのが、前述の「焼きイモソフトクリーム」を冷凍スイーツとして地方発送できるようにした商品〈イモぽんソフト〉。
「コロナ禍で客足が途絶えたとき『カフェにお客さんが来られないなら、こちから送ればいいんだ!』と、発想を切り替えたんです」
「やるからには徹底的に!」が、新谷さんのモットー。イモぽんソフトを年間1万個売ることを目標に定め、特注のパッケージを1万枚用意。特許も取得します。さらにSNSで見つけた、広島県にあるスイーツ専門の無人販売所に営業をかけ、商品を置かせてもらうことに。
「この販売所がきっかけとなってSNSで話題になり、1か月で3000個も売れたんです。でもバズりすぎちゃって、パッケージが足りなくなるという予想外の事態に。常にピンチがやってくるんです(笑)。でも、私のこういった経験を地域プランナーとして生かせればと思っています」
数年前からは、畑を借りてさつまいもの栽培もスタート。
「最近は、多くの農家さんが〈紅はるか〉という品種を栽培していますが、つくる人が増えれば価格競争が起きてしまいます。そうならないためにも、畑では新しい品種を試験的に育てています。イケる!と思ったら、どんどん広めていきたいですね」
何事もひらめいたらまず行動。ピンチが来たらチャンスに変えて、そのつど乗り越えていく新谷さん。さつまいもが小千谷市の特産品になる日も近いかもしれません。
Profile 新谷梨恵子
1978年東京都生まれ。15歳でさつまいもの魅力に目覚め、東京農業大学に進学。結婚を機に小千谷市に移住し、農業法人に就農。2015年、個人事業主として〈農プロデュース リッツ〉を立ち上げ、農家の6次産業化を応援するために「食の6次産業化プランナー」の資格を取得。並行して農家カフェ〈さつまいも農カフェ きらら〉をオープン。2018年に会社を法人化。現在はカフェオーナー、地域プランナーに加え、さつまいも講師、さつまいも栽培、農業インターンシップの受け入れなどを行っている。
Information
*価格はすべて税込です。
credit text:矢島容代 photo:ただ(ゆかい)