移住して約30年。新しい試みと、佐渡への思い
本業のパン屋以外にも、新しい取り組みを始めているおふたり。自宅から少し離れた相川というエリアで、明治時代に建てられた町家を借り受け、ゆくゆくはさまざまな人やモノが集まるシェアスペースに、と考えているそう。
「どういうふうに使うかは、まだ考えているところ。でも、ここはこう使うってはじめから決めるんじゃなくて、そこで時間を費やしてみて初めてできることがあると思っているんです」(智子さん)
いまは台所や床などを友人たちと一緒に手をかけて整えている最中。今年中にはある程度かたちにして、徐々に公開していく予定とのこと。
「この町家みたいに、佐渡には古くていいモノがたくさん残っているんです。佐渡に住む方にも、それを生かすような動きをこれからとっていってほしいなって思います。車社会でありながら、歩きたくなるようなまち並みが理想ですね」(智子さん)
日本各地同様、過疎化が進む佐渡。ですが夫妻は、時々帰省する元島民に、こんなふうに声をかけます。
「私たち、『早く佐渡に帰っていらっしゃい』って言うの。楽しいし、やることいっぱいあるよ、って。みんな『働き口ないから……』って言うけれど、田舎暮らしは忙しくて暇なんてないのよ。1日24時間じゃ足りないもの!」(智子さん)
また、自分たちの暮らす地域のすばらしさを認識し、子どもたちにも伝えていかなければいけないのでは、と智子さん。その記憶は、故郷を出たあとにもきっと頭の片隅に残り、その記憶こそがいつかふるさとへ帰ろう、という思いにさせるのかもしれません。
「もちろん外の世界を見るのも大切。でも、『いつでも戻ってきていいよ』って間口は開けておかないとね」(智子さん)
佐渡に移住して約30年。その年月のなかで夫妻が出した答えは、先の生活をどう捉え、この先の人生のポイントをどこに置くか。それによって、どんな暮らしをしたいかが見えてくるといいます。
「物質的なものではなくて、もう少し精神的な豊かさを求めるなら、佐渡という場所はもってこいかもしれないですね。もし移住したいと思う人がいるなら、あれもこれもやりたい! と思って来るよりも、とりあえず来てみる。季節労働とか、できる仕事からやってみるというのもいいし。そこで人間関係も生まれたら、なんだかんだと島の人は放っておかないから。そういう人情の厚いところだと思う、佐渡って」
そんな智子さんの言葉に続いて、「考えすぎると何もできない。やってみると大抵のことは思ったより悪くないよ!」とマーカスさん。
自分たちがそうであったし、自分たちもそうしたい。自らの経験をもって発せられる言葉は、とても力強く、温かく、「無理なんてしなくていいんじゃない?」と安心させるような包容力がありました。
自分たちがやりたいことを、自分たちのペースで、めいっぱい楽しむマーカスさんと智子さん夫妻。たった数時間前に会ったばかりなのに、以前からの知り合いのように、温かく包みこんでくれるおおらかさ。ぜひT&M Bread Delivery SADO Islandを訪ね、おふたりの魅力に触れてみては?
Information
Profile マーカス・ソト&山崎智子
ニューヨーク出身のマーカスさんと、島根県出雲出身の智子さん夫妻。1980年頃にニューヨークで知り合ったふたりは、当時大流行していたHIVの現状や、HIV患者が実践するマクロビオティック療法を目の当たりにし、自然に寄り添ったライフスタイル、食、パーマカルチャーに関心を持つ。約30年前に佐渡へ移住し、4人の子どもを育てながら天然酵母にこだわったパン屋〈T&M Bread Delivery SADO Island〉をスタート。佐渡を拠点に日本中のイベントに参加しながらパンやお菓子を提供している。
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credit text:林貴代子 photo:ただ(ゆかい)