魚沼の良さをユーモラスに
表現してグランプリ受賞
「演技は硬いけど、水はとっても軟らかい」
そんなキャッチコピーのもと、中年男性ふたりの演技のかたさが「魚沼の水」を飲むことでたちまちほぐれ、最後は満面の笑みに変化していく。このクスッと笑える作品が、2025年の「新潟ふるさとCM大賞」でグランプリに輝いた、魚沼市の「ウオーターボーイズ」です。
コミカルな演技が印象的な出演者は市の職員。
「表現したかったのは、おじさんたちのキャピキャピ感。『おじさん』と『美しい水』って、一見、相反するイメージですよね。だからこそ水のなかでキラキラする姿は、絶対におもしろいと思ったんです」と話すのは、魚沼市出身で、現在は南魚沼市を拠点に活動するフォトグラファーの酒井大(ひろし)、通称ヒロスイさん。
そんな酒井さんの世界観をかたちにするのが、編集を担当したデザイナーの山之内匠(たくみ)さん。同じく魚沼出身で、南魚沼を拠点に活動しています。

今回で5回目となる「新潟ふるさとCM大賞」で、ふたりがタッグを組んだのは第2回から。そのうち3度、グランプリを受賞しています。
新潟ふるさとCM大賞とは、県内の市町村が地元愛あふれるCMを制作し、地域の魅力を発信するコンテスト。新潟県、新潟テレビ21(UX)、新潟県市町村振興協会の主催で、2020年から毎年開催されています。入賞作品には副賞として、グランプリは年間100本、準グランプリは50本など、賞に応じた本数のCMが、新潟テレビ21のテレビスポットで放送され、YouTubeでは各市町村のCMを見ることができます(UX新潟テレビ21 第5回受賞作品・応募作品)。
「第1回は僕ひとりで担当し、9位だったんです。反省点も多く『このままでは終われない』と火がついて、山之内に声をかけました」(酒井さん)

実はこれまでCM制作の経験がなかったというふたり。それを逆手に取り、独自のスタイルで映像を生み出しています。たとえば、多くの映像制作現場では、キャラクターの動きや構図を視覚的に示した「絵コンテ」を使って撮影を進めます。しかし彼らは違います。
「このCM制作は、魚沼市役所の方を含む約10人のチームで行うため、全員がイメージを共有できるよう、企画の段階でざっくりとした絵コンテは作成しました。ただ、実際の撮影や編集作業では、予定調和に収まらない、偶発性を大切にしたいので、あえて使わないんです」(酒井さん)
酒井さんの動画撮影に対するアプローチが、一般的な動画カメラマンのものとは違うと、山之内さんは話します。
「ヒロスイさんはスチールカメラマン出身なので、動画撮影でも『これだ!』と思った瞬間を逃さず、どんどん撮っていきます。カット数は膨大ですが、その分、思いがけない魅力的なシーンがすごく多いんです」(山之内さん)

半日以上かけて撮影した素材をまずは山之内さんがすべて受け取り、1~2分の動画にします。そこから30秒に凝縮する工程で、ふたりの真骨頂が発揮されます。
「映像を確認しながら、スピード感やリズムなどの細かい要望を山之内に伝えていきます。音楽も彼がつくっているんです。作業に没頭しすぎて、気づけば朝になっていたことも。毎回、見事に仕上げてくれる彼の技術には、本当に脱帽です」(酒井さん)
「時には意見がぶつかることもありますが、そのほうが結果的にいいものが生まれるんですよね。おもしろいものをつくるって、独りよがりになってはいけないし、本当に難しい。深夜に大人ふたりがモニターを見ながらゲラゲラ笑っているんですけど、それが深夜ゆえのテンションなのか、本当におもしろい映像なのか、わからなくなることもあります(笑)」(山之内)
完成したのは、計算と偶然の融合が笑いを誘う30秒映像。
「たとえばラストシーンは、撮影当日に予定外の雨が降ったことで生まれました。撮影が一時中断し、出演者たちが次の指示を待っている。その待機中の自然な様子を撮影したんです」(酒井さん)
「あのリラックスした“素”の表情は、演技している場面と組み合わせることで、おもしろさが際立つと思いました。絵コンテがないからこそ起きた化学反応ですね」(山之内さん)

