新潟のつかいかた

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佐渡で出合った“和太鼓”に
運命を感じて。
〈鼓童〉スタッフ
ナタリー・ホンメルさん Posted | 2026/01/16

大都市・ベルリンから、
大自然と多様な文化が息づく島・佐渡へ

新潟港からジェットフォイルに乗船し、約1時間で到着する「佐渡島」。深い藍色をたたえて透き通る海、世界文化遺産に登録された金山、長い歴史が育んだ島独特の文化、今も残る昔ながらの漁村、薄紅色の羽をひるがえして飛ぶトキ、そして、ふと島であることを忘れてしまうような栄えた中心市街地。さまざまな表情を見せるこの島は多くの人を魅了し、近年は佐渡へ移住する人も増加しています。

ドイツ・ベルリンで生まれ、現在佐渡で暮らすナタリー・ホンメルさんもそのひとり。佐渡を拠点に、伝統的かつ現代への再創造を試みる音楽芸能を展開する太鼓芸能集団〈鼓童〉のスタッフとして働きながら、暮らしのなかで出合った佐渡の文化とその魅力を国内外に発信しています。

ところで、こんな素朴な疑問が湧いてくる人もいるはず。ナタリーさんはなぜ日本に興味を持ち、佐渡での暮らしを選んだのでしょうか?

鬼面を手にするナタリー・ホンメルさん
ナタリー・ホンメルさん。手に持つ鬼面は自作したもの!? 詳しくはPage2にて。(photo:山尾信一)

漫画、漢字ひらがな、八百万の神。
日本の文化に魅せられて

ナタリーさんが日本に興味を持ったのは子どもの頃。ヨーロッパのコミックとはスタイルが異なる日本の漫画に惹き込まれたとともに、イラストに添えられた漢字・ひらがな・カタカナの美しさにも魅了されたといいます。

「漫画を通じて日本の文化に触れるなかで、日本古来の信仰にも興味が湧きました。森の中にぽつんと佇む神社の神聖な雰囲気とか、木や石や植物などにも神さまが宿るという“八百万の神”といった思想にも惹かれて。いつか日本の神社や寺院などを訪ねてみたい、と思うようになりました」

14歳になると書道のレッスンを始めたり、日本のロックミュージックに親しんだりと、ベルリンにいながらさまざまなジャパニーズカルチャーに触れてきたナタリーさん。大学では日本学を専攻。その後、身につけた日本語をさらに上達させたいとワーキングホリデー制度を活用し、2019年に来日しました。

「東京にしばらく滞在して、最初にオファーがあったのが〈佐渡観光交流機構〉の仕事。佐渡のことを調べてみると、自然、歴史、文化、どれもが魅力的に感じました。……ただ、ベルリンの大都会育ちなので、暮らしの利便性だったり、人口、特に若者の少なさは心配で。でも、そのときはほかの選択肢もなくて『よし、行ってみよう!』と佐渡へ渡ることを決意しました」

どちらかといえば成り行きですね、と笑いながら流暢な日本語で話すナタリーさん。成り行きだったとしても、ベルリンとも東京とも異なる多様な文化が息づき、美しい自然に包まれたこの島にどんどん惹き込まれていくことになります。

トークイベントで登壇中のナタリーさん
2025年11月17日(月)、東京・銀座にある新潟のアンテナショップ〈THE NIIGATA〉で行われたトークイベント「-世界遺産登録1年- 文化とともに暮らす島・佐渡」に登壇したナタリーさん。仕事や暮らしのなかで感じてきた佐渡の文化とその魅力について語りました。(photo:山尾信一)

佐渡の魅力を伝えるには。
ナタリーさん独自のツアーアテンド

〈佐渡観光交流機構〉に就職したナタリーさんは、海外向けの情報発信、海外ツアー客アテンド、海外撮影チームのサポート業務などに携わります。

現地視察、情報発信用の撮影、実際のツアー客アテンドなど、佐渡の有名観光スポットから穴場までさまざまに巡り、そのなかで出会う島民たちとの交流を重ねてきました。

「どの方も佐渡や自分の仕事に強い情熱を持っていて。『多くの人に佐渡のすばらしさを知ってもらいたい』と、私たちの活動に協力してくれました」

そうした人々の思いを知ったナタリーさんは、ツアー客を各スポットに案内するだけでなく、佐渡を愛してやまない島民とも引き合わせ、交流を通じてより佐渡の魅力を感じてもらえるようなガイドを行っていきます。

「はんぎり」と背中に書かれた法被を着た〈宿根木のたらい舟〉6人の後ろ姿
仕事のなかで出会った〈宿根木のたらい舟〉のスタッフたち。

「私の大好きな場所のひとつに〈宿根木のたらい舟〉があるんです。そこの運営者は自分でたらい舟を制作していて、その工房を観光客にひらいたり、自作の舟を自ら漕いで案内したり。ある時期は岩場にかがり火を焚いて、幻想的な雰囲気のなかで海に出るナイトツアーなども行っています」

闇夜が迫る穏やかな水面を進むたらい舟の周りには、青白い光を放つ夜光虫が出現することも。その神秘的な光景に「ツアー客のみなさん、私が初めて見たときと同じ反応で、すごく感動してくれました」と笑顔を見せます。

岩場にかがり火が焚かれたナイトツアーの様子を上空から
かがり火を頼りに、たらい舟で海に漕ぎだす宿根木のナイトツアーは、8~10月頃に開催。

そうした日々のなかで、佐渡の多様な文化を深く知り、より愛着を抱くようになったナタリーさん。ワーキングホリデーのビザ有効期間は1年でしたが、新型コロナウイルス蔓延の影響もあり帰国をとりやめ、就労ビザを取得。そのまま佐渡に残ることを決心しました。

「実はもっと佐渡にいたかったんです(笑)」と本音を語ってくれました。

面をかぶった2人の鬼と太鼓を叩く人、ナタリーさんが並んでいる

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