家のこと、農業のこと、食べ物のこと
「毎日ね、がんばって上るんです。大変な山道だけれど、上ったら別世界!」
そういって案内されたのは、夫妻のご自宅。お店からほど近く、舗装のされていない、山を分け入っていくような小道を10分ほど上ってたどり着いた先には、緑に覆われ、きれいに手入れされた古民家が。必然的ともいえる不思議なご縁があり、約12年前から住んでいるそう。
自宅からさらに傾斜を上ったところにある畑では、自然農法の野菜づくりに取り組んでいます。とくに東日本大震災以降は、自分たちの食べ物は自分たちでなんとかしなければ、と本格的に力を入れ始めたのだとか。
今年に限っては、畑のメンテナンスで作物は育てていませんでしたが、昨年のこぼれ種から自然と育った、濃厚な味わいのプチトマトや、力強く鮮烈な香りを放つハーブ類が、たくましく茂っていました。
自然と一体となっている暮らし。家のトイレは、いまでは珍しくなりつつある汲み取り式で、しかも、バキュームカーが入れない山奥にあるため、汲み取りは自分たちで行うといいます。
「畑をやろうと思っていたから、ちょうどいいと思って。森林組合からもらってきたおがくずをトイレの中に入れておくと、発酵して、臭いも少ないし、汲み取りもそんなに大変じゃないの」(智子さん)
ところで、マーカスさんはニューヨーク出身。世界的な大都市に生まれた彼が、どうして自然の中での暮らしを選んだのでしょうか?
「ニューヨークも好きだよ。毎日アクティビティがあるから飽きないけれど、暮らしていくにはお金がかかるし、それに、何のために働いているかを考えたんだ。出た答えは、やっぱりスローライフだった」(マーカスさん)
東京で広告業界に身を置いていた智子さんは、退職と同時に渡米。知人を通して知り合ったふたりは、バックパッカーとして世界中を旅したこともあったそう。最終的には日本へ居住地を求め、国内の津々浦々を巡り、到達したのが佐渡でした。
当時から太鼓芸能集団〈鼓童〉が活躍し、外国でもよく知られていた佐渡。
「世界中の人が鼓童を観にきていて、インターナショナルな島だと感じたよ。ここなら海外の情報も入るし、子どもを育てる環境としてもいいと思ったんだ」(マーカスさん)
もちろん智子さんも佐渡に魅了され――
「佐渡に来たとき、自然が本当に美しいと思ったんです。緑が生き生きして、花の色も鮮明で、すごくワクワクして。私、いままでこんなの見たことあっただろうか……って。全国回ったけれど、佐渡は格別だったの」(智子さん)
島ならではの平和な環境と、季節の野菜や新鮮な魚が、都会では考えられないような値段で手に入る佐渡。「そんなにお金いらない!」とマーカスさん。
「でも、時には海外に行ってゆっくりして、料理を食べて、アイデアをゲットして。やっぱり生きていくにはアイデアが大事。世界を回ったら、違う目でいろいろなものが見えるよね」
いくら佐渡が好きでも、ときどきは出ないと! と笑いあう夫妻でした。